ダークブレット3

 エミルは男との距離を素早く詰めると、男との戦闘の中で彼の右足を軽く傷つけ、素早く距離を取った。 

 彼女としては、星の右足を傷付けたことへの軽い仕返し……っと言ったところなのだろう。


 男は一瞬体制を崩したが、すぐに立て直し悔しそうに歯を噛み締めエミルを睨む。


「――くっ! やりやがったな。このくそ女!」 


 そう叫んだ男を余所に、エミルは巻物を手に持つと次のドラゴンを召喚する。


「特別に私のとっておきを見せてあげる! いらっしゃい。リントヴルム!!」


 エミルがそう言って笛を吹くと煙と共にとても巨大なドラゴンが現れた。

 その体長は軽く40m以上あり、太陽をも覆い隠すほどの大きさで、体全体を白くキラキラと光り輝く鱗に覆われていた。


 ドラゴンの全身から漂わせる威風堂々たる姿には、どこか神々しいものを感じ取れるほどだ――。


 天に向かってリントヴルムが咆哮を上げると、辺りの廃墟と化した建物と大気を大きく震わせた。


「そ、そんな……バカな……嘘だろ!?」


 その姿に恐れ慄き、剣を持っている男の顔から血の気が引いていき、完全に戦意を失った男は剣を投げ捨てた。

 そんな相棒の姿に、エルフの男が「どうした?」と不思議そうに尋ねた。


 男は震える体を必死に抑え、困惑した表情を浮かべる仲間にその重い口を開く。


「あの女は……ドラゴン使いのエミルだ!」

「ドラゴン使いのエミル?」


 恐れ慄いている男とは対照的に、エルフの男はなぜ相方が怯えているのかが分からないのか、不思議そうに首を傾げている。


「お前は知らないかもしれないが、あいつは――いや、あいつらは……フリーダムの中のダンジョンでもクリア不可能と言われた。【悪魔の山――デーモンズマウンテン】をクリアした伝説のギルドのメンバーの1人。しかも、大会連続優勝記録を更新し続けている。その通り名は『白い閃光』だ!!」

「なに!? 『白い閃光』だと!!」


 それを聞いたエルフの男は慌てて、その場を立ち去ろうと走り出す。


 直ぐ様その後を追い掛けて走り出す男、無防備にも背中を見せつつ彼等は全力疾走する。

 しかし、そんな2人をエミルが逃すわけもなく――。


「――リントヴルム!」


 エミルの指示によって、白いドラゴンが男達の行く手を阻む。


 そうエミルが『白い閃光』と呼ばれている理由は、白いドラゴンを使っているからだけではない。


「逃げようたってそうはいかないわよ! PVPの利点――あなた達は嫌というほど知ってるわよね?」


 竜の背中に乗ったエミルがそう言って悪意に満ちた表情でにっこりと微笑むのを見て、男達はガクガクと震え出した。


 そう。その理由は彼女がリントヴルムを出して戦う時は、決まって出す技があるのだ――。


「――放て! リントヴルム全てを灰に変えよ! ノヴァフレア!!」


 エミルの掛け声と共に、白いドラゴンが大きな口を開けた次の瞬間、白い炎が勢い良く逃げる2人に容赦なく噴射された。


 ――ぎゃあああああああああああああああッ!!


 炎に包まれた2人の男はけたたましい叫び声を上げたかと思うと、男達は真っ黒に焦げてその場に崩れ落ちた。

 彼女が『白い閃光』と呼ばれる由縁は、この技の要因が大きいと言えるだろう。


 エミルは慌てて竜の背中から飛び降りると、星の元へ駆け寄って行く。


「星ちゃん。大丈夫――そうじゃないわね……」


 エミルは星を抱き起こしたが、星は苦しそうに肩で息をしていて顔色も悪く、ぐったりしている。


 エミルが矢の刺さっている右足を見ると、傷口からの出血などはないものの。星の表情がその苦痛の強烈さを物語っていた。


(とりあえず。この矢を抜かないと……)


