第2話『蹂躙する巨人たち』


 [1]

 ファーゴが自分の思念で操縦する“ドリームス・トルーパー(通称DT)”のダークネスは足の裏のギミックを器用に使って、木箱を開けて、ザップガンを取り出すことに成功した。それは巨大な大砲のようにも見えた。

 ファーゴはザップガンから掃除機の巻き取り式電源コードのようなコードを伸ばして、ダークネスの腹部接続部にあてた。そこから先は自動だった。ダークネスとガンとの固定、発射場所での地形認識と耐ショック姿勢、砲弾の軌道補正、魔法エネルギーの充電などの発射体勢が整うまで約二分かかる。それまでの間、DTは無防備であったが、敵には気づかれていないはずだ。少なくとも初弾を発射するまでは。

 ファーゴは待つ間、頭部の複眼センサーを操作し、さらに友軍同士の念話の交信を盗み聞きして戦況の把握につとめた。敵はこちらの防衛隊と交戦している。防衛隊の主力DTガルダンと敵のDTマグとの戦いが目立つが、DTたちの足元でも数十人の味方の戦士と僧侶、魔法使いの混成部隊が敵のオーク数十匹と相対して戦っている。敵の第一波の数は少なく、数分も経たずにガルダン4体と人間の部隊が蹴散らしてくれる。

 『ファーゴ、ザップガンの発射準備は終わったな?』

 「はい」

 ファーゴの父親であり、現在はステルの街の防衛隊隊長を務めているクガル・ダルオンは街はずれのトーチカ内から各部隊へ、念話機による指示を送っていた。

 『よし、すぐに俺が指した順に敵艦を落としてもらう。まずはこいつだ』

 ファーゴは右目を開けてコックピット内にある羊皮紙モニターを凝視した。戦場を上から見たような画像が出て、敵の戦岩の艦隊と艦隊から突出した戦岩が見て取れた。そして赤いターゲットリングはぴたりとその突出した敵艦を指していた。ファーゴは両目をつぶり再びDTの視界を得た。

 DTのインターフェースは北の森の上空に1隻だけ浮遊している敵艦……戦岩に照準を合わせようとしていた。ファーゴはザップガンの砲塔を戦岩に向け、手はいつでも引き金を引けるようにする。

 「ターゲット確認、標準合わせました!」

 『撃て!』

 ファーゴは引き金を引く。ザップガンに魔力が集中し、砲塔にオレンジ色の光が集まり、周辺につむじ風が発生した。

回転する強風に煽られ、ダークネスの装甲の軋む音がコックピット内に響く。

 ファーゴは足に力を入れて強力すぎる魔力に飛ばされないように耐えた。

 眩しく輝く光と共に“それ”は発射された。

おびたたしいほどの熱と光と電撃と火花が飛び交い、一筋の収束した魔力の“線”が発射したザップガンと敵の戦岩を繋ぐ、そして敵に向けて禁忌呪文“タロン”を連続して3つも当てる。1つめは戦岩の岩を砕き、装甲を剥がし、2つめは戦岩の内部を、砲撃手や甲板員、魔法使い、操舵室内のオペレーターや功を焦る魔法使いマウルの人生を火炎と共に焼き尽くし、3つめは戦岩自体を真っ赤な火球と化して、轟音とともに爆発四散させた。


