第136話・秘密×作戦

 修学旅行が10日後に迫っていた今日、俺たちの班は学園側に提出する自由行動のプラン表を作成するために放課後の教室に残っていた。


「やっぱり沖縄の名所はある程度押さえておきたいよな」

「そうだね」


 真剣に自由行動のプランを考える中、俺の言葉にまひろが賛同の意を示しながら頷く。

 みんなそれぞれに沖縄についての情報を持ち寄り、あれやこれやと意見を出してはプラン表の組み立てをしている。

 修学旅行はもちろん楽しみだが、こうしてみんなで意見を出して行きたい場所を決める時間というのも楽しい。

 しかし本来ならみんなで色々な意見を出し合って楽しみながら決めるところなのだが、約2名はワイワイと騒ぐ俺たちをよそに沈黙したままその光景を見つめているだけ。


「な、なあ、茜はどこか行きたい場所はないか?」

「……私は首里城は見ておきたいかな」


 茜は少しだけ考えを巡らせるようにしたあとでそう答えた。


「首里城か! 沖縄の名所の定番だもんな!」

「うんうん、確かに見ておきたいよね」

「私も見ておきたいです」

「俺も見ておきたいな。みんなで首里城をバックに写真でも撮ろうぜ!」


 茜が出した観光場所をまひろも美月さんも渡も快く受け入れてくれる。


「朝陽さんはどうかな?」

「うん、私も首里城は見たいな」

「よし! じゃあ、自由行動での首里城見学は決まりだな!」


 俺の問いかけに対し、るーちゃんはにこやかな笑顔を見せて頷いてくれる。


「ところで、朝陽さんはどこか行きたい場所とかある?」


 茜の希望も聞いたし、今度はるーちゃんの行きたい場所を聞いておけば問題はないだろう。


「うん、一つどうしても行きたい場所があるの」

「どこですか?」


 るーちゃんの言葉に美月さんが興味津々な様子で聞き返す。同じ転校生だからというのもあるからか、美月さんはるーちゃんのことを非常に気にかけていた。


「えっと、那覇からちょっと遠いけど、ちゅら海水族館に行ってみたいの」

「美ら海水族館って確か、イルカショーとかマンタとかジンベイザメとか、珊瑚さんごの展示で有名だよね」


 るーちゃんのその提案に一番最初に反応したのは、意外なことに茜だった。


「う、うん! 水沢さん詳しいんだね」


 そんな茜からの意外な言葉に、るーちゃんは嬉しそうに返答をする。


「あ、いや……前にテレビで美ら海水族館の特集をやってるのを見たことがあるから、少し知ってただけなの」

「そうだったんだ。私の希望はこの美ら海水族館くらいだけど、みんなはどうかな?」


 みんなの反応をうかがうようにして、遠慮気味に言葉を出するーちゃん。


「私は行きたいな、美ら海水族館」


 そんなるーちゃんの言葉に真っ先に賛同の意を示したのは、またもや意外なことに茜だった。


「僕も行きたいな、水族館。ねっ、龍之介」

「お、おう! 俺も行きたいな!」

「私も是非行ってみたいです」

「じゃあ、美ら海水族館に行くのも決定だな」


 みんなの賛同が得られたのを見た渡が、話をまとめるようにそう言ってから予定表に書き込みをする。


「ありがとう、水沢さん」


 真っ先に水族館行きに賛同してくれた茜に対し、るーちゃんが丁寧にお礼を言う。


「わ、私は別に……ただ自分も行ってみたかっただけだから……」


 そう言ってるーちゃんから顔を背ける茜。

 相変らずるーちゃんに対しての敵愾心てきがいしんはあるようだが、こうしてみんなでなにかを決める場面では非常に素直で助かった。


「よし、じゃあ残りの予定もちゃっちゃと決めよう」


 こうしてみんなで意見を出し合って修学旅行の予定を決めつつ予定表に書き込みをし、無事に学園側への提出をすることができた。


× × × ×


「龍之介ー!」


 自由行動の予定表を学園側へと提出したあと、俺がいつもどおり帰路を歩いていると、後ろの方からまひろが名前を呼ぶ声が聞こえて振り返った。


「どうしたまひろ?」

「はあはあ、どうしても龍之介に話しておきたいことがあって」

「話しておきたいこと?」

「うん、例のことについて」