 エミルはちらっと刺さっている矢に目をやり。星の体を自分に凭れ掛からせる様に抱くと、徐ろに手を伸ばし刺さっている矢を手で握る。


 次に何をするかを感じ取ったのか、星は不安そうな瞳でエミルの顔を見た。


「星ちゃん。凄く痛いと思うけど、ちょっとだけ我慢してね……」

「はぁ……はぁ……はぁ……はい」


 エミルが星の耳元で小さな声で告げると、星は返事をして無理に笑って見せた。強がってはいるが、星の表情からはその矢が起こす激痛が垣間見えている。


 剣で鏃を素早く切り落とすと、星の足から矢をゆっくりと抜きにかかった。


「――うぅッ!! あああああああああああああああッ!!」


 その瞬間、激痛のあまりに星が大声で悲鳴を上げた。悲鳴を聞いたエミルは、慌てて矢から手を放す。


 そして、眉をひそめながら星の顔を見つめる。


「ご、ごめんなさい! ……痛かった?」

「はぁ……はぁ……いえ……ひと思いに……ぬいて……ください……」

「で、でも……」


 額に大粒の汗を掻き、顔を青白くしながら告げた星の申し出に、エミルが困惑した様子で渋い顔をする。


 星は「大丈夫ですから」と微笑むと覚悟を決めたようにエミルの体にしっかりとしがみつく。


 自分の体にしっかりとしがみついて、強く瞼を閉じている星の姿にエミルも覚悟を決めたのか、星の太股に刺さっている矢を掴んだ。 

 その瞬間、星の顔が苦痛に歪む。


「うあッ! あうぅぅぅ……」


 歯を食いしばり、必死に痛みに耐えている星。


 エミルが辛そうにな星に声を掛けようと口を開くと「大丈夫ですから……」と呟き、星はにこっとぎこちなく笑う。

 しかし、その言葉とは裏腹に、星の体は小刻みに震え、エミルの体を痛いくらい締め付けてくる。


 その様子からは、とても大丈夫そうには見えないのだが、おそらくエミルを心配させないようにという彼女なりの配慮なのだろうが、それが余計に痛々しく感じる。

 時間をかけてゆっくりと矢を抜き取ると、ほっとしたのか強張っていた星の体は脱力し、エミルの胸に完全に身を任せる。


 星は額から大量の汗を流しながら、肩で小刻みに呼吸をしている。


「はぁ……はぁ……はぁ……エミルさん……ごめんなさい」


 その弱々しい星の言葉に、エミルの瞳から涙が溢れ出した。


「ううん。謝らなくていいのよ? 痛かったのに……よく頑張ったわね……」


 エミルはそう言って星の頭を優しく撫でると、星をストーンドラゴンの側に残し、ゆっくりと立ち上がった。


 それと同時に、底知れない怒りが込み上げてきて、エミルの精神を支配していく。

 どうしても星をこんな目に合わせたあの2人組が許せない。


 だが、星から矢を抜き取った時にもうバトルは終了しており、その戦闘の疲労は残るもののHPは全回復する。


 それはドラゴンの一撃を受けて黒焦げになった男達も元に戻るということだ――エミルが戦闘に参加したことによって勝負が決した【OVERKILL】状態になっていた所に、2対2に更新されシステムがバグを起こしていた。

 

 しかし、バグを起こしていた要因の矢が星の足から抜き取られ、システムが正常に戻ったのだ。

 システムが勝負を正常に終わらせた直後……。


「全く、死ぬかと思った……」

「いや、早くずらからないと、本当に殺されかねんぞ?」

「そ、そうだな! 逃げよう!!」


 元の姿に戻りこそこそと話している男達の背後からドンッ!という大きな音が聞こえた。


 2人が恐る恐る振り返ると、そこにはリントヴルムの首に乗ったエミルが、鬼の様な形相で男達を睨んでいた。


「……あなた達だけは絶対に許さない……許さないわ!! リント焼き尽くしなさい。骨も残らないくらいに! ノヴァフレア!!」


 エミルがそう命じると、再びリントヴルムの口から白い炎が噴射され、2人は断末魔の叫びとともにその場に倒れた。


 だが、バトル解決後。すぐに男達のHPは復活し、黒焦げになった男達の体も元に戻る。


 その男達を感情のない瞳で見たエミルが、右手を振り上げてもう一度攻撃命令を出そうとする。

 それを見て、慌てて男が口を開く。


「お、おい。ちょっと待ってくれよ……もう良いだろ? 謝るから、許してくれよ……なっ?」


 男がその場に土下座して、必死に命乞いを始めた。だが、頭の中が沸騰するほど激怒している今のエミルに、そんな言葉が通じるはずもない。

 