 空は戦岩が爆発するまで、真っ白になり、敵のオーク部隊は本能的に恐怖し、防衛隊の前から逃げ出すものまで現れた。


 森の中でオークと戦っていたベーコンは戦斧で逃げだしたオークの1匹をけさ斬りし、おたけびを上げた。

 「おおっ、おおっ! ファーゴが敵艦を落とした! この戦い、勝てるぞ!」

 ベーコンの声を聞いた友軍部隊も呼応するように叫んでこれに応え、防衛隊の士気はこれまでになくヒートアップした。友軍のDTも敵DTを追い詰めて次々と撃破していく。

 マウル機から降下した敵部隊はステルの街に侵攻することかなわずにほぼ全滅した。


 森の掃除をあらかた片付けた防衛隊は剣や斧を高く掲げて勝利をうたう。だが防衛隊に加わったウィルダムとクガルは敵の第二波攻撃を警戒していた。

 クガルから森にいる防衛隊部隊に対して念話によるゲキが飛ぶ。

 『最初の勝利に酔っているな! 敵の戦岩はまだ5隻もいるんだぞ! アンバー隊は前に出すぎている、急いで赤線まで引き返して陣形を元に戻せ!』

 隊長からの声が大きすぎたのか、隊員の一人が頭を抱えてイヤホンを外し、ボリューム摘みを最小にして掛けなおす。

 クガルはトーチカ内の回線を切り替えてファーゴの乗るダークネスに次弾の発射地点と次のターゲットの指定をした。

 『校庭に行って、チャージ後にコイツに向けて発射しろ、俺の読みが間違っていなければ……、ここに敵のリーダーが乗っているハズだ』



 [2]

 暑くないにもかかわらず、ベルディアの額に汗がにじんだ。

 目の前で、真っ白な光の中で、先行した戦岩が白い光と3つの灰色を帯びた火球によって爆発四散したのだ。

 敵は開戦前に交わした条約を反故にして、禁書“アガクリプス”に記述された禁忌呪文を自動発射することのできる兵器を持っている。ならばこちらも。

 『全艦、30ギリギリまで下降し、ファイズンで森に火をかけろ! 格納庫クルーは全DTの条約安全装置を解除しろ!』

 「べ、ベルディア様!」

 「ヤスミン、先に条約を破ったのは敵だ。ルールもへったくれもない! 戦争のジャッジは我々に傾いた!」

 「お待ちください、ベルディア様、それでは同士討ちをする危険が……」

 顔面蒼白のヤスミンを尻目にベルディアは興奮したまま指揮をする。

 『蹂躙だ! 森という森、家を焼き、敵という敵を焼き尽くせ! 先に条約を破ったのは敵だ。真の正義は我々にある! 蹂躙だ、蹂躙だ、蹂躙せよ!』



 各戦岩に乗っている魔法使いは、鞭を持った甲板員たちによって、甲板に上げられ、甲板上の固定器具と足を固定させられた。戦岩1隻につき5人の魔法使いたちは森へ向けて呪文を詠唱する。

 その間に戦岩内の格納庫では、灰色の遮光器土偶のようなDT“マグ”の条約安全装置 が解除され、手足を伸ばされ、フイゴのような関節部があらわになり、搭乗者の好みにより火炎放射器や電撃砲、迫撃砲、マジックミサイルポッドを装備した。通常のマグ用単発式銃を装備させるものはいなかった。戦岩の下部が開きマグが次々と降下する。オークたちを乗せた籠を背負ったマグも降下し、殲滅線の準備が整った。

 『詠唱が終わったものからファイズンを連続放射しろ。サボる奴には鞭を当てるぞ!』

 緑色のローブを頭からすっぽりと被っていた魔法使いたちは次々にファイズンという火炎魔法を繰り出した。異界から呼ばれた炎の固まりは森に落ちて木々は悲鳴を上げる。炎が次々と森を焼いていった。呪文詠唱の気力を無くした魔法使いに容赦なく甲板員からの鞭が見舞われる。甲板に上がった魔法使いたちは足を固定されているので、鞭から避けようが無い。

