第43話
静かな集落の入り口で子供達がはしゃぎ声を上げながら遊んでいた。まだかなり距離はあったが、三人の子供はサラとレイの姿を見つけるとこちらに向かって駆け寄って来た。
「サラねーちゃん!」
「サラちゃん!」
「お姉ちゃん!」
叫びながら走ってくる姿に自然と顔が綻ぶ。けれど何故か途中でぴたりと足を止めてしまった。
サラは手を上げて年の離れた弟妹の名前を呼んだ。
「ルディ! ロルフ! ヴェルファ!」
髪の毛の中に埋もれそうなほど倒していた三角の耳をピンと立て、再び全速力で駆け寄ってきた。
サラは両膝をついて可愛い弟妹たちを受け止めた。
「久しぶり。みんな元気だった?」
「「「うん!」」」
三人は満面の笑みで声を揃える。三つの小さな尻尾が、ちぎれそうなほどに左右に振られていた。
人間と他種族の間に生まれた者は「
そしてこの異父弟妹たちも(コルヴォも)定説通りだった。大きくなれば必ず美男美女になるだろうと思わせる顔立ちに三角の大きな耳、毛並みの綺麗なふさふさの尻尾。
サラは自分の弟妹たちが世界で一番可愛いと思っている。
「この、小っちぇーのは何だ?」
尻尾がぴたりと止まる。それと同時にサラを掴む小さな指に力が込められた。
サラが見上げるとレイの顔が近くにある。彼は腰を折り、小さな三人を間近で見下ろしていた。
「私の弟妹で三つ子です。次男のルディに三男のロルフ、それに末っ子で次女のヴェルファです」
三人はサラの身体に隠れながら「こんにちは」と声を振り絞った。
レイはおもむろに自分の一番近くにいたルディの髪の毛をわしゃわしゃと撫でた。父親に似た黒銀の毛が、さきほどまでのサラのように無残にぼさぼさになっていく。
これでもレイはかなり手加減しているだろう。それでも魔族に頭を撫でられるという人生初めての経験に、ルディの耳は髪の毛に埋もれるほど倒れていた。サラをぎゅっと掴む手が微かに震えている。
「怖がらなくても大丈夫だよ」
ルディは姉の声に大きく頷いた。
レイは次に、サラと同じ柔らかい茶髪のロルフを撫でた。ロルフも耳が完全に寝ており、大きな目は固く瞑られている。
女の子であるヴェルファは母親と同じ綺麗な金髪に父親譲りの黒銀の耳を持っている。末っ子は怖がっているが自分の頭を撫で始めたレイを上目遣いでじっと見ていた。
「――可愛いな」
「え?」
レイの呟きが聞き取れずサラは振り仰ぐ。
「小さくて可愛いと言った」
自分と同じ意見にサラは笑顔でレイに詰め寄った。
「ですよね! 私もこの子たちが一番可愛いと思っているんです!」
レイは一瞬目を瞠り、にっと笑うと何故かサラの頭を撫でた。
「な、何ですか?」
「お前が一番可愛い」
「――は?」
真っ直ぐすぎる言葉と視線にサラの全身はかっと熱くなる。そんな自分を三つ子が興味深そうに見上げていることに気付き、頭が真っ白になった。
「これの、ど、どこらへんが!?」
恥ずかしさと混乱で、つい喧嘩腰の口調になる。けれどレイは全く気にすることなく「全部」と即答した。
「言っただろ? 俺はお前が好きだって」
真剣な眼差しにサラは視線が外せなくなった。鳥の
「私――」
「俺も好き!」
「僕もー!」
「ヴェルも!」
三つ子が尻尾をぶんぶんと振り、満面の笑顔を埋めるように抱きついてきた。言葉を遮られたサラは苦笑しながらも弟妹たちのいじらしさに相好を崩す。
ただ一人、レイだけは顔を顰めていた。
「お前ら邪魔したな。わざとか?」
「えー! 邪魔って何だよー」
「違うよー」
「わざとじゃないもん!」
「少しは空気を読んでくれよ」
「空気なんてよめないよ!」
「どうやってよむの?」
「変なのー」
最初の怯えはどこへやら三人はレイに向かっていき、彼は三つ子の体当たりを笑いながらかわしていく。ついさっき知り合ったばかりとは思えないほどすっかり打ち解けていた。
三人の笑い声とレイの愚痴で辺りは一気に騒がしくなった。
どっちも子供だ。
逃げ回る魔族と追いかける弟妹たちを見守っていたが、気が付けば視線はレイだけを追いかけていた。
「私も好きです」
初めて声にした告白は、誰にも聞かれることなく風の中に消えていった。
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