第247話・怪しい×行動
時が経つのは早いもので、今日からいよいよ二年生三学期の始まりだ。
「ほんじゃ行くか」
「うん」
通学準備を済ませた俺と杏子は、まだ寒さ厳しい外へと出て通学路を歩き始めた。
長い休みのあとで向かう学校は本当に憂鬱を感じるけど、こればっかりは学生の
そんな憂鬱を感じながら通学路を歩いていると、少しずつ同じ学園の生徒の姿が見え始める。そしてその姿を見ていると、俺は毎年疑問に思うことがある。
「なあ杏子、女子ってスカートでも平気なのか?」
「ん? 突然どうしたの?」
横に並んで歩いていた杏子へ唐突にそんな質問をすると、杏子は不思議そうな表情を浮かべながらこちらへと顔を向けた。
「いや、毎年冬になると思うんだよ。スカートって寒そうだなーって」
「そりゃあ寒いよ。だからタイツを履いたりして対応するんだから」
「まあそうだよな。そう考えると女子って冬場は可哀相だな」
「確かに寒いのは嫌だけど、私はスカート好きだよ。女の子だーって実感がわくから」
「実感がわくって……そんなことをせんでもお前は十分に可愛い女の子じゃないか」
「……お兄ちゃんてさ、時々ヤバイことをサラッと言うよね」
「ヤバイこと?」
「はあっ……そしてこの鈍感さ。もうここまでくるとどうしようもないね」
杏子は肩をすくめながら顔を前へ向き直す。
どうやら呆れられてしまったらしいが、その理由を追求しようとは思わない。こういったことは初めてではないし、それを聞いてもまともな返答が帰って来たことがないからだ。
――そういえば、るーちゃんに会うのも久しぶりになるよな……。
クリスマスイヴを一緒に過ごしたあの日以来、俺はるーちゃんと会っていない。やったことと言えば年明けに送った“明けおめメール”くらい。
それは自分の中で色々と混乱する想いがあったから――というのもあったけど、実際はどうしていいか分からなかったから――というのが理由としては大きかったからだ。
でもあれからずっと自分のことやるーちゃんのことを考える内に、俺は一つの決断を下すに至った。
それは今日、るーちゃんに俺の想いを伝える――ということ。
「そんじゃまたな」
「うん。また家でねー」
一緒に来た杏子と下駄箱で別れ、自分の上履きがあるロッカーへと向かい靴を履き替える。
――いかん……ちょっと緊張してきた……。
一大決心の末にるーちゃんへ告白しようと思っていたというのに、ここに来てその決心がグラつき始めていた。
普通なら相手が自分のことを好きだと言ってくれているなら、告白の成功は約束されているようなもの。
だけど人ってのは不思議なもので、状況次第では好きなのにその気持ちを受け入れない――いや、好きだからこそ受け入れられないと言うべきなのだろうか。そんな人も居るのは事実で、るーちゃんもそういう人だった。
るーちゃんのそういう優しいところは好きだけど、あの時も自分だけで抱え込んでほしくなかったというのが俺の正直な気持ちだ。
もちろん俺に嫌な思いをさせたくなかったと言うるーちゃんの気持ちは凄く嬉しかったけど、代わりにるーちゃんが苦しむはめになるのは俺としては納得がいかない。
世の中には三人寄れば
だからこそ俺を頼ってほしかった。まあ過ぎ去った過去のことを今更持ち出してもどうしようもないことだけどな。
妙な緊張を感じながら廊下を歩き教室へ入ると、俺の後ろの席に居るるーちゃんが片肘をついて窓外を眺めている姿が見えた。
そしてその姿を見た瞬間、俺の中の緊張が一気に高まっていく。
「お、おはよう」
外を眺めるるーちゃんに挨拶をして鞄を机の上へ置き、冷たくなっている椅子へと座る。
「くっ……」
まるで便座カバーをしていない便座に座ったかのようなヒヤッとした鋭い冷たさに、思わず顔が歪む。
「おはようたっくん」
緊張している俺とは違い、るーちゃんはいつもの柔和な笑顔で挨拶を返してくる。
そのいつもと変わらない態度に安心すると同時に、るーちゃんはあの時のことをどう思っているんだろうか――と、少し不安にもなった。
「き、今日も寒いよね。こんな日は布団から出るのが辛いよ」
「うん、そうだね。私もお布団から出るのが辛かったなあ」
あの告白以降会っていなかったから上手く会話ができるか心配だったけど、るーちゃんの態度が今までと変わらないおかげでなんとか会話ができている。
「あ、あのね、たっくん……ちょっといいかな?」
しかしそんな風に安心したのも束の間。次にるーちゃんが口を開いた時にはその柔和な笑みは消え去っていた。
「ん? なに?」
「えっとあの……ううん、やっぱりなんでもない。ごめんね」
るーちゃんは曇った笑顔を浮かべてそう言うと、急いで席を立って教室を出て行ってしまう。
そんな様子を見ておかしいと思った俺は、次の休み時間にそのことについて聞いてみようと思ったのだけど、るーちゃんは俺が話しかけようとするとその場から逃げるように居なくなってしまい、話を聞くどころではなかった。
× × × ×
「はあっ……」
結局学園に居る間にるーちゃんとしっかり話す機会は訪れず、そのまま放課後を迎えてしまう。
放課後はるーちゃんと話す絶好の機会だったというのに、るーちゃんはホームルームが終わってすぐ、逃げるようにして教室を出て行ってしまった。
俺はどうしたんだろうという不安を抱いたまま、教室を出てとぼとぼと下駄箱へ向かう。
「ん? なんだこりゃ?」
下駄箱に着いて自分の靴が入っている小さなロッカーを開けると、そこには一通の白い封筒が入っていた。
「手紙か?」
希望的観測で言うならラブレターだと思うかもしれないが、ラブレターにしては封筒があまりにも簡素な気がする。
まあラブレターに決まった定義などないのだから、そんな風に思うこと自体が変な話なのかもしれない。
俺はその封筒を鞄に入れ、急いで男子トイレへと向かった。
この場ですぐに確かめたい気持ちもあったけど、さすがにこんな人が多い場所で手紙を見る気にはならない。
一番近い男子トイレへと向かった俺は、誰の目も気にしないですむ個室へと入って早速封筒を開いた。
「なんだこれ……」
封筒の中には数枚の写真が入っていて、そこにはるーちゃんが知らない男の人と一緒に楽しそうな笑顔を浮かべている姿が写っていた。
その楽しそうな笑顔を見ると、この2人がなにか特別な関係に見えてくる。
――どういうことだ? 確かにるーちゃんは俺のことを好きだって言ったよな……?
その意味深な写真を見たこの時の俺に、るーちゃんへのちょっとした疑念が芽生えたのは確かだった。
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