第140話・気になる×気持ち
水族館での自由行動を終えた日の翌日、俺たちはホテルからほど近い場所にあるビーチへと来ていた。
「眩しいな……」
渡と一緒に立てた二つのビーチパラソル。俺はそのパラソルの下で膝を抱えてビーチを見つめていた。主に水着姿の女性をだがな。
目の前を通り過ぎ行く水着姿の女性たち。そんな素晴らしい姿の女性たちをこんなに拝める機会など、今の季節にはそうそうない。素晴らしき沖縄に乾杯だ。
「よっし、準備完了!」
俺の隣では一眼レフカメラの準備を終えた渡がファインダーを覗き込みながらあちらこちらを見ていた。
「渡、一応言っておくが、盗撮は犯罪だからな?」
「知ってるよ」
「知っててやってるのか!?」
「俺が盗撮してることを前提で話をするのは止めてもらえませんかね!?」
そんな反論を言ったあと、渡はブツブツと文句を言いながらどこかへと向かって行った。いったいどこになにを撮りに行くのかは分からないけど、問題だけは起こさないでほしいものだ。
そんなことを考えつつ、俺は再び水着美女ウォッチングを再開する。
「――お待たせしました」
パラソルの下で水着美女ウォッチングを始めてから20分ほどした頃、膝を抱えて座っていた俺の背後から涼やかで凛とした声が聞こえてきた。
「おおっ!」
振り返った先に居たのは、沖縄の澄んだ青空を思わせるスカイブルーのホルターネックビキニを着た美月さんだった。
モデルのようなスタイルの良さを持つ美月さんにビキニは非常に似合っていて、思わずその豊満な胸に視線が吸い寄せられてしまう。
「鳴沢くん、パラソルありがとう」
美月さんに続いて現れたのは、鮮やかなイエローのビキニに花柄のパレオを身につけたるーちゃんだった。
ファンタジー世界から抜け出して来た妖精さんのように可愛らしい顔立ちのるーちゃんにその装いはとても似合っていて、まるで南国のお姫様のような印象を受ける。
「あ、いや……別に」
にこっと微笑むるーちゃんを見て、思わず視線を
昔から可愛かった子がこうして成長し、可愛さと共に色気を身に纏うというのは素晴らしいことではある。だが健全な男子である俺には少々目に毒だ。
「あれ? まひろくんと渡くんはどうしたの?」
そして一番最後に現れたのは、ホワイトの水着を着た我が幼馴染である茜だった。
他の2人と同じくビキニタイプの水着ではあるものの、茜はショートパンツタイプの水着を着用している。元気印の茜にはピッタリなチョイスだと思う。
そんな茜はあたりをキョロキョロと見回しながらまひろと渡の姿を探している。
「まひろは宮下先生に用事があるとかでそっちに行ってるよ。渡はカメラを持ってどこかに行っちまった」
「そうだったんだ」
俺がその質問に答えると、茜はそそくさと海の方へと歩き始めた。
昨日から様子が少しおかしいとは思ったが、やはり今日もおかしいように感じる。
まあそれは間違いなく、昨日の水族館でまひろが遂行した作戦によるものだろう。
まだその作戦についてのネタばらしを聞いていない俺にとっては、そこでなにがあったのか想像もできない。
だから今の茜に対してどう接していいのか、俺にもよく分からないでいた。
「茜さーん、待って下さーい」
美月さんはそんな茜を追って海の方へと走って行く。
「隣いいかな?」
「えっ? うん、どうぞ」
てっきりるーちゃんもすぐに海へと向かうと思っていたけど、予想外なことにそう言って俺の隣に座ってきた。
「るーちゃんは海で泳がないの?」
「あとでちゃんと海には行くよ? たっくんこそ海に入らないの?」
「沖縄の強い陽射しは俺には厳しくてね。浴び続けると灰になりそうだ」
「まるでドラキュラみたいだね」
俺の冗談にくすくすと楽しそうに微笑むるーちゃん。その笑顔は幼い頃に初めて見せてくれた笑顔を思い出させる。
「――ねえ、たっくん。水沢さんどうかしたのかな?」
ほんの少し雑談に興じたあと、るーちゃんは突然声のトーンを落としてそんなことを聞いてきた。
「茜がどうかした?」
「うん……なんだか少し元気がないみたいだし、昨日の水族館から私のことを見てるみたいに感じたから」