 その言葉を聞いた俺は、一瞬で自分の表情が引き締まるのが分かった。

 俺は以前にまひろと一緒に話しをした公園へと移動し、そこにあるベンチに座ってから話を始める。


「それで、話の内容はなんだ?」


 公園のベンチに座った俺は、同じく隣に腰かけたまひろに急かすようにそう聞いた。


「うん。実はね、あの出来事の真相が分かったんだ」

「あの出来事って……あのことだよな?」


 はっきりとその出来事を口にするのが嫌だった俺がそう問いかけ直すと、まひろは黙って一度だけコクンと頷いて見せた。


「僕の知り合いに同じ小学校の女子が居るんだけど、その子も花嵐恋からんこえに通っててね、あの時のことを知ってたんだ」


 俺はまひろの言葉に黙って耳を傾け、その内容に聞き入る。

 そしてまひろはそんな俺に対し、丁寧にその真相というのを話してくれた。


「――そういうことだったのか……」


 まひろからもたらされた話を聞いて、ずっと昔から疑問に思っていたことや、少なからずるーちゃんに抱いていた疑念が一気に晴れた。もちろんまひろから聞かされた話が、すべて真実とは限らない。

 だけどまひろの知り合いが嘘をつく理由もなければ、話を捏造ねつぞうする理由もない。だから信憑性もあると思うし、信じていい内容だとも思う。

 それに俺自身、その内容は理由としてしっくりくるものだった。

 しかしそうだとしたら、俺は当時のるーちゃんにとても悪いことをしたことになる。


「少しは役に立てたかな?」

「うん。ありがとう、まひろ。おかげですっきりしたよ。色々と調べてくれてありがとうな」

「ううん、お礼なんていいよ。悩んでる龍之介を見るのは辛かったし、それに茜ちゃんや朝陽さんのためでもあるから」


 そう言ってにこやかに微笑んでくれるまひろの心遣いが本当にありがたかった。本当に良い親友をもったと思う。


「でも、これからどうするの? 茜ちゃんにこのことを話す?」

「……多分俺がこのことを話しても、茜は信じないと思うんだよな。むしろ朝陽さんをかばってるって思われる可能性が高いと思うんだ」

「そっか。じゃあ、僕から話をしようか?」

「うーん……それはそれでマズイと思うんだよな」

「どうして?」

「つまりさ、急にその話題をまひろが茜に振ったら、やっぱり茜はおかしいと考えると思うんだ。もしかしたら、俺がまひろにそんなことを言わせてる――とか考えるかもしれない」

「そ、それはいくらなんでも考え過ぎじゃ……」

「いやいや、アイツは妙な勘繰りから凄まじくずれた方向に考えを持って行くやつだからな。ありえなくはないんだよ」


 茜とのつき合いが長い分、そんなエピソードも多々あったしな。


「なんとか自然な感じで茜がこの出来事について知る方法でもあればいいんだけどな……」


 俺が両腕を前で組んで悩みながらいい方法はないかと考え始めると、まひろは空を見上げながら同じくなにかを考えているようだった。


「――あっ! 龍之介、僕に一ついい考えがあるから任せてくれないかな?」


 しばらく黙って考え事をしていたその時、まひろが少し声を明るくしてそう言ってきた。


「ほ、本当か? どんな方法があるんだ?」

「内緒」

「な、なんでだよ!?」

「これは龍之介に話すと変に意識して失敗するかもだから、悪いけど内緒にさせてもらうね」


 そう言って右手の人差し指をピーンと立てて口元にもってくるまひろ。

 ヤバイ、この仕草、超絶可愛い……。


「わ、分かったよ。でも、ちゃんとあとでネタばらしはしてくれよな?」

「うん、分かったよ。でも、この方法を使っても茜ちゃんと朝陽さんが仲良くできるかは分からないよ? 僕が考えている方法は、あくまでも2人が歩み寄る切っ掛けを作るためのものだから」

「そこは分かってるよ。それにどんな方法をとったって、結局最後にどんな行動を起こすかは本人たち次第だし、まあ、どんなことをするかは分からないけどよろしく頼むな」

「うん、精一杯頑張るよ」


 いったいどんな方法を使うのかは分からないけど、こうしてまひろの秘密作戦が開始された。

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