518豚 魔導大国《ミネルヴァ》
「まずは、この男だが――」
ロッソ公は視線を下げ、気を失ったガガーリンを見つめしゃがみ込む。
「この男の対処は私に任せてもらいたい」
そして俺はロッソ公がどれだけの準備を携えてタイソン領地にやってきたのか、改めて理解することとなった。
ロッソ公が呼びつけた人間は不思議な出立ちをしていた。ロッソ公の配下――森の中から現れ、今もなお
足音も聞こえず、真っ直ぐに。
「手筈とおりに頼むよ、
「……」
珍しい――
それも白のコート、背中には
……モロゾフ学園長よりも格上の
「ロッソ公……どうやって
大魔導士の中にも格があり、あの男は――白。
灰色を与えられているモロゾフ学園長よりも格上の魔法使いだ、
「私もそれだけ必死だったというわけだ。恐ろしい私財を失ったが――」
いいや、違う。俺はロッソ公に返した。
「
だからこそ
「……」
ロッソ公が見つめる先で白いコートの男がガガーリンに向かって、杖を向けた。杖の先から色とりどりの触手――が放たれる……美しくも恐ろしい魔法。
同じ魔法使いからしてみれば、非常に嫌な光景だ。
胸がムカムカする、吐き気がする言い換えてもいい。
あの男は……ガガーリンの身体を、身体の中を調べている。
「あれだけ閉鎖的な
水の魔法使いとして、癒しに特化した破格の力。
だからこそ、ガガーリンはタイソン領内であれだけの信頼を得た。
「それで……ロッソ公。彼とどのような取引を」
ロッソ公は首を振った。俺の問いに答える気はないらしい。
「すぐに分かる。それより私たちの話を……そうだ。リオットの身体が置かれた
「……ガガーリンを放って置くつもりですか?」
今もまだ
「……」
歩き出した彼の雇い主――ロッソ公が
「…………」
あの
俺が
「付いて来い、スロウ・デニング」
遠巻きからはロッソ公の部下が、俺を見ていた。
彼らの目からすれば、俺はガガーリンを圧倒した
「ガガーリンは
知っている。あの場にはサーキスタの権力者が集まっていた。
「何度か目が合ったと記憶している。そしてこれは嫌味だが、君に倒された私の部下はまだ治療中だ。殺さなかったことを感謝すべきか、傷つけたことを非難すべきか。それともあの場で吊し上げられたファナ・ドストルを助けねばならない相応の理由が合ったのか」
俺は答えなかった。
キビキビした気持ちの良い動きと働きっぷりは、彼らもまた名前のある貴族に連なるサーキスタの精鋭であることを表しているのだろう。
ロッソ公は彼らに手を振って応え、俺はロッソ公の後ろに続いた。
「……」
彼ら騎士たちの表情が赤みを帯びている理由は、タイソン公の根城を手中に収めた偉業に彼らもまた興奮しているからだろうか。
一歩一歩、
ギャリバーと共に地下から誰の目につかないように
しかし、今度はサーキスタの権力者。
あのハメス・ロッソと共に入城することになるとは。
「スロウ・デニング。我が
ロッソ公は歩みを止めて、威風堂々と立ち止まる。
……我が
あのリオット・タイソンも、タイソン公となれば、こうなってしまうのか。
「私の言葉を受けて、君がこれから語る言葉。偽ることは許さない」
俺の正体を、俺が持つ力を知りながら、ロッソ公はそれがどうしたとばかりに高圧的だ。常日頃から人に命令することを当たり前と考え、大勢の人間を支配下に置く圧倒的な権力者の顔がそこにはあった。
「真実を語ってもらう。私が違和感を感じた瞬間、ロッソは君の敵となる」
ロッソ公は大貴族当主としての威厳を持って、自分の意見が通ることは世界の常識だとばかりに傲慢な態度で。そして。
「あの夜、連れてきた君の従者。シャーロット・リリイ・ヒュージャックだな」
ハメス・ロッソは――当たり前のように告げた。
俺は兜を被っていてよかったと心から安堵した。その時の俺の表情はきっと、隠しきれない困惑に満ちていただろうから。
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