夢導決機ダークネス

詩堂炉久人

プロローグ 『業火の中で』

 『……しろ!』

 暗闇の中から切羽詰った男の声が聞こえる。

 『投降しろ! おとなしく武器を捨て機体から出れば命は取らんぞ!』

 目と耳が慣れてきた。

 薄くぼんやりとコックピット内の計器の明かりが見えてくる。口から胃液を吐き出したせいか、機内に酸っぱい匂いが充満する。

 『聞こえているか!』

 こちらもスピーカーのボリュームを最大にして答えようとする。それからオフになっていた神経接続のスイッチを再度上に上げてオンにする。

 『聞こえーてーるよっ!』

 目を閉じると外からの視覚情報が網膜に浸入してくる。再び手足に力を入れて立ち上がる。

 “外”には灰色の人の形をした物体が五体いた。頭部にやや丸みを帯びたデザイン。彼らはそれぞれの武器を……左から火炎放射器、電撃砲、長剣、迫撃砲、壷のような形のミサイルポッドをこちらに向けて構えている。五体のうち真ん中の長剣を持った人型、この世界では“ドリームス・トルーパー(通称DT)”と呼ばれるロボット、種別は確か“マグ”……に搭乗している男が敵の小隊のリーダーであると彼は看破した。だが彼らの200メートル後ろからも敵の他のDT小隊が燃えさかる建物を避けながら近づいてくる。

 背中が焼けるように熱い。

 自分のDT“ダークネス”も燃える校舎を背にしていることを思い出した彼は、右手に持った大剣を握りなおす。そう、彼の神経は7メートルの黒いロボットの全ての情報が集まり一体となり、そして機体を自由自在に操れるように掌握していた。

 長剣を持った敵DTがこちらを斬ろうとするが剣の切っ先はダークネスを捕らえられない。彼は後ずさりながら冷静に足に力をこめる。そして視線を……ダークネスの頭部は紡錘形の複眼のため相対している敵のマグにとっては視線が読めない……火炎放射器を持った敵DTの背後に向けていた。

 『早く投降しろ!』

 『い、や、だーっ!』

 叫ぶと共に背中と両脚のブーストが点火し、彼の乗った機体は跳躍した。

 『撃て!』

 敵が発射した電撃砲と迫撃砲は空しく外れ、ダークネスは包囲の一番左側に居たマグの頭部へ着地しようとする。

 『ギロチン!』

 着地ではなくダークネスの左足が瞬時にカマキリの腕のような形になり、カマの刃は敵の機体頭頂部から下を串刺しにした。

 『マグリット!』

 彼の叫びと共にダークネスは再び跳躍し、マグの包囲網から3メートルほど離れた校庭の砂場……敵のオークと味方の防衛隊員の死体、そして緑色をした装甲が剥げ落ち、激しく燃えさかる友軍DTの残骸がそこかしこにある……に着地した。

 頭部から腹まで貫かれたマグは後ろへ倒れ、空中に向けて火炎が放射されたかと思うと爆発四散した。

 『くそう、撃て! 撃て!』

 マグたちはダークネスへ向きを変えようとするが彼らはほぼ横一列に並んでいたため、電撃砲を持ったマグ以外がそのまま右を向くと味方の背中を撃つことになってしまう。そのため数歩移動しなければならないが、それこそがダークネスに乗ったパイロット“ファーゴ”が計算していたことだった。機体の腰を低く保ち剣を構え、敵の電撃砲が火を噴く前にカタをつけよう。

 『ふん!』

 ダークネスの黒色の機体と同じ黒色の大剣による突きは敵のパイロットが乗る腹部を貫き、さらに後ろのマグをも貫き、そして三機目のマグの中で止まった。その大剣の長さはダークネスの身長と同じだった。横一列に並んでいたマグの隊列はダークネスの跳躍によって強制的に縦一列となって貫かれたのだ。

