第195話・告白×その心理
制作研究部の活動開始から2週間が経ち、ようやく本格的なゲーム制作へと活動は移り変わろうとしていた。
今までの期間で何回も検討や討論を重ね、ようやくゲームの世界観や内容を統一するに至り、そして今日の制作研究部の集まりで、統一された世界観やキャラクターの関係性を元に、各個人がどのような割り振りで制作に
間違いなくメインのゲームプログラム関連は美月さんが担当することになるだろうけど、美月さんは頑張り屋さんだから、きっとみんなが担当する内容全般に携わってくると思う。
それはそれですべての体験が初めての俺たちにとって嬉しくはあるけど、美月さんが無茶をしないかが心配になる。まあ実際にどうなるかはまだ分からないけど、わくわく半分、不安半分なのは間違いない。
「今までこういう活動をしたことがなかったからでしょうけど、なんだかわくわくしますね。先輩はどうですか?」
二つの長机と数個のパイプ椅子、そしてホワイトボード以外の備品は置いてない簡素な8畳ほどの部室。
放課後のそんな部室の中に居るのは、後輩の篠原愛紗と俺の2人だけ。
「そうだな~、俺もこういう活動をするのは初めてだから、わくわくする気持ちは分かるな。でも、それと同時に不安も大きいけどな。俺にちゃんとできるのかなっ――てさ」
「あっ、それ分かります。私も結構不安ですから」
「だよなあ。こういう制作って、その手の業界目指してる人とかがするもんだと思ってたから、正直今でもやれるのかなって不安になるよな」
「ですよねえ……」
2人しか居ないのをいいことに、俺と愛紗はこの活動における不安ごとをお互いに言い合った。
誤解がないように言うと、俺も愛紗も別にこの制作研究部の活動に不満があるわけじゃない。ただ、どんなことをするにしても、初めての体験と言うのは大きな不安がつきまとう。
だからこれはお互いに不安を言い合い、その不安が自分だけではないのだと、確認して安心するためのものだ。自分の抱える不安が、自分だけではないと分かるのは、なぜかそれだけで安心するものだからな――。
「お待たせしてすみません」
「龍之介くん、篠原さん、待たせてごめんなさい」
俺と愛紗が部室で話をしながら待つこと約30分。ようやく部室の扉が開き、そこから部長の美月さんとまひろが姿を現した。
「気にしないでいいよ。愛紗と喋って待ってたおかげか、大して待ってたって気はしないからさ」
「先輩の言うとおりですよ。私も先輩と話してて、時間が経つのを忘れてましたから、そんなに気にしないで下さい」
俺の言葉に同調の意を示しながら、愛紗はにこやかな笑顔を2人に向ける。
変な話かもしれないけど、俺だけが気にしないでと言うよりは、愛紗もこう言ってくれた方が助かる。
「遅れてごめんなさい!」
愛紗の言葉に2人が感謝の意を示してからパイプ椅子に座ると、今度は勢い良く開けられた引き戸からるーちゃんが入って来た。
こうして息を切らせているところを見ると、よほど急いでここまで来たんだということが分かる。
「お疲れ様、るーちゃん。結構時間かかったみたいだね」
「うん、みんな待たせてごめんね。この学園では初めての二者面談だったから、話しを進めるのに時間がかかっちゃって」
「三年生は進路を決めなきゃいけない時期だしね、仕方ないよ。さあ、とりあえず座って」
「ありがとう、たっくん」
俺は自分が座っていた席をるーちゃんに譲って座ってもらい、他のパイプ椅子を用意してから改めてその椅子に座りなおした。
「あっ、それと途中で水沢さんに会って伝言を頼まれたんだけど、今日はもしかしたらそっちの部活には来れないかも――って言ってたよ」
「ああー、バスケ部は夏のインターハイ地区予選もあるし、それに茜たち三年生にとっては、インターハイに行けるかどうかの最後の挑戦だから仕方ないね」
「そうですね。去年は惜しいところでインターハイ出場を逃しましたから、今年は是非インターハイに行ってもらいたいです。それにせっかく忙しい合間を縫って制作研究部に入ってくれたわけですから、茜さんの負担にもならないようにしないといけませんね」
そう言って新たに“頑張ろう”――みたいな気合を入れる美月さん。その姿はとても頼もしく見えるけど、無理だけはしないようにしてほしいもんだ。
