合格発表
合格発表当日、結果は国公立大学に掲示される。
私は結果を見るために大学に向かった。
まるで私がその大学の在校生であるかのように想像しながら電車に乗った。
この時間に乗れば高校生の通学と被らなくて空いてる、この時間なら通うのにこの席は座れそうだなとかそんなことを考えながら向かった。
会場に着いてみると周りには既に人集りができていて、その中心には結果を張り出す板が準備されている。
それを見た瞬間に緊張感が強くなる。
周りには、友達同士で来てる人、母親や祖父母などと大勢で来てる人などがいて私は少し心細かった。
まるで大勢で来てる人ほど応援されてるようで、私はとても不利に感じた。
母親は仕事で、父親は単身赴任、弟は中学に部活の朝練で向かった。
わたしはここでもひとりぼっち。
高校の時と今で何も変わっていない。
警備員が鍵を締めに来る午後9時まで毎日学校の自習室で必死に勉強してた寒い冬の日々を思い出す。
気づいたときには吹奏楽部のホルンやトランペットの音も聞こえず、自習室以外の電気もすでに消えていて、外に出ると暖房の効いた暑いくらいの自習室で麻痺してた私の体を真冬の風が摩り、冷たい風が、私に冬だと教えてくれる。
私は顔をしかめながらマフラーに首を縮ませ駅に向かった。
電車が来るまではホームで手持ちの英単語帳を開き一つでも多くの単語を覚える。
手袋をしながらだとページがうまくめくれずに、紙がクシャっとなる。
でもそのシワがつく度に私は努力の証が増えたと思っている。
電車が来て中に入ると、再び暑い熱気が顔全身を包む。
電車の中では見事に全員が他人を装ってる。
隣に座っているOLも、目の前に立っているサラリーマンも、こんなに近くにいるのにまるで私が見えないかのように平然としている。
私はそれが落ち着かない。
知らない人とこんなにも密着するのは電車の中くらいだと思う。
疲れていたのか、隣のOLが私に寄りかかってきた。
私だって疲れてて今すぐ寝たいのにとついイラッとしてしまう。
いつどこの誰が刃物を出してくるかわからないと思うと、この密着感はただ恐怖を与えるだけだった。
よくそんな状況で寝れるなと関心しながらも呆れ、どうせなら反対側に倒れてよと思いながらそっと押し返す。
これでやっと英単語を覚えられる。そんなことを考えてると、いつも駅に着く頃になる。
私の最寄駅で降りるのはせいぜい3人くらいで、たまに私1人っきりの時もある。
ギュウギュウ詰めの電車の中から一人私だけが放り出される感じが私は寂しい。
他のみんなに置いていかれ、一人っきりで受験勉強をしているクラスを思い出す。
みんなは将来の夢が決まっていたり、学びたいことがはっきりしていて、一人一人がその先に進んでいくのがわかる。
そんな中私は1人何も決められない。
進んでいった電車を見ると、下にはレールが敷かれていて、たった1つの道しか進めないことを電車のライトが私に伝えてくる。
でもそのライトが電車の進む先を照らしてくれるなら、導いてくれるなら、私も連れて行って欲しい。
結局みんなが目指すところは、自分の幸せ。
でも私は私の幸せがなにかわからない。
給料がいい会社に就職して毎日毎日上司のオジサンにお茶を入れる仕事はお金が貯まる。
休みの日にはやりたい事は沢山できる。
でも人生ってそんなことするために私はわざわざ生まれたのかって考えると答えはいつまで経っても出ない。
私はなんの為に生まれたのか、そんな事考えたって今はなんの意味もない。
だったら今は勉強をすることに意味があると自分に言い聞かせる。
同じ駅で降りた会社終わりの疲れきったサラリーマンの後ろ姿を追いかけながら、駅員もいなくなった夜の改札を通ると、毎日迎えに来てくれる母親の車の明かりが見える。
この瞬間が私は一番安心する。
私の進む先を、小さな明かりが照らしてくれるから。
車に入ると、電車の中とは違う温かさが体を包む。
冬は寒くて嫌だけど、その寒さがあるからこそ暖かさが心を癒すと思う。
今日学んだことを脳内で思い出しながらも、気づくといつも家に着くまで車の中で寝ていた。
そんな懐かしい冬の出来事を思い出していた。
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