 『がああああっ……』

 敵パイロットのうめき声と共に、貫いた大剣はすぐに引き抜かれる。



 ついに最後の一機となってしまったミサイルポッドを持ったマグはよろめき、その場から背を向けて逃げ出そうとする。

 マグの後方で爆発音が響くが、マグのパイロットは恐慌状態に陥り逃げ続ける。学校の敷地を抜けて、まだ火の手が上がっていない住宅地に入る。

 だが黒いDTはなぜか追ってこない。マグに乗った名無しのパイロットは恐る恐る機体の動きを停止させてから後ろを向く。

 80メートルの距離を置いてだが、爆発時にあがった黒煙を背にして黒いDTはゆっくりとこちらへ歩いてきていた。右手には大剣をそして左手には迫撃砲を持っていた。

 迫撃砲が発射された。だがマグの数十メートル手前に着弾し爆発しただけだった。名無しのパイロットから恐怖は消え、笑いがこみあげる。

 「はっはっは。アイツ、俺たちの武器の射程距離を知らねーんだ」

 さらに迫撃砲の着弾と爆発。名無しのパイロットの笑いは止まらない。

 「あひゃひゃ。この距離ならば仕留めてみせる!」

 ミサイルポッドを構え、黒いDTに向けて引き金を引く。

 「死ね!」

 10発もの赤いマジックミサイルが、赤く輝く線を描きながら黒いDTへ向かったと見えた。が、目の前に居ない。ヤツのいた場所には迫撃砲が転がっている。

 「?」

 そのままミサイルは黒煙の中へ突っ込み、さらに爆発音が聞こえた。爆発の向こうで叫び声が上がる。

 ヤツを仕留めた? いや、上からあの少年の声がする。

 『ここだ』

 黒いDTは教会の屋根の上にいた。

 「くそっ」

 名無しのパイロットは慌てて教会の屋根へポッドを向けようとするが、黒いDTはまた元の道路へと跳躍していた。すかさずポッドは先ほどの道路へ向けて発射された。黒いDTはそこへ着地するハズ。

 『マグリット!』

 黒いDTは道路へと着地せず、またミサイルは黒煙の向こうへと……いや、黒煙の向こうから近づいてきたあれは彼にとっての友軍の……マグへと着弾し爆発した。

 「バカな……」

 自分が同士討ちをするとは。迫撃砲はヤツにとっては威嚇だった。こちらがミサイルをあの方向へ撃たせるように誘導していたのだ。

 名無しのパイロットの後ろで着地音がし、あの少年は絶望的なことを口にした。

 『ありがとな。お前のおかげで労せず、僕を追ってきた敵部隊を壊滅できた」

 「貴様!」

 叫んでマグごと振り向こうとしたその時、名無しのパイロットの人生は終わりを告げた。機体を縦一刀の元に斬られたのだ。



 『くそっ! くそっ! くそっ!』

 倒しても倒してもキリがない。住宅地にも火の手が上がり、数時間前までは平和だったステルの街は壊滅しようとしていた。

 次々とマグを降下させる敵の母艦“戦岩(いくさいわ)”は“マグリット”と呼ばれるダークネスの二段ジャンプの魔法を持ってしても届かない高度にいる。敵に対抗するクストール王国軍の戦艦が到着するまでここを、この街を守りきるしかなかった。

 ファーゴは戦いのさなか、クガル隊長の許可を得てダークネスを川の堤防沿いに隠し、大剣を堤防と堤防の隙間に置いてから雑巾を持ってコックピットから這い出す。なにかが焼ける嫌な匂い。匂いの正体はわかっているが、考えたくも無い。それから大剣に駆け寄り、急いで雑巾で敵の返り血とDTの廃液を拭き、“ダブ”というDTの血液の役割を演じるテントウムシほどの小さな虫たちを除去する作業をはじめた。これを怠ると次に剣が敵DTを斬った時に抜けなくなるからだ。

 「……ちきしょう」

 心の底から彼は叫びたかった。だが、今叫べば敵が襲ってくる。唇をかみ締め、彼は感情の爆発に耐えた。それから深呼吸をし、数時間前の楽しい光景を思い出そうと努めた。


 つづく



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