第四章 ギルド連合VSモンスター軍団激突
ドタバタな日々
脱衣所で着替えを終え、いつもの様にエミルに体と髪を洗ってもらって浴槽に入る。だが、今回はいつもとは明らかに違う。
浴槽に肩まで浸かりながら、星は気は気でない雰囲気を素肌で感じていた。
(どうしてこうなったんだろう……)
そんな考えだけが頭の中を駆け巡る。
だが、そう感じているのも無理はない。何故なら、浴槽に浸かった星を挟むようにして、ライラとエミルがいがみ合っていたからだ。
本来なら心落ち着く空間のはずの浴室なのだが、こうなると、窮屈な個室に閉じ込められたような変な感覚に襲われる。
そして問題はこの2人だけではなく……。
「――マスターと家族と言っていましたが、本当のところはどうなんですか?」
紅蓮が美しくしなやかな銀色の髪を丁寧に洗いながら静かに尋ねた。
「――それをあなたに話す必要を、俺は感じないですね」
その質問に、スポンジで体を洗うカレンも素っ気なく返す。
互いに全身から嫌悪感を滲ませている2人は淡々と手を動かし、視線を合わせることもない。
紅蓮は不機嫌そうな声で吐き捨てるように呟く。
「……そうですか」
「……そうです」
お互いにそれ以上の会話はなかった。
不機嫌そうに隣り合わせで、互いに黙々と体と髪の毛を洗っている。こんな感じで洗い場では、カレンと紅蓮が険悪なムードを醸し出していた。
正直、誰もがここまでギスギスした空気の中で入浴をしていたくないというのが本音だろう……。
(……気まずい。早く出たいなぁ……)
星がそんな事を考えていると、人間モードになっているレイニールが寄ってくる。
以前のお風呂での飛び込み事件もあり。レイニールはお風呂の時だけは、金髪ツインテールの美少女の状態をエミルに強要されているのだ……。
まあ、レイニールも小型ドラゴンモードよりもこちらのモードの方がいいらしい。
理由は鱗に覆われている小さいドラゴンの姿よりも、人間の姿の方が体にお湯が触れる感覚が気持ちいいようだ――。
どちらにしても、レイニールはお風呂でのあの一件以来、エミルには絶対服従の状態が続いている。
あの事件の時も星が見ていないところで、トラウマになるようなことがあったのだろう。
そんなことよりも、さすがにレイニールもこの気まずい空気は感じ取っているようで、複雑そうな顔をしながら歩いている。
レイニールは星の目の前までくると、言い難そうに小さく呟く。
「なあ、主。この状態は何なのだ?」
「……分からないよ。私も困ってるし……」
そう告げたレイニールは、エリエの方を見た。
そこではいつもと変わらずエリエとミレイニがじゃれ合っている。まあ、それも一方的にミレイニがちょっかいを出しているだけなのだが……。
エミルとライラから、だいぶ離れた場所でお湯に浸かっていた。
これも2人をなるべく刺激しない為と、最悪は安全に離脱できるようにというエリエの考えがあってのことなのだろうが、ミレイニは全くこの空気を感じていないのか、エリエの後ろから抱きつく様なかたちでミレイニは胸元に手を伸ばしている。
「おぉ~。エリエのおっぱいは柔らかいし~」
「ちょっ! なっ、なに勝手に……触ってるのよ~」
頬を赤く染めながら、後ろからプニプニと揉んでいるミレイニにエリエが声を上げる。
だが、ミレイニはそんなことをお構いなしに、興味津々な様子で確かめる様に手を動かしている。年頃の女の子としては、自分のとの違いがどうしても気になるものなのだろう。
その手付きはいやらしいという感じはない。ただ、強引であることは間違いない……。
ミレイニは「やめなさい」と言うエリエのその言葉が聞こえていないのか、夢中で胸を揉みしだき「おぉ~」と声を上げていると、我慢しきれずにエリエが声を荒らげた。
「いい加減にしなさいって……言ってるでしょ!!」
エリエはミレイニの一瞬の隙を突いて背後に回ると、今度はお返しとばかりに脇の下をくすぐり返した。
その場で脇を捕まれたことに驚いて少し飛び上がると、ミレイニは大声で笑い出し体を捻らせる。
「あはははっ! だ、だめだし! くすぐった……あははははっ!!」
「ほれほれ~。どうだ~」
まるで子供の様にはしゃぐエリエ達を見て、さすがに目に余ったのかエミルが大きなため息を漏らすと。
「こら! お風呂で遊ぶんじゃありません!」
「――あら~。いいじゃな~い。賑やかで♪」
声を荒らげたエミルの背後に、いつの間にか移動したライラがエミルの両腕をがっしりと掴まえた。
装備を外しステータスに違いのない今の状況下では、お互いの力が均衡していてエミルも微動だにできない。だが、その瞳には明らかに嫌悪感とライラへの殺意に満ち満ちているのは確かだ――。
しかし、殺意を向けられている当の本人は満面の笑みで星とレイニールに向かって楽しそうに言った。
「ほら! 星ちゃん。エミルの張りのあるおっきなおっぱいが触り放題よ~♪」
「うわぁ~」
頬を赤らめながらも、それを羨望の眼差しで見つめる星の瞳が吸い込まれるように見つめている。
もうこれは理屈ではなく、人間の本能というものかもしれない。
自分とは明らかに違うエミルの身体つきに星も興味津々だ……するとライラが悪魔的な笑みを浮かべ、腕に回していた自分の腕を更に食い込ませ、手の平をエミルの後頭部を押さえるようにして強制的に前屈みにさせると。その直後、星の目の前には大きな2つの膨らみが大きく揺れた。
釘付けになって離れない星の熱い視線を受け、なんとかライラの腕を振り解こうとし動いていたエミルが叫ぶ。