 エミルは地面に降りて、土下座する男達を見下すように冷たい目で睨むと、吐き捨てるように言った。


「――謝るというなら、時間を戻して。この子に手を出す前の自分達に言うことね!」


 彼等にエミルの怒りは収まらず、怯えている男達に容赦なく攻撃を繰り返す。

 そんな光景が5回ほど繰り返されると、もう男達ももう諦めたのか、抵抗する素振りすら見せなくなった。


 戦意を完全に喪失した彼等に再び攻撃する為、リントヴルムに命令をしようと腕を振り上げると、エミルの腕を星が引っ張って止める。


 エミルは星のその行動に驚いたように目を丸くしている。


「……えっ? 星ちゃん!?」

「もう……いいんです……やめて、あげて下さい……」

「でも……こいつらはあなたに酷い事をしたのよ? これくらいじゃ、私の気がすまないわ!」


 そう言って男達を鋭く睨んだ。男達は怯えきった表情で抱き合っている。

 すると、その間を遮る様に星が両手を広げて立ちはだかった。


 エミルは困惑した様子でそんな彼女の顔を見つめている。だが、すぐにその視線は星の足へと向けられた。

 足に受けた傷口はくっきりと残り。星もその痛めた足を軽く上げる様にして立っている。


 少し体を押せば倒れてしまいそうなほど、青ざめた彼女の額からは大粒の汗が流れ落ち、地面には丸く水滴の後が残っている。

 その姿に負けたエミルが「分かったわ」とため息を漏らした。


 怒りを抑えられずに、蔑んだ瞳で彼等を睨みつけているいるエミルとは対照的に、星は優しく微笑みを浮かべた。


「それでも……悪気が……あったわけじゃ、ないかも……しれないですし……」

「星ちゃん。あなた……」


 星はふらふらと体を揺らしながら、ゆっくりと2人の男の前に歩いていく。


 そして、男達の前で優しい声で告げる。


「もう……こんな事したらだめですよ?」  


 星のその言葉に、ほっとした男達は立ち上がり。何度も頭を下げながら、バツが悪そうに去っていった。


 星はにっこりと微笑みながら、そんな2人の後ろ姿を見送っている。

 そんな星の姿を見て、エミルが少し不満そうに口を開く。


「星ちゃん。少し甘すぎるわよ……本当にこれで良かったの?」

「……はい。人が傷付くのは見たくないから……」


 星はそう言ってエミルの顔を見上げ、にっこりと微笑んだ。

 エミルは少し呆れたように「そう……」と呟くと、星を抱きかかえリントヴルムの背に飛び乗った。


 2人を乗せたリントヴルムは翼を広げ空に飛び上がると、そのままワープゾーンを利用せずにエミルの城へと向かって飛んだ。


                

                * * *



 廃墟とかした建物の窓から白いドラゴンが飛び立つのを見上げ、笑みを浮かべる女性の姿があった。


「――ふふっ、困った子ね。敵の増援が来るのを見抜けないなんて……エミルったら随分と勘が鈍ったようねぇ~」


 その女は先のカールした茶髪のセミロングで茶色い瞳をしていた。その時、怒号が彼女の耳に飛び込んできた。


「調子にのんなよ! このアマ!!」

「……ん?」


 女が振り返ると、背後から彼女の倍はあると思われる男が、彼女の身長ほどの大剣を振り上げ、今まさに襲いかかろうとしていた。


 だが、それに動じることなく、彼女はその攻撃を軽々とかわすと、男に向かって素早く矢を放つ。


「――ぐわッ!!」


 男は声を上げ、そのまま前屈みに倒れて動かなくなる。


「へぇ~。矢が刺さったままでも動けるなんて、なかなか根性があるじゃない。惚れちゃいそう♪」


 女は悪戯な笑みを浮かべると、その男の腕に彫られた刺青を見た。


 そこには頭を撃ち抜かれた骸骨の模様が刻まれている。


「なるほどね。額に銃弾で穴の開いたドクロのマーク――貴方達。ダークブレットね……」

「お、俺達を知ってるのか?」

「ええ、あなた達は有名だもの。PVPによるアイテムの強奪に、狩場の占領……私も良く手合わせしたものよ?」


 そう言って微笑んだ女の顔を見て、男は何かを思い出した様に目を見開いた。


「お、お前は!! あの時の悪魔……」


 そう口走った男の頭を、持っていた弓で思いっきり叩いた。


「――天使よ! 全く。失礼しちゃうわっ!」


 その一撃が決め手になったのか、男は完全に意識を失う。 

 薄暗い建物の中をよく見ると、周りには矢の刺さった男達が10人以上転がっている。


 おそらく、男達に刺さっているのは麻酔矢だろう。大の男が1人の女に身動き1つ取ることもできずに、ただ彼女を恨めしそうな顔で横たわっていた。


「さて、こっちも片付いたし。情報収集に行かないとねぇ~♪」


 上機嫌で通路に転がっている男達を放置したまま、女はスキップをしてその場を去って行く。



               * * *



 ドラゴンの乗り心地が良かったのか疲れたからなのか、気が付くと星はエミルに抱かれながらすやすやと寝息を立てていた。


 自分に凭れ掛かって眠る星を、エミルは優しい眼差しで見下ろしている。


「全く……あんな事があった後に、よく眠れるわね。この子は……」


 エミルは少し呆れたようにため息を漏らすと、優しく星の頭を撫でた。


 透き通った空を進みながら、エミルはふとさっき星が言っていた言葉を思い出す。


「悪気があったわけじゃないかも……っか、はぁ~。どこまでお人好しなのかしらね。この子ったら……」


 ため息混じりにそう呟くと、ゆっくりと風を感じながら城へと向かって進んでいく。

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