四.解-かい-

「お父さん、何してるの」



 交番には警察官が3人。

 1人が入口のそばに立って周りを見ていて、1人が机をはさんで“男”と向かい合って話していたようで、もう1人が横に立ってそれを聞いていたみたいだ。そして、その“男”というのが――――





「睦っちゃん!! おまわりさん達に話してくれないか!」

 そこで警察官から取調べを受けている男が、潤一だった。

 いや、この場合は任意同行だっけ? ま、どっちでもイイや。潤一を監禁している謎の組織とは、警察のことだったのだ。


「君は……?」

 入口に立っていた若い警察官に道をふさがれる。


「冴島 睦(さえじま むつ)です。

そこにいるのが桂木 潤一。一応は血縁上の父親です。

苗字がちがうのは、二年前に両親が離婚していて今は一緒に暮らしていないからです。」


 3人の警察官は、現れた私に驚いて、事情を説明するか迷っているみたいだった。だから、先に私の方から言っておく。


「あー、多分、事情は分かっているので説明しなくてイイです。

その男が遠くから私を隠し撮りしようとしているのを、警察の方々に見つかって交番まで連れてこられたってところでしょう。」


 私は、潤一が待ちあわせ場所に来ない理由をずっと考えていたが、そうではなかったのだ。待ちあわせ場所には来ていたのだ。しかし、私には見つからないように私の写真を撮ろうとしていた。私こそが、あの時計台でしか現れないレアモンスターだったのだ。


「うん、大体はそんなところだね。お父さんのスマホを見せてもらったらこんな様子だったから、ちょっと見過ごせなくてね」

 ずっと立っていた年配の警察官が潤一のスマホを見せてくれた。私が電話をかけても出られなかったのは、警察官に押収されてたからってところか。この場合は押収でイイんだっけ…?


「げ」


 スマホの画面を見たら思わず声が出てしまった。

 私の写真がズラリと並んでいる。しかも、これ、隠し撮りだ。離婚した時の取り決めで、私と潤一は1ヶ月に1度だけ会う約束なのだけど、どうもその度に隠し撮りされていたみたいだ。これじゃ事情を知らない警察官から見れば犯罪者予備軍だし、事情を知っている私からしても相当キモチワルイ。


 思いっきり潤一をにらみつける。


「だって、睦っちゃん。写真を撮らせてって言っても撮らせてくれないし……」

 にらみつけられた潤一は、子供のように口をとがらせる。

「私、写真撮られるの嫌いって言ってるじゃん!

お正月に撮ったヤツを送ったんだからそれでガマンしてよ!」


 思わず声を荒げてしまった私を見かねたのか、年配の警察官が仲裁に入ってくる。


「まぁまぁ、冴島睦さん……だっけ。何年生かな?」

「5年生です」

「へぇー、使う言葉が大人っぽいから中学生くらいかと思ったよ」


 それは言いすぎだろう。

 同学年のコと比べられても小柄なので、私はいつも下に見られる。


「お父さんのしていることは褒められたものじゃないってオジサンも思うんだけどね。

父親にとって、子供の写真って何枚あっても足りるものじゃないんだ。先月の写真と今月の写真と来月の写真、全部大切に残しておきたいものなんだよ。他の人には全部一緒に見えても、ね。」


 他の人にとってはゴミみたいなものでも、当人にとっては何より大切なもの――――

 ふとジョッキ(仮)と、その彼女と、女神(仮)の顔を思い浮かべる。もう会うこともないだろう、あの人達。



「分かったよ、お父さん。このことはお母さんには言わないであげる。でも、隠し撮りはもうやめて。警察の人達にも迷惑だし。」


 タメ息とともに許しの言葉が出た。


 ◇


 ようやく警察の人達から解放されたのは、1時だった。歩きながら潤一が言ってくる。


「ごめんな。お腹ペコペコだろ? 何食べる?」


 結果的に2時間も遅刻しておきながら、謝り方も軽い。


「別に何でもイイ。こないだのファミレスでイイよ。」


 ぶっきらぼうに言いながら歩いていると、横目に時計塔が見える。

 今もそこでたくさんの人が誰かを待っている。吐く息がすぐに白いモヤモヤに変わってしまうような寒空だというのに、みんな幸せそうな顔をしている。ひょっとしたら……と、潤一を見上げて訊いてみる。


「隠し撮りしたとき、私ってどんな顔してた?」

「世界一幸せなお姫様みたいだった」


 イラッとする。

 私はきっと一生この男の軽さにイライラしながら大きくなっていくのだろう。


 でも、

 それでも、


 ずっと変わらないものがあっても悪くないのかなとも思った。

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