第16話 魔獣との遭遇

 騎士団を八部隊にわけ、魔獣を殲滅する部隊と、住民を避難誘導する部隊で行動することが敵襲の報からものの数分で決まった。


「人員の配置についてはどうされますか?」


 マクィーユはダラルードとクラッサス、ふたりに向けて聞く。ダラルードだけでなく、クラッサスももはや上官であるという認識が彼女のなかにあった。


「ふむ。132名の騎士なら魔獣撃破部隊に18名ずつ、避難誘導部隊に15名ずつでどうか」

「避難誘導部隊はそれでいい。なるべく戦闘経験のある者を撃破部隊にまわしたいが、避難誘導部隊にもそれぞれ2名ずつは経験者を入れておいてくれ」

「撃破部隊はいかがする?」

「隊ごとに人数を変える。まず第一部隊は俺が率いる。報告からもっとも敵の多いと思われる南側入口から神殿までの通りで戦う。おっさんもついてきてくれ」


 クラッサスは無言でうなずいた。


「第二部隊はベルギュストが指揮。北側の入口を死守しろ。できるか?」

「はっ、命にかえても」

「ダメだ、生きろ。死守は言葉が悪かった。すまん」


 ベルギュストも無言で頭をさげた。


「第三部隊は神殿の守備。ジュルーヴュのじいさん、たのめるか?」

「魔獣一匹たりとも、神殿に近づけさせません」

「よし。そして第四部隊はマキが率いてくれ。遊撃隊として、街中をまわりながら魔獣を見つけ次第、各個撃破。ちょっと大変だが、街を熟知したお前にしかたのめない。できるな?」

「光栄のきわみです」


 第一から第四までの部隊の役割が決定すると、即座にマクィーユたちは頭の中で騎士の編成を考えはじめた。

 ダラルードから追加の指示が飛ぶ。


「今夜、街の警備についている騎士は何名だ?」

「22名……いえ、現在は21名のはずです」


 敵襲の報告にきた騎士を除いた人数。そのほかの騎士が現在も無事である保証はないが、今はそう言うしかなかった。


「ちょうどいい、そいつらを集めて合流してくれ。ということで最初は一人だが、大丈夫か?」

「エルシャフィエを持つということ。それがどういうことかわかってのご指示でしたら、ダル王も人がお悪い」

「じゃあ、たのむぜ」


 マクィーユはエルシャフィエを見つめ、柄をひとなでした。

 警備についている騎士が全員無事かどうか、今はわからない。だれとも合流できない可能性だってある。つまり第四部隊は、実際はマクィーユただひとりの部隊となるかもしれない。そしてエルシャフィエを持つということは、それを可能にするということ。魔をしりぞける圧倒的な力をもつということなのだ。



 ダラルードが考えながら指をおる。

 132名の騎士。60名が避難誘導の四部隊にそれぞれ15名ずつ。残りの72名のうち、街にいる騎士21名とマクィーユが魔獣撃破の第四部隊。残った50名をどう配置するかを計算していた。


「では第一部隊に5名、第二部隊に25名、第三部隊に20名。それぞれ編成してくれ」

「おっ、王!?」


 あまりにも偏った人員配置にベルギュストが驚愕の声をあげる。


「なんだ?」

「第一部隊がもっとも多くの敵と交戦する可能性が高いと、王は先ほどおっしゃりました! この場合、第一部隊の人員をほかの倍にするのがよろしいのでは?」

「そのとおり。ちゃんと倍だぜ?」

「……と、いいますと……?」

「俺が25人分だ。そんでこのおっさんが20人分。騎士5名とあわせて、第一部隊の戦力は50人相当になる。問題あるか?」


 ベルギュストだけでなく、ジュルーヴュやほかの騎士たちも口と目をあけ、ただ唖然としている。

 しかし当のクラッサスはとくに驚く様子もなく、口ひげをなでていた。言いおるな……と、そのくらいは思ったが、覚悟のほどがすでに決まっていたからだ。

 それだけの実力が自分にも、もちろんダラルードにもあると確信していた。相手が魔獣ならばそのくらいはできる。クラッサスはそう認識していた。



 魔獣まじゅう――人間の住む世界とは別の場所からきたとされる、異形の獣。

 知能はほとんどないにひとしく、人間の世界でいう動物に近いものだと考えられている。というより、さまざまな種が確認されている魔界からきた生物のうち、動物にちかい見た目をしたものを便宜上“魔獣”とよんでいるだけなのだ。