 『全DTは侵攻を開始しろ、一番早くステルの街にたどり着いた者には20ゴルを与える。急げ!』


 森が焼けていくのを見て取ったベルディアは後ろにいるエスノに向き直った。

 「エスノ、仕事だ」

 エスノは腹部にまだ痛みを抱えていた様子で、よろよろとベルディアに近づく。

 「私のDT“エクストリーム”を使い、敵の新兵器を潰せ。新兵器を発見したら必ず私に報告しろ」

 「はい」

 ベルディアは笑顔を取り繕い、エスノに近づき彼女の右肩を軽く叩いた。

 「さっきはすまなかったな。我が艦隊が無事に帰還できるかどうかは、おまえの働き次第だ。頼んだぞ」

 「出撃します」

 真顔を取り繕ったエスノは、一礼して操舵室から出て格納庫へ走る。

 「……」

 彼女の走る音を確認したベルディアはヤスミンに非情な指示を下す。

 「ヤスミン、エクストリームの遠隔自爆装置を工作室から取ってきてくれ」

 「では……」

 「今の世の中、女心を操ることができなければ出世に遅れるぞ。おまえとて自分の艦を持ちたいだろう」

 「いえ、私はベルディア様のお側に一生仕えさせてください」

 ベルディアの邪悪な瞳とヤスミンの目が合う。

 「まあいい、早く行け」

 「はっ!」

 ヤスミンも操舵室から出て工作室へ向かう。


 『ファイズン要員を収納後に全艦、全速前進!』

 五隻の戦岩が加速しはじめ、甲板員たちは加速による強風の中、魔法使いたちの足枷を外して内部へ誘導した。

 20機ものマグに乗った兵士たちは競ってステルの街へ向かう。当然、ステルの防衛隊の緑色のDTガルダン十二機も進攻を阻止しようと攻撃するが、数の上ではロマニー軍のほうが上だった。さらにマグにはリミッターが解除され、火炎放射器や電撃砲、迫撃砲、マジックミサイルが防衛隊へ容赦なく火炎が放出され、電撃や榴弾が砲撃され、黄色いマジックミサイルが降り注がれた。

 ガルダンが次々と倒され、防衛隊の戦士や魔法使いたちは燃えさかる森から逃げるのに精一杯だった。


 いや、1人だけ戦線を維持している防衛隊の隊員がいた。

 ベーコンである。

 「うおおおぉぉおおっ!」

 彼は燃え盛る木々をかきわけてマグの集団の足元を駆け抜けた。そして1体のマジックミサイルポッドを装備したマグの右足すね部に戦斧を当てて体当たりをかまし、地に手をつけさせてDTのコックピットへ向けて数回斧を振るった。搭乗員とおぼしきロマニー兵士の鮮血が飛び散り、ベーコンはコックピットの死体を掴んで放り投げると、自分がコックピットの中に入る。

 「邪魔するぜぇ」

 当然、異変に気がついた他のロマニー兵士もマグを振り向かせてから装備させた武器の標準をベーコンの乗った機体に向けるが、ベーコンは操縦方法がわからないだけにマグの集団に向けてトリガーを引き続けた。

 「だれひとり、街に入れさせるものかよ!」

 ベーコンの乗ったマグからマジックミサイルが発射された!

 空を切り裂く悲鳴に似た発射音。

 ベーコンが発射したマジックミサイルは敵DTと敵が装備していたマジックミサイルポッドに誘爆した。ベーコンを攻撃しようとしていた5機のマグは大破、又は戦闘不能に陥った。さらに戦岩から降下中のマグ8機も無防備な降下中を狙われ、マジックミサイルの餌食になった。


 「なぜだ? なぜ識別装置が利かない」

 戦場での同士討ちを戦岩の中から見て取ったベルディアは悲痛な呻きを上げた。

 「それを含めたリミッターを切る指示をしたのはあなたです。ベルディア様」

 ヤスミンが冷徹に言い放つ。

 マグには自然を破壊する条約違反行為と同士討ちを防ぐための安全装置が取り付けられていた。リミッター解除の命令を下す前のベルディアは激昂していて、同士討ちの危険性を全く考慮していなかったのだ。


 『エクストリーム、出ます』

 ベルデイアは頭を抱えていたが、エスノの声ではっとなり、彼女に対しては平静を保つように心がけた。

 「よし、行け!」

 エスノはDT“エクストリーム”に乗って戦岩の上部ハッチから出撃した。

 浮遊石を何十個も埋め込んだ白い羽を展開して、ステルの街に向けて滑空する。エスノはコックピットの中でベルディアが操舵室から次々と命令を下す声を聞いていた。

 『砲兵隊は敵の手に落ちたマグをなんとしても落とせ!』

 エクストリームは地上を走るマグとは違い、鷹の脳髄を移植された飛行能力に長けたDTである。当然上空からの索敵にも向いておりしかも、ベルディア艦内のオペレーターからエスノに向けて新兵器の位置が次々に修正されて情報が送られている。

 「!」

 ヒュンと音がして、エスノはふと後ろを見た。敵の手に落ちたマグからマジックミサイルが連続発射されていたが、彼女は無視することにした。マジックミサイルの弾速では、飛んでいるエクストリームを落とすのは至難の業だからだ。