るーちゃんの言うとおり、昨日の作戦決行後から茜の様子は確かにおかしいし、茜がるーちゃんをチラチラと見ていたのも知っている。
どうやらるーちゃんは人の視線には人一倍敏感なようで、茜のそんな視線にも気づいていたのだろう。
「んー、俺にはよく分からないな」
様子が変なことには気づいていたけど、その理由を知らない俺にはそんな返答しか出来なかった。
「そっか。でも、私は水沢さんに嫌われてても仕方ないもんね。あんなことをしたんだし……」
そう言って顔を俯かせてしまうるーちゃん。
言っていることは分からないでもない。でも今回のことはまったく違うように思える。だから俺はその言葉に対してこう答えた。
「それは違うと思うよ」
「えっ?」
その言葉にるーちゃんは驚いた感じで目を丸くしてこちらを見てくる。
「その……確かにあの時のことを茜が気にしているのは確かだけど、だからってそのことだけを元にして、いつまでもるーちゃんを敵視するほど茜も子供じゃないよ」
「……そっか、たっくんは水沢さんのことをよく分かってるんだね」
「まあ一応幼馴染だし、長いつき合いだからね」
そう言いながら苦笑いを浮かべると、なぜかるーちゃんは少しだけ寂しそうな笑顔を浮かべた。
「じゃあ……たっくんはあの時のことをどう思ってるの?」
再会してから今までの間、るーちゃんが直接俺にあの時のことを聞いてきたことはなかった。
俺からの答えを待ちわびるように、それでいてその答えを聞くのを怖がっているかのようにしながら、るーちゃんは俺を見据える。
正直、この質問に対する返答には困った。いくらまひろからある程度の話を聞いたとはいえ、俺はまだ、るーちゃん本人から真相を聞いたわけではないからだ。
だけどあれは俺が1人の女の子に恋をして至った一つの結果であって、それがたまたまああ言ったことになってしまっただけに過ぎない。
それにその原因を作った切っ掛けは、俺が告白したことに他ならない。ならばるーちゃんを悪く思うなど、お門違いもいいところだろう。
「確かにあの時は、どうしてこんなことになったんだろう――って後悔の気持ちもあったし、今でもまったく気にしてないって言えば嘘になるけど、それでも俺はるーちゃんに告白できて良かったと思うよ」
「どうして? あんな酷い目にあったのに……」
「んー、どうしてなのかな……。自分でもよく分からないけど、るーちゃんがそんな酷いことをする人じゃないって、小さくても心のどこかでそう思ってたからかもしれない。それとやっぱりるーちゃんのことが好きだったから――ってのが、一番大きかったのかも」
「そうなんだ……」
「あっ、ごめんね、変なこと言ってさ」
「ううん」
つい口走ってしまった言葉を思い返し、俺は急速に顔が熱くなっていくのを感じた。我ながら当時好きだった女の子を前にして、なんてことを言ってしまったんだろうかと思う。
るーちゃんのことが気になって横をチラリと見ると、るーちゃんは顔を紅くして俯いていた。その様子を見た俺は、なんてアホなことを言ってしまったんだろうという後悔と共に同じく顔を俯かせてしまった。
そんな俺とるーちゃんの間に、しばしの沈黙が流れる。
「――あ、あのね……たっくん。私に告白してくれた時だけど、本当は私ね――」
「朝陽さーん! こっちで一緒に遊びませんかー?」
沈黙していたるーちゃんが口を開いてなにかを言おうとした時、茜と一緒に遊んでいた美月さんがそう言いながらこちらに向かって走って来ていた。
「あっ……」
「行っておいでよ」
「う、うん」
るーちゃんはそう言ってすまなそうにすると、ゆっくりと立ち上がってから美月さんの方へと歩きだす。
そして一度こちらを振り返ったあと、目の前まで来た美月さんに手を引かれて海の方へと向かって行った。
俺はそんな2人の姿を見送ったあとでその場で寝そべり、さっきるーちゃんが言おうとしていたことがなんだったのかをぼんやりと考えていた。
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