第248話・おかしな×ふたり

 家に帰ってからも俺は悩んでいた。

 悩んでいた理由はもちろん、例のるーちゃんと謎の男性が写っていた写真のことだ。何度見返してもこの写真に写る2人は特別な関係に見える。

 お互いの距離感や表情を見る限りでの率直な思いを言うなら、この2人はつき合っているように見える――と言うことだ。

 もしもコレをクリスマスイヴの前に見ていたとしたら、俺は複雑な思いはあったとしてもここまで悩んではいなかっただろう。


「はあっ……」


 この写真を見るまではるーちゃんに告白をしようと考えていたというのに、今ではその考えも下火状態。だってこんな写真を見たら、告白なんてできるはずもないじゃないか。

 しかし誰がなんの目的でこんな物を俺の下駄箱に入れたのかは分からないけど、この写真に写っていることが事実である以上、俺は色々と考えなければいけない。

 ちなみにこの写真に写っていることがなぜ事実と分かるのかと言えば、取材部の部長である四季さん、つまり霧島夜月きりしまよづきにこの写真を見せたからだ。

 なぜ霧島さんにこの写真を見せたのかといえば、この写真が合成である可能性も考えたから。霧島さんならそのへんの誤魔化しやトリックなんかもすぐに看破できそうだし、なによりこのことを誰にも口外しないだろう思ったからだ。

 そして俺の思惑通り、霧島さんは写真の数々を見てすぐにこれが合成などではないと断言した。普通ならその言葉を鵜呑みにはしないだろうけど、あの取材部の霧島さんが言うことなら信用はできる。


「さて……どうしたもんかな……」


 俺がやらなければいけないこと――いや、知らなければならないことは、なにを差し置いても真実を確かめることだろう。そしてそれを知るには直接るーちゃんに話を聞くのが一番だと思うけど、ことはそう単純ではない。

 聞き方一つ間違えば角が立つし、かと言ってこの写真を見せるのもどうかと思う。

 それにしても一番腑に落ちないのはこの写真を撮ったのは誰か、そしてこの写真を俺の下駄箱に入れたのは誰かということだ。おそらくは写真を撮ったのも下駄箱に入れたのも同一人物だとは思うけど、なんの目的があってこんなことをしたのかがさっぱり分からない。

 しかしそれを考えたところで答えがでるわけでもない。だから今考えるべきは自分の気持ちだろうと思う。

 そう思って色々と気持ちの整理をつけようとしたはいいけど、それからしばらくの間はずっと気持ちの整理はつかなかった。


× × × ×


 あの写真を見てから3日が経った。

 そしてあれ以降、俺とるーちゃんは挨拶以外でまともな会話をしていない。なんとなく気まずさで会話ができないでいたからだ。

 それはどうやらるーちゃんにもあるようで、なにか俺を気にしているような素振りを見せることはあったけど、最終的に話しかけてくるようなことはなかった。


「――ねえ龍ちゃん、最近なにかあった?」


 珍しく部活動が休みで一緒に帰っていた茜が、唐突に今までの話題をぶった切ってそんなことを聞いてきた。


「ん? 急になんだよ」

「いや、私の気のせいかもしれないけど、最近ちょっと表情が暗い時があると言うかなんと言うか……なにか悩んでるっぽかったから」


 こういったところは流石幼馴染と言うところだろうか。そういえば茜はいつも俺が深く悩んで居る時にはこうして声をかけてくれていたような気がする。


「……まあ、あると言えばあるかな」

「そっか……私に話せることだったらいつでも聞くからね」


 心配そうな表情を見せたあと、茜はそれを吹き飛ばすような明るい笑顔を見せてそう言ってくれた。

 無理に内容を聞こうとしないところが今の俺にはとてもありがたい。


「ありがとな。話を聞いてほしい時には真っ先に茜に相談するよ」

「うん! この茜ちゃんにドーンと任せてよ! あっ、でもその代わりに相談料として駅前のスイーツ屋さんでチョコパフェを奢ってね」

「はいはい。分かりましたよ」

「やった!」


 にこにこと笑顔の茜を見ていると、少しだけモヤモヤしていた気持ちが楽になった気がした。口では腐れ縁の幼馴染とは言っているけど、俺は茜と幼馴染で本当に良かったと思う――。




 幼馴染の茜からちょっとした癒しをもらった日の夜、俺の携帯にるーちゃんからのメールが届いた。

 内容は“2人で会ってお話がしたい”――ということだった。その内容を見た俺の素直な気持ちを言えば、気まずくて仕方ない――という感じだ。

 だってここ3日間は学園でも挨拶以外でまともに会話もしてなかったし、お互いにお互いを避けている感じがあったから余計に気まずい。そんな状態の2人が会ってまともに話ができるのだろうか……。

 るーちゃんのメールが来てからたっぷり時間を使って悩んだあと、俺は決心をしてそのメールに返信をした。


「よし……」


 送ったメールが送信完了した瞬間に小さく頷きながら言葉を発する。この選択が俺にどんな結果をもたらすのかは分からないけど、今は思ったままに進むしかない。

 ある意味での後悔と恐怖、ある意味での希望を抱きつつ、俺は携帯を握り締めてベッドへ身体全体を預けた。

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