 「くそっ、くそっ。弾が切れたか……」

 マグを乗っ取ったベーコンは、それでもトリガーを引き続けたが、マジックミサイルは全弾撃ちつくした後だった。

 破壊したマグ同様に、戦岩から飛び立った鷹のようなDTも自分の発射したマジックミサイルの餌食に出来ると思い込んだのが間違いのもとだった。ベーコンは必死にそれを撃墜しようと連続発射したが、ことごとく攻撃を外してしまったのだ。鷹のようなDTが高度を上げて見えなくなった後、気がつくとミサイルを全弾使い切ってしまった後だった。

 ガサゴソと周りで音がした。

 ベーコンはマグのモニターごしに周辺を警戒した。

 ロマニー軍に使役されたオークたちが、孤立したベーコンのDTを取り囲もうとしている……。


 エクストリームのコックピット内のエスノの目の前に赤丸の記号で移動中の新兵器の位置が示され、それは街の中心へ向かっているようだった。ベルディアからの念話が届く。

 『夜目モードを使え。新兵器の画像を転送しろ』

 「発見しました!」

 エスノは上空からそれを発見した。月の下で黒いDTが何か筒状のものを両手で掴んで上空へ向かって何かを発射しようとしていた。

 『エスノ! 奴の魔法力が急上昇した』

 ベルディアはオペレーターの脇に立って総毛だった。また禁忌呪文が発射されるのか?

 『急げ! 奴を潰せ!』

 「おおっ!」

 エスノは叫び、エクストリームは黒いDTに向かって急降下した!



 [3]

 ファーゴはザップガンを背負ったダークネスを駆って、校庭へ向かう。ファーゴは移動の間、北の森に火の手が上がり、その炎の上を急速でこちらに向かってくる五つの禍々しい円盤を確認した。敵の戦岩の艦隊だ。

 ダークネスは再びザップガンの発射体勢をとりはじめた。狙うのはファーゴから見て左から2つ目の戦岩だ。クガルの読みではこれに敵のリーダーが乗っているという。ファーゴが標準を合わせようとしたその時、念話機のアラームがコックピット中に鳴り響いた。

 『ファーゴ! 10時の方向から敵だ!』

 ダークネスは咄嗟に右横へ跳躍した。左横に何かがかすった。それは鷹のようなDTが繰り出した白刃であった。

 ファーゴは近くに降りた敵DTに構わずに、再度ザップガンの狙いを定めてトリガーを引いた。リーダーさえ倒せばこの戦いは終わる。そう確信したファーゴの瞬時に自らに下せた判断だった。砲塔が光を放ち、今にも発射されそうなその刹那、またも白刃がファーゴの視界に飛び込んできた!

 『やらせはしないよ!』

 鷹のようなDT、エクストリームの攻撃はザップガンの砲塔を切断しようとしたが、既にファーゴは引き金を引いた後だった。再びザップガンに魔力が集中し、砲塔にオレンジ色の光が集まり、周辺につむじ風が発生した。 

 エクストリームはダークネスより重量が軽い機体のためか、光とつむじ風に巻き込まれて吹き飛ばされた。


 ザップガンから再び“それ”は発射された。おびたたしいほどの熱と光と電撃と火花が飛び交い、一筋の収束した魔力の線が発射したザップガンと敵リーダーの戦岩を繋ぐ……はずだった。

 「やばっ、外れそうだ……」

 果たしてエスノの攻撃を受けたザップガンは、ファーゴの意思とは裏腹に制御を受け付けなかった。魔力の線は曲線を描いてベルディア艦の左隣の戦岩に当たり、そして敵に向けて禁忌呪文タロンを連続して3つも当てる。戦岩は自体を真っ赤な火球と化して、轟音とともに爆発四散した。


 『馬鹿やろう! なんで外すんだよ!』

 ダークネスの機内にクガルの怒号が響く。

 「ごめん、父さん。ザップガンが熱を持って暴発しそうだ。離脱します」

 ファーゴの目の前のザップガンは刀傷を負った部分から赤く炎上し、ガタガタと震えている。ファーゴは急いでダークネスとの接続を外し、ドスンと地面を叩く音と共にザップガンは落ちてダークネスの手から離れた。ダークネスは脚部のバーニアを噴かして後方へジャンプし校舎の裏庭に着地し伏せた。

 直後にザップガンは爆発した。爆発音と火球が広がり、校舎や近隣の家々が吹き飛ばされる。

 「くそっ、これじゃあ街を護っているのだか破壊しているのかわからないじゃないか」

 ファーゴはダークネスの中でひとり愚痴をこぼした。その途端、空からダークネスに向けて何かが降ってきた!



