第429話 馬泥棒(未遂)

 王都郊外で、引き取り手を待つ。テントはもう片付けて、ノワールと一緒に盗賊達が入った網に囲まれてる状態。


 盗賊達は衛生? 何それおいしいの? な連中らしく、汚れているし臭い。なので、中心のここだけは結界を張っておいた。


 盗賊連中は、皆ぐったりとしている。護くん、何かやったのかな?


『やったのはとーるくんのようです』


 マジで? とーるくんに、そんな機能付けたっけかな……


『大型魔獣捕獲用の電撃を弱めて、盗賊達に複数回使用した形跡があります』


 そうかー……それだけ、盗賊達が騒いだって事なのかなー。今おとなしければ、もういいや。


 そのまま待つ事しばし。王都の方角から音が聞こえてくる。蹄の音じゃないけど、がらがらと車輪が回る音。


 お、馬車ならぬトカゲ車が大量に来た。あれが引き取り手だな。それにしても、凄い数が来てる。


 そりゃそうか。捕まえた盗賊の数、結構なものだもんねえ。


「サーリ、お疲れ様」

「あ、領主様……と、何で銀髪さんや剣持ちさんまで?」

「いちゃ悪いのか?」


 じろりと銀髪さんに睨まれたけど、悪い訳じゃないがいる必要もないと思うんだ。


 それを正直に言ったら多分拗ねるだろうから、なんとなく視線を逸らす事で誤魔化した。


 引き取り手は兵士が多くて、周囲に集められた盗賊達を見て驚いている。


「あ、網に対応する手配書が貼り付けてあるので、全部揃ってるかどうか確認してくださいね」

「こ、ここでか?」

「もちろん」


 不正は見逃さないよ。領主様も大変いい笑顔で私の援護をしてくれた。


「よもや王宮に連れ帰ってから、確認するなどと言わないだろうねえ?」

「い、いえ……」

「ここでやっていった方が、手間が省けるだろう? 早くしたまえ」

「は」


 どうやら引き取り手の代表みたいなおじさんが、渋々手配書と捕まえられている盗賊達の確認に動いた。


 一応、ちょっと上の方で、ステルス状態の護くんが彼等を監視している。不正は許さんよ不正は。


 どうもね、山脈の一件以来、この国の人達を信用出来なくなってるんだよなあ。セコい人達は、好きになれない。


 今回結構な人数を連れてきたようで、確認が次から次へと行われていく。で、人数が多いとダメな連中も出てくるのは、もはやお約束?


 何だか嫌な感じのする兵士二人が、こっちに近づいてきた。


「盗賊達が貯め込んだ盗品はどうした?」

「さあ? 今回依頼されたのは、盗賊捕縛だけですのでー」


 ちょっと嘘。貯め込んだお宝は全部回収して亜空間収納の中だよー。でも、正直に話す必要もないよね。


「ちっ。ん? この馬はどうした?」

「私の馬ですよー」


 本当は天馬だけど。黒いから、多分気づかれない。翼も小さくしてるから、ぱっと見は普通の馬だし。


 でも、大きいし体格もいいから、「いい馬」に見えるんだよね。いや、ノワールは確かにいい子だけど。


「これは盗賊が使っていた馬じゃないのか?」

「だったら、押収品として我々が連れて行く」

「だから、私のだって言ってんでしょ。こら、勝手に触らないの!」


 ノワールに手を出そうとした兵士の手に、軽く電撃を与える。叫んで飛び退いた挙げ句、盗賊の網に足を引っかけて転んじゃったよ。ダサー。


「き、貴様ああああ!」


 転んだ人と一緒にノワールを取り上げようとした兵士が、二人して剣を抜こうとした。


 今度は結界で防ごうかな、と暢気に構えていたら、横から来た人達にあっという間に兵士達が倒されちゃったよ。


 おおー、剣持ちさんはまだしも、銀髪さんって強かったんだー。


「何をしている?」

「丸腰の女子供相手に剣を抜こうとは、この国の兵士の教育はどうなっているんだ?」


 銀髪さんも剣持ちさんも、声が低い低い。倒された兵士は、どちらも腕を切られたらしく血のにじむ箇所を手で押さえて震えている。


 銀髪さんもそうだけど、剣持ちさんの方が怒ってるらしい。いや、それにしても「女子供」ってのはちょっと引っかかるよ。


 これ、相手が男性でもダメなやつだから。


「何かあったかの?」

「どうかしたかい? フェリファー」


 あ、じいちゃんと領主様。後ろには、さっきの代表者らしきおじさんもいる。


「閣下。この者達が、因縁をつけて馬を取り上げようとしたようです」

「ほう? この国では軍の正規兵が追い剥ぎのような事をするのかね?」

「いえ! そのような事は……貴様らあああ! 我が軍の誇りを忘れたかああ!」


 おじさん、怪我した兵士達を一発ずつ張り倒したよ。


「この者達は、後できつく言い聞かせておきます!」

「ふむ、言い聞かせるだけとは、なかなか温い事を言う。では、この事は後ほどグアド二世陛下に私からご報告申し上げよう」

「お、お待ちを!!」


 おじさんも、怪我した兵士達も顔色が悪い。って事は、これは軍の一部が腐ってるだけって事?


 でもなあ、あの上だからなあ。




 盗賊の確認は、きちんと行われ、その場で代表者が確認済みの書類を作成した。


 護くんの監視から逃れて、不正をする事は出来ないからね。その辺りは、ちゃんとやってくれたみたい。


「これで山脈は君のものだよ。良かったね、サーリ」

「ありがとうございます! 領主様」


 やったね。これで温泉開発が出来るよ! 場所によっては、バニラ栽培も出来るかも? 自生しているものだけでなく、手元で増やせるのはいい事だ。


 亜空間収納に入れたやつも、あと一月ちょっとで使えるようになるからね。待ち遠しいってものだ。


 で、王宮に戻ってきたら、何故か私まで王様の前に連れて行かれた。ちなみに、個人的な客人を迎える部屋らしい。


 えー、何でー?


「そのままの格好でいいからね」


 そう言われましても……


 でもまあ、領主様が言うんだから、きっと必要な事なんだと思う。

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