第21話 ダラルードの懸念

――同時刻、ドミ・アルダライルにて。


「わざわざ結界内に侵入してきたっていうからどんな手ごわい魔獣かと思ったが……、まったく手ごたえがなかったな」

「おそれいりますが、ダラルード王が強すぎたのかと……」

「そうかぁ? 魔王ゾディヅがいたころの魔獣はもっと強かった気がするぜ?」

「まっ、魔王の配下とくらべられましても!」


 ダラルードは路上にころがった魔獣たちの死骸をじっと見つめながら、戦闘の感触を思いかえしていた。

 パワー、スピード――単純な攻撃力ならなかなかのものだった。普通の兵たちにとっては強い相手といえるかもしれない。だが、それまで戦ったことのある魔獣とは決定的になにかがちがう。そう感じる部分があったのはたしかだ。いわば凶暴化した野生の獣を掃討しただけのような、そんな気分だった。


「まあ、いいか。それはいま考えても仕方ないからな。それより……」


 街の南側に群れていた魔獣を一体残らずほふったダラルードたち第一部隊は、第二波の襲来にそなえてそのまましばらく留まっていた。しかしあまりに新手の気配がないため、騎士の一人をつかいに出し、神殿守備の第三部隊と連絡をとって戦況をまとめなおすことにした。

 さいわい第三部隊にはマクィーユが遊撃しつつ救った騎士たちが幾人かあつまってきており、街の現状を知るにはうってつけであった。

 情報によると神殿周辺をはじめ、北口にもそれほど多くの被害はなく、街に散らばった魔獣たちも避難誘導部隊やマクィーユの手によりそのほとんどが討伐されたとのことである。


 そんななか、ダラルードにはひとつ気がかりなことがあった。

 教団施設内で聞いたあのひときわ大きな爆音。おそらく、被害報告にあった聖堂の壁が破壊されたときの音だと考えられる。だが、そこまでの力をもった魔獣にはまだ自分は遭遇していないし、ほかの部隊で倒したというしらせも届いていない。


「まだ強いのが残ってるはずだぜ……。どこにいやがる?」


 ダラルードがやきもきしていると、火事の対処にこまっていた街に恵みの雨が降りはじめた。今はまだ小雨だが、この様子だと篠を突く大雨となるのにそう時間はかからないだろう。


(とりあえず魔獣と火はなんとかなりそうだが……。やはり気にかかるな)


 腕を組んで思案していると、街をひとまわりしたのだろうマクィーユが駆けてくるのがわかった。見たところ、ひとつのケガも負ってない。ルクネイア騎士団を率い、エルシャフィエを使いこなすだけはある。やはり、強い。ダラルードは純粋にそう思った。


「ダル様!」

「無事だったか、マキ。それからヤココット……だったな」

「ヤコでいいですよ、ダルさま!」

「こ、こら、ヤコ。王に向かって……」


 王に対する非礼をさとすというよりは、ダラルードを呼ぶ自分の真似をされたと感じて、マクィーユはなんだか恥ずかしかった。


「ハハ、それくらいのほうがいいぜ。それで、状況はどうだ?」


 降りはじめた雨が石畳を濡らし、街に色をつけてゆく。

 ニコニコと笑いつづけるヤココットをまえに顔を真っ赤に染めていたマクィーユだったが、王からの質問で自らの役割を思いだし、騎士長の顔にもどる。


「あらかた片付いたかと。そういえば、途中で副長の第二部隊から話を聞いたのですが」

「おう、ベルギュストたちはどうしてた?」

「北側にはそこまで敵は集中していないようです。兵を南にまわしてもよいとのこと。それから……」


 言いよどむマクィーユを、ダラルードがうながす。


「なんだ? 言ってみろ」

「お付きのルカ様が北側から街を出て、西の山へむかっていくのを見たという報告がありました。それを追うようにクラッサス様も出ていったとのことです」


 ルカが降魔師であることやその思惑、そしてダラルードとの信頼関係についてまだ十分に知らないマクィーユには、彼がどうして戦場を抜け出したのかが理解できなかったのだ。


「はっはっは、もしかしてルカが逃げたと思ったか?」

「い、いえ、けっしてそんなことは……!」

「あいつなら大丈夫だ。もちろん、おっさんもな。それから、ルカは俺のお付きじゃねえぜ。わざわざ山へ行ったんなら、あいつなりになにか考えが……」

「たいへん失礼いたしました。ルカ様は武具をお持ちでないようだったので、つい……」

「待てよ、ルカは山へ……? そうか、もしかして!」


 ルカは聖堂の壁を破壊した魔獣を追っていた……?

 それともルカが追っていたのならば、聖堂の壁を破壊したのは魔獣ではなく“ヤツら”だという可能性もある。

 いや、そうだとしたら結界をやぶれないはず……。


 ダラルードにも真相はよくわからなかったが、どうやらカギはルカが握っていることは間違いないようだ。


「ダル様、各部隊はどういたしましょうか?」

「北に敵が少ないのはフェイクかもしれん。ベルギュストには隊を動かさずそのまま待機してもらおう」

「この南はどうしますか?」

「ジュルーヴュの部隊と避難誘導部隊から何人かまわすように伝えてくれ。街のことは副長たちにまかせる」

「ということは、ダル様は動かれるのですね?」


 ダラルードが無邪気にニヤリと笑う。

 背中の大剣を据えなおし、楽しそうに言った。


「さて、黒幕を倒しに行こうか!」


 雨足が、すこしずつ強くなってきていた。

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