 [4]

 敵の新兵器の攻撃でベルディア艦の左隣の戦岩が爆発四散し、ベルディア艦もその爆発の余波で浮遊機関に故障が起きていた。オペレーターたちが悲鳴を上げる。 

 「舵がききません!」

 「現在の高度を維持できません!」

 『やむをえん、わが艦のみ緊急着陸だ!』

 ベルディアは仕方なく着陸と着陸後直ちに浮遊機関への修理を命じた。

 『他の艦は進路そのままで先行したマグ部隊を支援しろ。敵の新兵器は破壊された。急げ』

 ベルディア艦を除く他の3隻の戦岩はステルの街へ向かう。


 ベルディア艦は魔法使いたちの浮遊呪文の助けを借りて静かに着陸することができた。

 「敵の手に落ちたマグはどうなっている?」

 「マグに乗っていた敵は逃走した模様。マグはオークたちの手に渡ったようです」

 「なに? 拡大投影しろ」

 スクリーンに100メートル先の景色が投影され、マグに乗ったオークが誇らしげに万歳とばかりに両手を上にあげたその刹那、ベルディアはオークの後ろにある自爆装置のランプが点滅していることを見逃さなかった。

 「いかん! そこにいるオークどもはこっちに……」

 そう彼が言おうとした時、マグは爆発した。

周りで騒いでいたオークたちの大半が爆発に巻き込まれたようだった。


 唖然とするベルディアにエスノからの声が届いた。

 『敵の新型DTを捕らえました!』

 


 [5]

 ファーゴの乗ったダークネスに、エスノの乗るエクストリームが覆いかぶさった。そのままエクストリームはダークネスの両腕を押さえつける。

 「敵の新型DTを捕らえました!」

 エスノの張りのある声は下にいるダークネス内のファーゴにも聞こえた。女の声? ファーゴは敵のDT乗りが女性であることに驚いたが、すぐさま自分の置かれている立場に気づき、押さえつけられていない脚部を動かそうとした。ただし彼の耳は敵のDTのコックピットに向いていた。

 『よし、でかした。あとはこちらが遠隔操作する』

 「どういうことですか?」

 敵の女DT乗りと、若い男の声の上官とのやりとりらしい。ファーゴはいやな感じで胸が締め付けられそうだった。

 『こういうことだ』

 敵の上官とおぼしき声がそう言ったと同時に敵のDTの四肢はダークネスの両腕をうしろ手に押さえたままダークネスの胴体にしがみつく格好になった。 

 「しまった! 自爆する気か?」

 ファーゴは叫びながら、ダークネスの右脚にひねりを加えて敵DTと共にナナメに横たわる格好になった。続いてコックピットのハッチのロックを開いて外に出た。


 どうやら敵のDT乗りは上官に騙されてこの機体に乗せられたらしい。敵DTの中からヒステリックに叫ぶ女の声が聞こえた。

 「ど、どういう事ですか! べ……べるでぃあさっさまー、なんでっ、なんでよー、ベルディア様!」

 (ベルディア……、敵のリーダーの名はベルディアというのか……)

 ファーゴがふと空を見ると戦岩の艦隊がいまにも街に迫ってきそうだ。ぐずぐずしていられない。彼はパンツのポケットから万能工具を取り出して敵DTの上に登り、月の光に照らされたDTの背中のこれはと思うハッチの穴に針金のような棒を突き刺して勘を頼りに針金を動かしピッキングする。そしてロックを解除した。

 「ビンゴ!」

 自爆の制御装置がファーゴの目の前にあった。

 一般の兵卒であれば教えられていないDTの知識をファーゴは父親とウィルダムに叩き込まれていた。今、初めて練習を実践に試す時が来たのだ。死ぬかもしれないのにファーゴは表情に笑いを浮かべた。

     × × ×

 レッスン45、間違って自爆装置を作動させてしまった時の解除の仕方。

     × × ×

 制御装置に埋め込まれた水晶には数字が浮かんでいる。自爆まであと20秒。

楽勝!

