第28話 王の剣を綾なす破壊の衝動

 刃は合成魔獣キメラの肩口から、いささかも抵抗なく胴を切断する。

 退魔の聖剣エルシャフィエは、その能力を完全に取りもどしていた。


(どういうことだ……、魔獣ではなくエルに原因があったというのか?)


 飛びかかってきたイヌ型の合成魔獣をさらに一体、斬る。

 魔力をそなえた存在を斬るときのあの感触。魔力の根源そのものを絶つような感触が、マクィーユの手に伝わってきた。


(結界のせいで聖剣エルの能力が抑えられていた、と考えるのがやはり妥当か……? しかしヤコの聖なる杖ジェスターレルムは正常に使えていたはず……)


「マクィーユ殿! うしろだ!」


 クラッサスの声に反応し、振り向きざま流すように一体。

 手首を返し、斬り抜けてもう一体。

 二体のトカゲ型魔獣が、灰になって雨に溶けた。


(そうだ、今はそれどころではない!)


 マクィーユとクラッサスは、治癒中のヤココットとルカを守りつつ戦っていた。


 数十体にもおよぶ合成魔獣が四人を取りかこむ。

 それらは街のなかにいた統率のとれていない個体とはちがい、あやつる降魔師の魔力に呼応して動いている。修練場のわきで不気味な笑みを浮かべているその魔獣使いの降魔師は、無防備なヤココットとルカをねらっているようだった。


 しかしそれはマクィーユとクラッサスにとって、かえって好都合であった。なぜなら、ねらう場所がはなからわかっている相手など、彼らにとって敵ではない。ただひたすらに、合成魔獣の死骸が次々と積み重なっていくだけだ。


 ほどなく、ルカの治癒を終えたヤココットが立ち上がる。クラッサスに駆け寄り、起き上がったルカをちょいちょいと指でしめした。


「おお、ルカ殿! 本当に治るとは……。すごいな、ヤココット殿は」

「あたしはなにも! それから、ヤコでいいですよ、おじさま!」


 にこにこしながら顔のまえでぶんぶんと手を振り、謙遜する。ひと呼吸するとジェスターレルムに祈りをささげ、クラッサスをやわらかな光でつつんだ。


「おお、おお、なんと、傷がふさがっていく! ヤコ殿、お見事!」

「いえいえ~! 治せるのはちょっとしたケガだけですので!」

「ちょっとした? しかしあれほど傷ついていたルカ殿も完治したように見えるが?」

「それが、奇跡的に打ちどころがよかったみたいで! えへへ、なんとかなっちゃいました!」

「それはよかった、ハッハッハ」


 襲いくる合成魔獣を器用にさばきながら、紳士はわらった。


 ようやく立ちあがったルカは、みだれたブラウンの髪を両手でととのえながら苦笑いする。


「おっさん、さっきはありがとな。おかげで命拾いしたよ」

「ハハ、なんのことですかな? 礼ならに言うがよい」

「ああ、わかってる」


 二人の視線の先には、〈空の王者を模る石塊の戯具モルス・プリンシピアム・エスト〉と戦うダラルードがいた。


 雨のなか、金属と石のぶつかる音が断続的に響く。

 ダラルードの振るう大剣は数体の合成魔獣を斬ると同時に、石像の魔族へも攻撃をくわえていた。

 しかし石像の魔族は弾かれるたびすぐに体勢を立てなおし、ダラルードに爪をとどかせようと宙を舞う。ダメージは、おそらくない。


「陛下でも壊せないときたか……、なら」


 ルカは不可解な言語で魔術式を成立させると、小さなつむじ風のような魔力結晶を手のひらに生みだした。


「……貴様、やはり降魔師だったか」


 声は、美しくもとげのあるいばらを思わせた。

 マクィーユが流れるように合成魔獣を斬り伏せながら、ルカに侮蔑の眼差しを向ける。


「そうだが、なにか問題でもあるのか」


 視線すらあわせずこたえるルカの態度に、それまで抑えていたマクィーユの感情に火がついた。


「ッ、大ありだ! 神の加護を受けるダル様のおそばに、魔の力をもつ降魔師が……、なんという……!」

「はあ? なに言ってんだ?」

「それに貴様、なぜ結界のある街に入ることができた! 答えろ!」

「マキさま、そんなこと言ってる場合じゃないですよ!」


 見る見るうちにボルテージのあがっていく神官長を、ヤココットがなだめる。


「降魔師、貴様! あとで話を聞かせてもらうぞ!」


 怒りがおさまらないといった具合のマクィーユのまえに、また二体、合成魔獣の死骸が増えた。


 とうのルカはというと、こういった扱いには慣れている。

 なにも気にしていないかのように、生みだした風の結晶をダラルードの戦っているほうへトンと押した。

 結晶は激しい衝撃音をとどろかせながら、近づいた合成魔獣を吹き飛ばしていく。手のひらにおさまるほどの小さなサイズではあるが、この魔力結晶は紛れもなく中級魔族であるのだ。


「待ってたぜ、ルカ!」


 風の結晶に気づいたダラルードは一度だけルカと目を合わせると、力強く大剣を振りあげる。

 そしてためらうことなく、浮かぶ風の結晶を叩き斬った。


 バチン!とさらに激しい衝撃音をとどろかせ、結晶は姿を消す。

 かわりに、ダラルードの大剣がつむじ風を纏っていた。


  “王の剣を綾なす破壊の衝動エッジ・オブ・サニティ


 ルカがダラルードの大剣に付与エンチャントするため、特別に調整した魔力結晶。


「オラァァッ!!」


王の剣を綾なす破壊の衝動エッジ・オブ・サニティ〉を纏ったダラルードの大剣が、石像の魔族を弾き飛ばす。

 ひときわ大きな衝撃音、巻き起こる旋風。


 翼をつかい空中で踏みとどまった石像の魔族は、みずからの身体にヒビが入っていることを確認し、かん高く叫んだ。その声は驚愕にも、憤怒にも、恐怖にも感じられた。


「っしゃ、これならいけそうだぜ!」


 そして対照的に、英雄の心はおどっていた。

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