旅商人ナジオロの冒険日記

1ページ ナジオロの旅立ち

 帳簿とは別に記録している旅日記もこれで三冊目だ。

 今回も日付はルゲリオ暦に準拠する。


 日記だからだれに向けて書いているわけではないんだけど、最初のページということで自己紹介をしておく。

 僕の名前はナジオロ・ロント。十五歳。

 グナルシア商会を一代で築きあげた父ナルジレ・ロントの手伝いではじめた行商を、いまでは生涯の仕事と信じて取り組んでいる。はやく一人前の商人になりたいとがんばる毎日だ。自分としてもここ最近はバリバリ成長できている……と、思う。あはは、思うのは勝手だからね。


 それから。二冊目の最後にも誓ったけど、この三冊目が終わるころにはきっと、弱気な自分を克服していたい。


 僕はやるぞ!



■ 竜待月 24日 (晴れ) ■


 ルーゲリア帝国・マハレスクの街での商売は今日で終わり。ここにはずいぶん長くいたなあ。勉強になることも多かった。儲けもなかなか。


 次の目的地はサラミナ王国最大の都市・シャモンディに決めた。明日の朝、出発する予定だ。

 ここからだとゴージョン街道を百六十デューワール北上すると行ける。馬車を使えばあさってには着けるだろう。勝手に遠いと思いこんでたんだけど、意外と近いもんだね。

 品物は現地でグナルシア商会の人から受け取ればいいので、身軽なものだ。そうそう、サラミナの通貨を多めに持っておかなければ。


 ◎忘れずにやること◎

 ルーゲリアの通貨をいくらかサラミナの通貨に両替する。



■ 竜待月 25日 (晴れ) ■


 朝方にマハレスクを出た。

 コリエラン川を越えると、ガルシーク王国の領内だ。ガルシークにはとりあえず用がないのでそのまま素通り。夕方にはトゥオール川を渡ってサラミナ王国に入った。

 日が落ちたころ、ここウェスゲンの街に到着。宿をとった。


 街をすこし見てまわったけど、さすが王都オモーギンに近いだけあって活気がある。きっと商売のしがいもあるね。地盤の安定した平野だから、大きな建物をつくっても大丈夫かな。

 ちなみに夕食は太めの麺に地産の野菜ソースをからめたナパッタという料理を食べた。美味しい! ほかの地域でも食べられるようになればいいのに。グナルシア商会で取り扱えるよう提案してみようかな?


 ところで、今日乗った馬車はひどかった。

 マハレスクから乗った馬車は良かったのだけど、トゥオール川を渡るまえに乗りかえた馬車がもう。いや、乗り心地が悪かったというわけではない。乗り心地は良かった。

 問題は馬を走らせる馭者ぎょしゃだ。なんと、ルゲリオ語がほとんど通じない! 北部からきた人だと思う。あれはサクスター地方のなまりかなあ。南部にくるなら、というか馭者なら、基本的なルゲリオ語くらいはマスターしておいてほしいものだ。まったく、これまでどうやって商売していたのか気になるね。


 まあでも北部で商売をするとしたら、僕も向こうの言葉を勉強しておかなければならないんだよね。北部は南部とちがって言語が統一されてないからちょっとめんどくさいけど……。サクスター語とヨライ語くらいは勉強しておかないといけないかも。向こうは資源も豊富だしね。

 うん、そうだ、農作物を流通させるなら進出すべきだよね。決めた。勉強しよう。


 さあ、明日にはシャモンディだ。


 ◎忘れずにやること◎

 明日の出発前、グナルシア商会ウェスゲン支所に挨拶する。商人にとって人脈は命!



■ 竜待月 26日 (晴れ) ■


 グナルシア商会ウェスゲン支所の人たちに挨拶を済ませたあと、早めの昼食をとってからまた馬車。今回の馭者はサラミナの人だった。良かった。言葉が通じる安心感ったらないよ。

 そういえばウェスゲンから北東へ行けばサラミナ王立図書館があるんだよね。大陸一の蔵書数を誇る図書館というし、いつか時間をとって行かねば。


 ずっと通ってきたゴージョン街道からトラムール街道へ入り、すこし西へ行けばシャモンディに到着。夕食まえに着けてよかった。さすがサラミナ王国でいちばんの都市。人も店も多い! 露天商も! ここでしばらく商売をすることになるんだなあ。なんだか感動。


 さっそく宿をとり、ご飯に出かける。まずはこの土地の味を知っておかないとね。

 といってもいろんな地方から人が集まっているからか、「これぞシャモンディの味」というお店はなかなか見つからない。結局ルーゲリア料理のお店で済ませてしまった。美味しかったけど、もう食べ飽きてるんだよね~……。


 ただ、トゥジナ料理のめちゃめちゃ美味しいお店があるという情報をキャッチ! トゥジナ出身者としては、これをたしかめないことには先へ進めないわけ。シャモンディ料理は夜にしておいて、ランチは魚をたらふく食べよう。楽しみ。楽しみすぎる!!


