俺はラブコメがしたいッ！

二年生編・二学期文化祭

第148話・文化祭×催し物

　楽しかった沖縄の修学旅行も終わり、あと１週間もすれば１０月中旬を迎えて我らが花嵐恋（からんこえ）学園は文化祭の準備期間へと突入する。つまりあと１週間の内に文化祭の出し物を決めてしまわないといけないわけだ。

　しかし話し合いを始めてから３日目の放課後になっても、なかなか文化祭でやる出し物が決まらないでいた。

　去年は俺が居たクラスでは和風喫茶、洋風喫茶、ゲーム喫茶と、三つの出し物までは絞られたが、その三つからどれにするかの話し合いがギリギリまで平行線を辿ったのはきつかった。まあ結果として『同じ喫茶店なんだから、全部一緒にやればいいじゃない』――と当時の担任が言った一言により、三つとも混ぜ合わせてやることになったんだが……それならそれでもっと早くそう言ってくれればいいのにと、あの時はそう思ったもんだ。

　でもまあ、あれは出し物が一つじゃないと駄目だという固定概念に囚（とら）われていた俺たちもいけなかったわけだが。

　とりあえず可能な範囲であれば複数の出し物をしても構わないというのは去年に学習済みなので、今回はそのあたりに対して問題が発生することはないだろう。

　しかしそれはあくまでも、出てきた意見が一纏（ひとまと）まりにできればの話である。

　それはつまり、お化け屋敷とたこ焼き屋など、どう考えても組み合わせるのが難しい催し物でない限りは大丈夫ということだ。まあそんな馬鹿な提案をするやつなんて居ないだろうけどさ。

　話し合いの最中の教室の黒板には、白のチョークで書かれた催し物の案が書かれていて、その内容は喫茶店、演劇、合唱、金魚すくい、お好み焼き屋、占いの館など、多くの意見が書かれている。

　その意見の中にはロシアンたこ焼き屋も入っているわけが、この戯（たわ）けた意見を出したのが茜なのは言うまでもないだろう。てか茜のやつ、どんだけ気に入ってんだよ、ロシアンたこ焼き。

　それからあらかた出尽くした案をもとにクラスで多数決を繰り返した結果、催し物の案は喫茶店とお化け屋敷の２つにまで絞られた。

　喫茶店は去年に経験があるから無難だが、正直、冬の時期にお化け屋敷はどうかと思う。それでもまあ、ロシアンたこ焼きをみんなが候補に残さなかったことには拍手を送りたい。

　とりあえず最後の決を取るため、クラス委員長が喫茶店とお化け屋敷のどちらがいいかの多数決を取り始めた。

　当然俺は経験のある喫茶店の方に手を上げた。今更やったこともないお化け屋敷に労力を使う気にはならないからな。

「――あらっ」

　二つの意見の決を取った時、委員長から短くそう言葉が漏れた。

　なぜなら黒板に書かれた正の字は、喫茶店、お化け屋敷共に綺麗に半々に分かれていたからだ。

　とりあえずそれから２回ほど決を取り直したのだが、その結果が変わることはなかった。そしてそこからは、喫茶店派、お化け屋敷派が入り乱れての意見の乱戦状態。

　そんな状況を前にした俺は、去年の悪夢が甦ってくるような感覚だった。

「――はいはーい！」

　いよいよ喫茶店派とお化け屋敷派の論争が激しくなってきた時、前方の出入口近くの席に居る渡が大きく声を上げながら手を上げた。

　渡の能天気かつ明るい声が室内に響くと、論争を繰り広げていたみんなの視線が渡に集まり、室内は論争前の静けさを取り戻す。

「日比野くん、なにか意見でも？」

　静まった機を見計らって委員長が素早くそう尋ねると、渡はスッと席を立ってから口を開いた。

「なんでみんなが揉めてるのかよく分かんないんだけど、喫茶店とお化け屋敷を一緒にやればいいと思いまーす！」

　渡の口から高らかに出て来た意見に、みんなは唖然とした表情をしていた。

　それはそうだろう。そんなことは誰しも一度は考えているだろうから。そもそもそれが可能なら、このように喫茶店派とお化け屋敷派で揉めたりはしないのだ。

「日比野くん、それはちょっと難しいと思うの」

「えっ？　どうして？」

　委員長は不思議そうな表情を浮かべる渡に対し、喫茶店とお化け屋敷を取り混ぜることがなぜ難しいかを説明した。

「――ということなの」

「ふ～ん、なるほどね」

　委員長から話を聞いた渡は、小刻みに頭を上下させながら頷いていた。

「でもさ、ぶっちゃけ喫茶店とお化け屋敷を混ぜるのは不可能じゃないと思うんだよね」

　委員長が言い聞かせた内容に納得したのかと思いきや、渡は突然そんなことを言いだした。

「どういうこと？」

　その言葉を聞いた委員長が興味深そうに尋ね返すと、クラスの連中も渡の言葉に耳を傾けていた。

「要はさ、喫茶店とお化け屋敷の両方を上手く機能させればいいってことでしょ？　つまりさ――」

　渡は自分の考えた両立プランを詳しくクラスメイトに話して聞かせた。

「――な、なるほど……確かにそれなら両立可能かも」

「でしょ？」

　渡の話を聞き終わった委員長が、鳩（はと）が豆鉄砲でも食（く）ったかのような表情を浮かべならそんな言葉を漏らす。

　それは委員長以外も同じなようで、俺でさえも渡の考えに感心すると同時に驚きを隠せないでいた。

「と、とりあえず日比野くんからこのような意見が出ていますが、みんなはどうですか？」

「賛成ー！」

「私も賛成です！」

　委員長が意見を求める声を出すと、クラスのあちらこちらから賛成を表明する声が上がり始めた。

　正直、渡の言った内容は準備などに費やす時間などを考えると面倒で仕方ないが、やる内容自体は面白いと思う。

「では今の日比野くんの提案に対して決を取りたいと思います」

　委員長がそう言ってみんなに是非を問うと、満場一致で渡の提案は受け入れられた。

　こうして我がクラスの今年の文化祭は、お化け屋敷喫茶という、一風変わった催し物を出すことになった。