第70話 スライム断熱材

 丁度いいので、改めて砦の修繕を計画してみる事にした。


「一番奥、湖に面した塔は四階建ての石造り。これは元の形に復活させようかなーって思ってる」

「ふむ。石造りじゃと、冬は寒そうじゃのう。北の冬は厳しいぞい?」

「そこはちょっと考えてる事があるんだー」


 実は、魔獣素材を使った断熱を検討中だ。普通なら盗賊のアジトで見たように、壁や床に毛皮を敷くんだろうけど、それだけじゃまだ寒いと思うんだよね。


 なので、壁の外側に断熱材を仕込んで、その上から薄くした石材を貼り、さらにその上から漆喰を塗ろうと思う。


 そして断熱材には何を使うかと言えば……


「じゃーん。これを使おうと思います!」


 取り出した桶の中には、よどんだ緑色の水が入っている。いや、水じゃないんだけど。


「こりゃ、スライムじゃないか。核を綺麗に壊したようじゃのう」


 そうなのだ! スライムって言ったら、透明感のある綺麗な水色とか緑色とかを想像していたけど、この世界のスライムはよどんだ色をしていました……


 いや、色はいいんだ色は。こっちが思い描くように使えれば、それで問題なし。


 このスライム、実はすぐ下の湖にたくさんいるんだよね。害がないタイプらしく、組合の方でも駆除は特別しないんだって。


「ふっふっふ。これにちょいとある加工をしてから、一定の魔力を流すとですねえ……」


 スライムって、核を攻撃して倒すと本体はゲル状で残るんだ。普通は本体を火で焼いて核を取り出すらしいけど。


 で、そのゲル状のスライムに魔法で気泡をたくさん送り込む。すると、本体が細かい泡を内包して膨れ上がるんだ。


 そこにちょっとだけ魔力だけを流すと、今度はそのまま固まる。これで発泡スライムの完成。スライムって、本当面白い。


「おおおお!? 何じゃ? これは!」


 さきよりも若干色が薄くなったスライムが、桶の中で固まっている。堅さは軽石程度かな。これ、手でも簡単に割れるんだよ。一回試した。


 断熱には空気の層、って聞いた事があるんだ。だからダウンコートとかは温かいんだって。空気の層って、熱を通しにくいらしいね。


 で、スライムの核を割って本体を残し、残った部分に魔力を流すと、魔力の量によって固まり方や弾力が変わるんだって。


 この知識をくれたのは、検索先生です。さすが先生。頼りになるう。


 他にも流す魔力の量によって、ゴムみたいになったり、石みたいに堅くなったりするんだよ。本当面白いよね。


 そこでは魔力の流し方によって、スライムの堅さを色々変えて使ってたなあ。


 ゴムみたいになったり、石みたいに堅くなったりするんだよ。本当面白いよね。


 で、うちでは発泡状態にしてから固めて、外断熱用の素材にする訳だ。


 ウレタンみたいに柔らかくする事も出来るから、石材と木材の間の断熱材にしてもいい。


 私が作った発泡スライムを見て、じいちゃんが首を傾げる。


「で? この珍妙なスライムを、どうするんじゃ?」

「珍妙って……きちんと形を整えて、壁に貼り付けるんだよ。そうすると、泡の力で外の熱を中に伝えにくく出来るの」

「はへ? スライムで、熱を伝えにくくする?」


 いや、熱を伝えないのはスライムじゃなくて、中の泡に入ってる空気なんだけど。


 じいちゃんでも理解出来ないか……まあ、私も詳しくは知らないけどね。


 とりあえず、細かい泡を作って空気を閉じ込めると、熱が伝わりにくくなるって事だけ知っていればいいから。


「塔は居住空間になるから、他にも温室とか畑とか食料貯蔵庫とか色々作る予定」


 敷地は割と広いから、畑には困らなそう。後、壁が高くて日当たりが悪くなりそうなところは、壁の上に土を盛って細い畑にしちゃえ。


 あそこ、本当なら兵士が周囲の見張りをしたり、戦争の時はそこからも攻撃出来るように作られてるんだけど。


 今は戦争はしていないし、魔物の襲来も、もうない。来るとしたら、魔獣の大発生くらいかなあ?


 まあ、もし魔物の残党とかどこかと戦争なんて事になったら、砦全体を結界で覆うから問題ないけど。

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