Ⅲ オークの魔法使いは世界を救う

98豚 オークの魔法使いは世界を救う プロローグ

「父上ッ! あの亡霊が南方へ向かったとの話を聞きました! 一体何をお考えなのですか! あいつの力は本人でさえもコントロール出来ないものです! 南方の国をまた滅ぼす気なのですかッ!」


 もう止められない。

 我がドストル帝国は建国史上、嘗てない力を手に入れてしまった。


「……近衛、あやつを下がらせろ」

「魔王の言葉によって滅びし皇国へ住処を移すことを了承するモンスターも増え始めてきました! これ以上の争いは必要ないのでは無いですか! 我が国は強大です! もはや必要のない戦いだ! 皇国をモンスター共に与え南方からの備えとする! 目的は既に達成されこれ以上の戦は無いと! そう私に言っていたではないですか!」


 一人までなら止められた。

 だが、三人も現れてしまった。

 彼らには絶大な力があり、大義もある。

 民衆も彼らの輝かしい英雄禄の前に、熱狂するばかり。

 何より、帝国に加護を与えし闇の大精霊ナナトリージュがその気になってしまった。


「おいっ離さないかっ! この私は第一位継承権を持つ者だぞ! ……父上ッ! 一体、何があったのですッ!」

「……さあ、何があったのだろうな」


 要するに、私が言いたいのはハッピーエンドはあり得ないということだ。


【トーイツ! トーイツ! 早く南方トーイツ! こんだけ北方を探しても無いんだから死の大精霊の卵は南方にあるに決まってるわー! だからはやくトーイツトーイツ! 南方トーイツ!】


 三人の英雄の誕生と闇の大精霊ナナトリージュ様の勢いに押し切られ、程なくして大陸は統一されるだろう。

 流される血の涙は、もはや帝国の王たる私でさえ止められない。

 これ以上の先延ばしはもう限界だ。

 機嫌を損ねた闇の大精霊ナナトリージュが何をしでかすか分からない。


【さっさと大陸をトーイツしなさい若作り親父! じゃないと役立たずなこの国なんてすぐに滅ぼしちゃうわよー!】


 ならば、せめて。

 この国が暴走せぬよう、私は目を光らせておくだけだ。


【ふふふー! 次はどの大精霊を虐めてやろうかしらー! やっぱり偉ぶってる光の大精霊? どこかに隠れてるアルトアンジュをもう一回叩きのめしてやるのもいいわねー! やーん、もう私の国が強すぎてまいっちゃう! まいっちゃうわよー!】


 ……。

 掛かりつけの医師に頭痛薬を出してもらおう。

 

【あー! 何青くなってるのよ若作り親父! ふふふ、帝国を滅ぼすってのは冗談よー! こんだけ育った私の国だもん! 壊すなんて頭の悪いことはしないですよーだ!! ふふふふふーー!!!】


 ……。

 睡眠薬も倍にしてもらうか。


【じゃあ大声で言ってみよー! 南方トーイツって、言ってみよー!!!】



   ●   ●   ●



「あのー。スコップありませんかぶひ?」


 ダリスと皇国との国境付近。

 連なる山の麓にある寂れた村の道具屋に一人の若者が現れた。

 雨も降っていないのに、黒いローブで頭をすっぽりと覆っている。

 見るからに怪しくて、店主は二回瞬きをした。


「えーとはい? スコップ? 自分の聞き間違いかな、今、スコップって言った??」


 白髪交じりでくたびれた様子の店主は聞き返した。

 こんな辺鄙な場所に訪れる旅人は基本的に皇国へ侵入することを目的にした変人に決まっている。

 モンスターが多い皇国に侵入するのだから、訪れる者達は薬草やポーションなどを求める者が大半だ。それなのにスコップありませんか? 等と尋ねてくる者は初めてだった。

 最近はめっきりと数を減らしていたが、どうやら命知らずがまた現れたようだと店主は目を丸くした


「ええ、スコップが欲しいんですぶひ」


 何やら可笑しな語尾をしているし、ワケを聞いて厄介事に巻き込まれても面倒だ。

 店主はスコップなんてあったかなーと頭をかきながら、のろのろとした足取りで店の奥へと消えていった。

 

「……さてと。エアリスに会うついでに、闇の大精霊ナナトリージュさんが掛けてる帝王の洗脳を解いてあげるとするか」

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