 それら魔獣は、魔王ゾディヅが大陸を支配していたころには山に、森に、道にと、そこかしこにいた。人間を襲うこともめずらしくなかった。

 だが魔王ゾディヅが英雄ダラルードにより討伐されてからはその数を急激に減らし、現在ではほとんど見ることはなくなっていた。ときどき辺境の地に姿をあらわすことはあったが、軍や有志による討伐隊がすぐに掃討した。


 クラッサスも祖国ケルカにおいて、魔獣討伐隊にくわわったことがある。力は強いし素早いが、予想外の攻撃がないぶん人間相手よりもくみしやすい。

 それに、クラッサスのほうが――はやい。

 だからダラルードの提案にも、まったく異を唱える気はなかった。むしろそのほうがやりやすいとすら考えた。


 ダラルードからの指示を受け、騎士たちがあわただしく動く。



 ドッッオオオオォォォォォォォォンン!!!



 外からけたたましい音が響いてくる。石づくりの建築物がくずれるような音。


「おうおう、すげえやつがいそうだな」


 ダラルードが笑う。爆音に一瞬はひるんだ騎士たちも、王の笑う姿を見て気持ちを入れなおす。

 侍女が四人がかりでダラルードの大剣を抱えてきた。ダラルードは軽々と受け取り、いつものように背中に据えた。


「じゃあいくぜ!」

「おおおーーーっっっ!!」


 先頭を行くダラルードにつづき、騎士たちも駆けだす。外へ向かう階段をおりる途中でまた大きな音が聞こえてきた。


 グゴォォォオオオォン!!


「ひるむな! 行くぞ! 王につづけ!」


 ベルギュストの号令が響き渡る。

 騎士たちは教団施設の外に出ると、それぞれの役割をまっとうするため北へ、南へとほうぼうに散った。


 ダラルードとクラッサス、それから五名の選ばれた騎士たちが南へ向かう。五人の騎士たちに命じられたのは、ダラルードとクラッサスが討ち漏らした魔獣の撃破。全員が騎士団のなかでも剣の腕に自信のあるものである。


 街の姿はすでに戦場そのものだった。民家からは火の手が上がり、柱は崩れ落ち、夜空の境目が赤紫色に染まっている。

 大聖堂の通りを抜け、街の南側入口へつづく通りまで出ると、数十体の魔獣が群れをなしていた。


「おっさん、お前ら。やるぞ!」

オウッッ!」


 七人が剣を構え、魔獣たちと対峙したとき。

 クラッサスの視界のはしに見知った姿が過ぎさった。


「あれはルカ殿!」


 思わず振りかえり声をあげたクラッサスに気づいたのか、走っていたルカは足を止めた。止めたが、こちらを一瞬ちらりと見ただけで、もう一度また走りだしてしまった。


「ルカ殿、どこへ……!」

「ほっとけよ」


 ダラルードは大剣の先にいる魔獣の群れから目をそらさず、ルカを呼び止めようとしたクラッサスを制する。


「なんか考えがあるんだろうぜ」

「しかし、ダル殿!」


 さきほどまで具合の悪そうにしていたルカが、こともあろうに走っていた。突然の魔獣たちの襲撃もさることながら、ルカの行動はクラッサスにとっては謎だらけであった。それ以上に――


「そんなにあいつが心配か?」


 まるでからかっているかのように、ダラルードがにやりと笑う。


「これは独り言なんだが、ここは俺だけで片づきそうだぜ?」


 これだけの魔獣を相手に、一人で? 数十体の魔獣を前にして、これだけの余裕……、貴公はやはり、真の英雄なのだな。承知した。まかせたぞ。貴公なら、いや、心配するまでもないであろう。

 クラッサスはかまえていた曲刀をおろし、鞘におさめた。そして円筒状のハットを目深にかぶりなおし、すこし、笑った。


 バサッ


 魔物の咆哮にかき消されたが、ダラルードはたしかに聞いた。クラッサスのマントがひるがえる音を。


「よし、じゃあ四十五人分。やってやろうじゃねえか!」


 大剣を片手で大きく振り、かまえなおす。大地を両足の指でつかみ、力を集中させる。


「本気でいくぜえッ!!」


 ダラルードが魔獣の群れに突進していく。


「王につづけえええぇぇッッ!!」


 五人の騎士たちも雄たけびをあげ、走りだす。



――生死をかけた殺し合いが、はじまる。



 英雄のつるぎは、炎に照らされひときわ大きく輝いた。

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