 『こら貴様! 何をしている!』

 敵のDT乗りにとって唯一自由が利くDTの首を回してファーゴが何をしようしているか確かめようとしていたが、彼は意に介さず、解除作業を続けた。配線を次々と切断し、自爆信号を無効化し、ノズルを回して動力炉の暴走を食い止めた。水晶に浮かんだ水晶が6を指して止まった。彼は思わず額に浮かんだ汗を手でぬぐう。

 「ふぃー。なんとかなったな。おっと、この水晶は金になるな」

 ファーゴは6を指して止まったままの水晶を慎重に取り外して、胸ポケットにしまいこんだ。

 『おい、聞いているのか!』

 敵のDT乗りの癇癪が破裂したようだ。だが女DT乗りは出入りのハッチがダークネスの背中と密着しているため、出るに出られないらしい。

 「やかましい! 今、自爆装置を解除したところだ」

 『なんだって!』

 「さて、次だ。遠隔操縦の念話機をぶっ壊しておかないと……」

 ファーゴはさらに敵のDTの背中を探る。

 『おい、貴様! 待て! くそっ、ここさえ開けば……、聞いているのか貴様!』

 「貴様、貴様とうるさいな。僕にはちゃんと“ファーゴ・ダルオン”という名前があるんだ」

 『えっ……』

 ファーゴは夜の中、浮遊石がついた白い羽をかきわけ、羽の付け根に隠された敵DTの通信用念話配電盤を探り当て、工具のドリルを配電盤の上にある茶色のボックスに突き立てた。間違ってカエルを踏み潰してしまったような嫌な音を出して緑色の液体が飛び出す。

念話機に必要なコウモリの脳髄を潰したのだ。そして部品を解体して親指大の黒い棒を取り出して、それもポケットに閉まった。

 「さあ、これで遠隔操作からの呪縛は……、おおっと!」

 敵のDTが動きだし、ファーゴは慌ててダークネスのコックピットに戻ろうとした。だが敵のDTは浮遊石をまたたかせ、上昇を開始しようとする。ファーゴは白い羽を再びかきわけて外に出ようとした。DTから飛び降りて、一旦地上に降りようとしたが、そこに金髪の少女がいた。

 敵のDT乗りがハッチを開けて、器用に機体のまわりをつたってファーゴの前に現れたのだ。

 「ブラスター!」

 彼女はそう言って、左の手のひらをファーゴに向ける。相手を麻痺させる魔法の呪文が発動したのだ。彼女の手のひらから白い光線がファーゴに向けて放たれた。ファーゴがマヒしたところを右手に持った短刀で止めを刺すに違いない。ファーゴは思わずひるんだ。

 しかし、ファーゴの胸にあった“ワイバーンの牙”が低レベル魔法を即座に感知して、青い光と共にその呪文を術者にはじき返す。

 次の瞬間、麻痺を起こして横にどうと倒れたのは彼女のほうだった。

 白い羽を背に倒れた彼女を見てファーゴは教会の壁画に描かれた天使の姿を連想した。

 「呪文をはじき返したのか?」

 少しの間、沈黙が続いたが、先につぶやいたのは彼女だ。

 「……。こ……、殺せ……」

 どうやら体全体は麻痺しても口だけは動かせるようだ。ファーゴは内心ホッとした。

 ファーゴにとって、今は目の前の口しか動かせない哀れな彼女を捕らえるか殺すよりも街の人々の安否が気になった。敵のDTは静かに上昇しつづけ、地上から3メートル近く離れている。地上に残されたダークネスからまたもやくぐもったブザー音が聞こえる。

 「じゃあ、僕は行くから。もう悪い上官に騙されるなよ」

 ファーゴは天使のような少女をしばらく眺めていたかったが、首を振り思い切って敵DTから飛び降りた。

 「ま、待て……」

 飛び降りた彼には彼女の声が耳に残ったが、上官に騙された敵方の少女にものを尋ねてもムダなことだと自分で自分を言い聞かし、地上に着地後すぐに受身をとって転がった。

 ファーゴは立ち上がり、ダークネスに向かって走った。ダークネスの真上をふわふわと上昇する敵DTとその背にある天使を見やりながら……。

 つづく

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