2.Researcher(研究員)七季 雫
彼はしばらく茫然としていた。
夢を見ているかのように。
我に返った彼は、残されたデータファイルをバイオマシンに解読を命じた。だが、バイオマシンはその解読に十年という時間を要することを科学者に告げた。
科学者は、その時間に嫌悪感を覚えた。しかし、その内容は現代においては解読不能なことであり、もし、それが実用化されれば、世界は変わる。十年という歳月が掛ろうとも、その全容が解読されるのならば、その歳月に賭けてみようと。
その解読は、他の協力者や科学者には極秘で行われた。
あのメッセージも、今、解読を始めたことも。全てを。
その後、彼は、あのメッセージにあった七季雫と言う人物を、思い描いた。
四十年後、自分の研究に携わり、この研究の最も重要な人物となる人の事を。
そして、メッセージの最後にあった「私が、時空を超えて愛した人です」
この事が、彼の頭から離れなかった。
十年後、あの科学者は臨終のときを迎えていた。
すでに彼の研究は、三ヵ国で各主要な研究を行うまでになっていた。あのバイオマシンもさらに改良が施され、十台あるメインサーバーは、個々に人間の脳の三十倍の処理能力を持つようになっていた。
この一年前、バイオマシンいや、バイオサーバーは、あのデータファイルの解読を終えた。予定より一年早くその内容が解読された。
その解読された内容を科学者は、丹念に考査した。バイオサーバーは、その解読された結果をひとブロックごと原文と、その対象となる文面を数式で表していた。その数式は彼にとってはなじみのある数式ばかりだった。この現代でも、その数式構成は十分に立証されているものばかりだったからだ。
彼は、そのデータの考査を途中で止めた。
その後、科学者は、自分専用にバイオサーバーを三台構築するように命じた。
彼は、その膨大なデータを一人で解読するには時間が足りなかったのだ。すでに、自分の命が終わることを知っていたからだ。
もう一つ、彼が考査をやめたのには理由があった。
それは、バイオサーバーがあえてかどうかは解らないが、原文を表示したことだ。
その原文は、英文字と数字の羅列が主となり、その至るどころに、現在では使われていない形の文字だろうか、又は何かの記号だろうか、意味不明のものが記載されていた。
その羅列はある規則性を持っていた。
彼はその原文のブロックをさらにパージして、個々に表示形式を変えてみた。するとその羅列は、一つづつがその意味を持ち、常に結果を吐き出し、それを再構築するように流れがあることに気が付いた。
それは、現代には無いプログラム言語であると推測した。
バイオサーバーは、そのプログラム言語を理解し閲覧者が最も浸し身安い表現として数式を表示したのだろう。
だとするならば、バイオサーバーはすでに、そのプログラムが意味している事を実際に稼働させることが出来るのではないだろうか?
そう考えた科学者は、指示していた三台のバイオサーバーに、あの圧縮されたデータファイルと、その解読の経過、膨大な解読データを移植した。彼一人の手によって。
その三台のバイオサーバーは、他の現在稼働している、これから増設されるであろうバイオサーバーとは別なワークスペースに設置された。セキュリティーは、他のサーバーからの干渉を受けつけないよう何十にも貼り廻られた壁、いや既にファイアウォールと言う概念はなくなり、バイオサーバーのコアにある意思がそのセキュリティーを保つようになっていた。
そして、その最終の「決定実行権限」は科学者の意思が反映されるように設定された。
彼は最後に、あのメッセージを出来るだけ忠実に思い起こし、あるプログラムとして三台のバイオサーバーに残した。最重要機密として。
その一か月後、創業者である科学者は、その使命を終えた。
ある決意のもとに。
二千四十年六月アインシュタインの子孫となる科学者は、未来と言う時間軸に希望を託して、長い眠りについた。
科学者の死後、三台のバイオサーバーは、入れ替わる様に稼働を始めた。
その存在を、だれにも知れれない様に。
三か所にある大規模研究所にはそれぞれ、通称闇の情報部と呼ばれる部署がある。
この部署は、僕ら研究者とは別な組織体で構成されている。その存在は、この研究所でもトップシークレットとして、その内容は公表されていない。だから、いつしか研究所内では闇の情報部と呼ばれるようになっていた。
だが、この闇の情報部は僕ら研究者にとってお助けマン的な存在だった。
なせなら、僕らの研究は、現代の科学力では解明の出来ないテーマを研究している。
実際、この研究は何度も暗礁に乗り上げていた。現代の僕らの知識では到底解明できない事項が山積みされていたのだから。
その時、行き詰ることが分かっていたかのように闇の情報部からメッセージか来る。
「Believe」信じろと。
その後必ず、打開策のヒントが記載されてくるのだ。
僕ら研究者、いやこの研究に携わる誰もがその事について追及する者は、だれ一人としていなかった。
その情報に僕らは、すがるしかなかったからだ。
研究はこの情報を土台とし、その必要な機材までも合わせて造られてた。
その結果、各研究所の技術水準は飛躍的に進み、現代の百年以上をも進む技術レベルとなったのだ。
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