76豚 悪夢の魔法学園②

「くそっ、くそオオオオオオ!!!!」


 シューヤは走りながら泣いていた。

 水晶を抱きながら、悔しくて悔しくて涙が流れる。

 大聖堂へ向かう最中、無我夢中で走っていたら空から飛翔型モンスターに両肩を掴まれそうになったことが何度もあった。

 だがその度に水の豚騎士さん達に助けられた。

 

(やめろ来るな来るな来るなアアアアアアアア!!!!)


 オークナイトに殺されかけた時。

 間一髪で現れた水の豚騎士さんが持つ水の剣がオークナイトのナイフを止めてくれた。

 そこから二体の戦いが始まった。

 シューヤは腰を抜かして頭上で行われる二体の攻防を見ていることしか出来なかった。

 水の豚騎士さんの顔はオークを可愛くデフォルメしたような豚だった。

 モンスターであるオークナイトもさすがに突っ込みを入れていた。


『外におる生徒諸君! これ以上は無用じゃ! 大聖堂へ避難するがよい!』


 学園内唯一の安息地帯。

 みっともなく走りながら、シューヤは大聖堂に向けて走り続けた。

 

「オレは弱い、弱いっ! そんなことはわかってるんだよオオオ!!!」


 強くなりたい。

 強くなりたい。

 強くなりたい。

 大好きな学園を守れるぐらい、強くなりたい。

 その時、声が聞こえた。

 聞きなれた水晶の声だった。


《シューヤ。過ぎたる力は身を滅ぼすのみ》

(分かったようなことを言うな!!)


 水晶の声を無視し大聖堂へひた走る。

 頭の中を占めるのは助かりたい、死にたくない、命への渇望、それだけだった。

 けれど逃げ遅れてずっと校舎内に隠れていたんだろう。

 モンスターに襲われそうになっているメイドのことを見て見ぬ振りなんて出来なかった。


炎の矢ファイア、アロッ!」


 シューヤは血反吐を吐きながら、魔法を放つ。

 モンスターの身体が一瞬だけ燃え上がるが倒すまでには至らなかったようで、逆上したモンスターがメイドに向かって鋭い爪を振りかざした。


「ッ」


 メイドを突き飛ばし、シューヤは背中にモンスターからの攻撃を受けた。

 歯を食いしばって、これを耐えた。

 痛くて溜まらないけれど、激突の際に杖を落としてしまった彼にはこれ以上のことは出来ない。


「助けてくれえええ!」


 情けないけれど、助けを呼ぶことしか出来なかった。

 歯がゆくて歯がゆくて溜まらなかった。

 彼の声を受けて、水の豚騎士がぶぴぶぴ言いながらこっちに向かって来ようとしていた。


「さあ大聖堂へ行くぞッ!!!」

「あ、ありがとうございます!」


 そのままメイドの手を取って、なりふり構わず走りだす

 もはやシューヤには水晶の声も聞こえなかった。

 生き残るためにモンスターの声だけに集中する。


《未熟なりシューヤ! 力を求めるヌシには覚悟が足りぬ! 彼の者ような覚悟が! ヌシの魂にはいまだ火が放たれておらぬのだ。命焦がすような業火が―――》

  


   ●   ●   ●

 


 黒龍セクメトは雲の隙間から学園を見つめていた。

 どんどんとモンスター達によって狭まる包囲。

 彼女が愛した皇国は滅び、彼女を望んだあいつの血を引く者は弱いまま。

 けれど、黒龍セクメトは見つけた。


【お願い、セクメト。あの子に力を貸してあげて】


 黒龍は待っていた。

 あの子が次に口を開いた瞬間、彼女が彼女の血を引く者だと確定する。

 

(……あの子っていうのは、つまり、あの子で。力を貸してあげてというのは、そういうことだろう?)


 つまり、もう一度。

 自分が、彼女を連れ去ればいいんだろう?


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