「さあ、これでエミルは完全に動けないわよ~。私が押さえているうちに!」
「ダメよ。星ちゃん! 悪い大人の言う事を聞いたら!」
「…………」
無言のままエミルの胸を見つめている星。
星は困惑していた。もちろんダメなことは分かっている。分かっているのだが……。
何度か布越しに触ったことはあるが、直に触ったことなどない。それも寝ている間に無理やり押し付けられた時に触ったくらいだ。
もちろん。ちょっとは直で触ってみたいと思っていたのは事実だろう。
自分のとは比べ物にならない別次元の物が、今目の前でまるで誘っているかのように上下左右に揺れている。
それを見つめている星の触ってみたいという思いは爆発寸前だ――だが、触ったらいけないと止める自分も居る。
(……触ってみたい。でも……)
その直後、心の中で葛藤していた星の耳に、ライラが悪魔の様な声が飛び込んできた。
「触ったら気持いいわよ~。まるで、マシュマロみたいで……」
「……マシュマロ」
ライラの口にした『マシュマロ』と言う言葉に、星は思わず生唾を呑み込んだ。
頭の中では触りたいという思いと、触ってはいけないという思いが交互に押し寄せてくる。
だが、やはり触ってみたいという考えが勝ったのか、星はゆっくりと手を伸ばした直後、サウナに入っていたイシェルがライラの背後に立っていた。
おそらく。エミルの嫌がる声を聞いて大好きなサウナを途中で切り上げてきたのだろう。その顔は怒りで引き攣り、肩は小刻みに震えていた。彼女のその怒りに満ちた瞳に、星の伸ばしていた手が止まった。
イシェルは強く握った拳を大きく掲げ、ライラの頭目掛け思い切り振り下ろす。しかしその瞬間。ライラの瞳が一瞬だけ光を放ち、瞬時にその場から姿を消した。
もちろん。彼女はテレポートしたわけではない。固有スキルは星の『ソードマスターオーバーレイ』の効果で24時間は使用できない。ただ、消えた様に素早く移動しただけだ……。
振り下ろしたイシェルの拳は空を切ると、今度は背後からライラの笑い声が響く。
「あはっはっはっはっ!」
人をバカにする様に瞳に涙を浮かべ、イシェルを指差して笑っているライラの様子に、イシェルの方からブチッ!という血管が切れる音が聞こえた。
無情にも空を切った拳を握り締め、俯いていた彼女は静かに、しかし殺気に満ちた声音で呟く。
「……殺してやる。絶対に許さへん!!」
なおもお腹を抱えて笑っているライラに、イシェルは殺意を剥き出しにした瞳を向け全力で駆け出す。
それを見て、さすがにやばいと感じたのか、ライラは勢い良く走って逃げ出した。
楽しそうに逃げるライラを鬼の様な形相で拳を振り上げ追い掛けるイシェル。
浴室内を走り回る2人を見て、エミルが呆れ顔で星の方へとやってくる。
「……はぁ~、全く。困ったものね」
「そうですね」
ため息混じりでそう呟くエミルに、星が苦笑いで返すと、エミルはにやっと悪戯な笑みを浮かべながら星の耳元でささやく。
「……さっき。星ちゃんも、私の胸を触りたそうにしてたじゃない」
「――ッ!?」
星はその言葉に驚き、勢い良くお湯から上がると、両手をブンブンと振って全力で言い訳をする。
「ちっ、違うんです! さっきのはちょっと興味があって……って、違います。とにかく違うんです!!」
顔を耳まで真っ赤に染めながら、星が必死に弁解していると、エミルはくすっと笑みをこぼす。
その後、ゆっくりと湯船から立ち上がったエミルが膝を折って星と視線を合わせる。エミルの瞳に星が恥ずかしくなって肩をすぼめていると、そんな星にエミルが微笑みながら告げた。
「いいのよ? 私も星ちゃんくらいの頃は興味あったもの、普通なことだわ。良かったら触ってみる?」
「……えっ? いいんですかッ!?」
「ええ、どうぞ?」
微笑みを浮かべ、胸を寄せる様にして優しく微笑むエミル。
だが、いざ触っていいと本人の許可を得ると、何故か先程以上に物怖じしてしまう。生唾を呑んだ星は、エミルの胸に恐る恐る手を伸ばす。
「……じゃあ、失礼します」
何故かかしこまって軽くお辞儀をすると、星の指先がちょこんとエミルの胸に当たったところですぐに手を引っ込めた。
星は引っ込めた手をわきわきさせながら感動した様子で、瞳をキラキラさせている。
これで満足したのか、指先に触れたエミルの胸の感触と自分の胸を比べるように揉んでいる。
その様子を見ていたエミルはくすっと微笑みを浮かべると、星の頭を優しく撫でると。
「星ちゃんは可愛いわねぇ~。もっとしっかり触ってもいいのに~」
「――そうだよ~。エミル姉の胸は皆のものなんだから、遠慮することないのに~」
そのエリエの声が聞こえた時には、彼女の手は後ろからエミルの大きな胸をがっしりと握り締めていた。
瞳を閉じてその感触を確かめるように、エリエの手に収まらないほどの豊満な胸を掴んで放さない。
「あぁ~。この両手で収まり切らないボリューム……安心するなぁ~」
「…………」
手をわきわきさせながら、染み染みと頷いているエリエ。
それとは対照的にエミルは頬を赤く染めると、無言のまま俯いていた。その直後、いつまでもエミルがわきわきと手を動かしていると、体を震わせながらエミルが眉をピクピクさせ、拳を固め始めた。
次に何が起こるのかが容易に想像できた星があたふたしていると、予想通りその拳がエリエの脳天を直撃する。
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