第16話 指名を取る裏技
久美子さんは自分の胸の前で組んだ右手人差し指をしきりに動かしたり、上を見上げたり、下を見たり、窓の外を見たり、時折「あーっ」という声をあげたりしている。
私の事を一生懸命考えてくれているのが伝わって来る。数分後、急にハッと思いついたのか私をまっすぐ見つめこう言った。
「春香、知り合いを呼びなさい。もうそれしかないわ」
知り合い。その手があった。
「あなたのお父さん、お母さん、兄弟、友人。だれでもいいから処方箋を持ってきてもらうのよ」
「でも、家族は今年からダメになったんじゃ……」
「あっ、そうだったわね」
昨年、指名が取れないクローバー薬局のある薬剤師が指名ゼロでのクビを免れるため、親の処方箋を受け付けた。この事に問題はなかったのだが、これをきっかけに、家族しか指名のない薬剤師が急増してしまったのだ。指名が家族ばかりでは社会に貢献できていないという理由で、クローバー薬局の内規により、二親等以内の家族は指名数に入らなくなってしまったのだ。
「じゃぁ、友達を呼びなさい」
「友達はすでに他の薬局に取られていました」
久美子さんは下を向いて大きなため息をついた。
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