「さて、とりあえず桐生さんは面談があるだろうからいいとして、杏子はなにやってんだろうな? 愛紗、なにか聞いてないか?」
「いえ、私はなにも聞いてませんけど……あっ、でもホームルームが終わったあと、急いで教室を出て行くのは見ましたよ?」
「マジか、それじゃあなんで部室に来ないんだろうな……とりあえず聞いてみるか」
杏子の様子が気になった俺は、制服のワイシャツの胸ポケットから携帯を取り出して電話をかけてみた。
「あれっ?」
電話をかけ始めてすぐ、杏子が携帯の着信音にしている音楽が部室の扉の向こう側から聞こえたきた。
それを聞いて通話をキャンセルすると、扉の向こうで鳴っていた着信音も同時に鳴り止む。
「お兄ちゃん、どうかしたの? 電話なんてかけてきて」
電話が鳴り止んで数秒も経たない内に部室の引き戸が開き、そこから携帯を片手に持った杏子が俺へと視線を向けながら入って来る。
「どうしたじゃないよ杏子、今までなにしてたんだ?」
「ん? 男子から告白されてた」
「「「「「……ええっ!?」」」」」
あまりにも自然にそう言われて若干反応が遅れたけど、そんな俺と同じように、他のみんなもほぼ同時に驚きの声を上げた。
「こここ告白って!? いったい誰が誰にだよ!?」
「えっ? 誰が誰にって……私が男子に告白されたって意味にしか聞こえないと思うんだけど……」
確かに杏子の言うとおり、意味合いとしてはそうとしか取りようがないのだけど、俺は少し混乱していたせいか妙なことを口走っていた。
そして杏子は俺の発言に小首を傾げながら、“なにか変なこと言ったかな?”――みたいな表情を浮かべている。
「それで!? 相手にはなんて返事をしたんだ!?」
俺はパイプ椅子から立ち上がって部室へと入って来た杏子の目の前まで近づくと、両手を両肩に乗せてから回答を迫った。
どこの馬の骨かは分からんが、うちの妹を
「お兄ちゃん落ち着いて。もちろん断ったよ、当たり前じゃない」
「そ、そっか……」
告白を断ったことをなぜ“当たり前”と言ったのかは分からないけど、杏子の返答を聞いた俺は心底ほっとした気持ちだった。
そしてなぜ断ったという言葉を聞いてほっとするのかと言えば、単純に大事な妹を他の野郎に任せるのが嫌だったからかもしれない。
「でも、ちょっと困ってるんだ」
「ん? なにがだ?」
「……実はその告白してきた男子が、『俺は絶対に諦めない』――って言ってるんだよね」
「えっ? でも、ちゃんと断ったんだろ?」
「うん、私には好きな人がいるから――ってちゃんと言ったんだけど、『でもそれって、つき合ってる訳じゃないから、俺にもまだチャンスあるよね!』――とか言って自己完結させてたんだよね……」
杏子は困ったような不安そうなと言った感じの複雑な表情を浮かべ、溜息を吐くように力なくそう言った。
「ああー、なるほどな……」
男子特有――と言うのは言い過ぎだと思うけど、この手の話はわりと耳にすることが多い。確かに相手に好意を持っているなら、相手に恋人が居ない限りはチャンスがあると思いたいのはよく分かる。
しかしこれはあくまでも、相手に対して好意を持っている側だけの想いであり、その想いに対する相手の心中は、ほぼ高確率で“迷惑”なのだ。
もちろん告白されること自体は嬉しいと思ったりはするだろうけど、あまりにもしつこい愛情の押しつけは、相手にとって迷惑極まりないもの。冷静になれば誰でもそういった思考に行き着くとは思うけど、恋は盲目とはよく言ったもので、恋心を抱く人間は、そういった単純なところすら見落としがちになる。
要するにこれは、人は恋愛をすると我がままになる――と言うことなのかもしれない。
「まあ、話としてはよくあることだと思うけど、もしもなにかあればすぐに言って来いよ? 俺がバシッと言ってやるから」
「うん。ありがとう、お兄ちゃん」
「おう、気にすんな」
そう言って不安そうな表情を浮かべる杏子の頭を撫でてやると、俺を見ながら徐々に笑顔を見せてくれた。
そしてそれからしばらくして、桐生さんが部室へと来たところで制作研究部の話し合いが始まり、制作の担当を決めてその日の部活動は解散となった。
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