 ◎忘れずにやること◎

 トゥジナ料理を食べたらグナルシア商会シャモンディ支所へ行って、品物を受け取る。



■ 竜待月 27日 (快晴) ■


 大変なことが起こった。僕はいまリベルザに来てしまっている。

 自分でも気持ちの整理がついていない状態だ。

 一日のできごとを、順を追って説明したい。


 まずは朝。

 トゥジナ料理が楽しみすぎて早起きしてしまった僕は、散歩がてら街を見てまわることにした。健康のためでもあるし……。

 そんなわけで限界まで腹ペコにしてようやくお昼、噂の店に行った。

 もう、テーブルにつくまでが大変。ほかのお客さんが食べてるものが美味しそうで美味しそうで、たまらなかった。だからとにかく頼んだよ。六、七皿注文したと思う。

 塩魚にから揚げ、マリネのサラダに魚介スープ、それからええと、なんだっけ。どれも美味しかったよ。でもほとんど覚えていない。食事のことを忘れてしまうなんて僕らしくないと思うでしょ?

 でも、だってさ、それどころじゃないことが起こったんだ!


 ダラルードだよ! 英雄ダラルード=ダレイル!


 いたんだ、僕の席のすぐうしろに。あの英雄ダラルードの生まれ変わりが!


 たしかに噂には聞いていたよ。ダラルード=ダレイルの生まれ変わりが旅をしているって噂。でもさ、本当に、現実に、自分の目の前にいたんだ。びっくりしたね。思わず声をかけちゃったもん。

 なんか、黒マントのあやしいおじさんがお店にやってきて、「ダラルード殿、勝負しろ!」なんて叫んでるもんだからさ。

 勝負ってケンカ? ケンカはよくないんじゃないかって。つい止めに入ってしまったんだよね。

 まあ、結局ケンカは行われることになっちゃったみたいで、仕方ないから衛兵さんを呼びにいった。そのときの僕は、それが正しいことだと思ったんだ。



 ……でもさ、ちがったんだ。僕は間違っていた。

 二人は真剣に戦っていた。僕は商人だから剣士の気持ちはわからないけれど、きっとあれは男としての魂というか、プライドをかけた戦いなんだ。商人でいうと仕入れのとき、似たような感覚になるかもしれない。本当は、僕は邪魔しちゃいけなかった。衛兵さんを呼ぶべきではなかったんだ。


 だから謝ろうと思って探したよ。

 すると彼らはなぜか仲良くなっていたみたいで、一緒にリベルザ方面へ向かう馬車に乗るところだった。

 さっきまでケンカしてたのに? どうして?

 ……わかってる。僕も男だ。商売でもそうだよ、激しく競い合ったあとは、なんだか相手を褒めたたえる気分になるんだ。


 僕は急いで宿にもどり荷物をまとめると、彼らと同じくリベルザ方面への馬車に飛び乗った。自分でもどうかしていたと思う。

 ……謝りたいだけ? ちがう。臆病な自分にできないことを目の前で見せられた。魂がふるえたんだ!

 それから、妙に惹きつけられるところがダラルードさんにはある。いや、一緒にいた二人もだ。彼らはすごい。僕がこれまで会ったどんな人たちよりもすごい。彼らの行く先を見てみたい。

 ……できることなら、僕も仲間に入りたい!


 今日のできごとを書いていたら、また興奮してきてしまった。

 明日は彼らにコンタクトをとってみよう。リベルザに来ているのは間違いないはずだからね。おやすみなさい。


 ◎忘れずにやること◎

 グナルシア商会シャモンディ支所へ、お詫びの手紙を出す。



■ 竜待月 28日 (はれ のち おおあめ) ■


 たいへんなことがおこっ た

 にっきは またあした


 とりあえず いきてる

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