大貴族タイソン公の反乱

493豚 開戦の狼煙

 サー・ギャリバーに詰め寄った。頭一つ分は大きい長身の騎士。

 俺の変わりように恐れを抱いたらしいサー・ギャリバー。


「なっ、なんだなんだ!スロウデニング、俺を脅そうたって、そうはいかねえぞ! だが、まあ……言ってみろよ」


 嫌な予感がした。何故、エデン王がこのタイミングで武装蜂起に近い行動に出たのか。もし俺の予感が当たっているなら、素晴らしい戦略としか思えなかった。

 それはサーキスタがさらなる強国になるための、誰も予想もつかない始まりの一手。


「サーキスタの狙いは……だ」


 ●


 地下のスロウ・デニングがサーキスタの狙いに当たりを付けた瞬間、巨鯨の眠る城ホエール・キャッスルの地上で、それは既に始まっていた。

 

 難攻不落――巨鯨の眠る城ホエール・キャッスル

 城の正面には頑丈な鉄の門が存在し、鉄格子は太陽の光を受けて輝いている。蝶番は風が吹くとギシギシと音を立て、鉄門をくぐると、長い石畳の道が城の正門まで続く。

 深い堀には木製の跳ね橋が架かっていて、

 

 もし今、スロウ・デニングが地下から地上に駆け上がり、その軍勢を見れば間違いなく発狂するだろう。なんじゃこりゃあと、彼は喚き散らすに違いない。


 ――これから始まる出来事は、歴史に語られる戦争に他ならないのだから。


 巨鯨の眠る城ホエール・キャッスルの司令官は高台に立ち、下にいるすべての軍勢を見下ろしていた。軍勢を指揮する男は当然、巨鯨の眠る城ホエール・キャッスルの城主、ライアー・タイソンその人である。


「――タイソン公! 本当に……本当に、やるのですか!? 諸王の合意も得ていない中でヒュージャック侵攻など……これはエデン王に対する叛逆行為だッ! 私はやはり……反対です!」


 盟友であるロッソ公の言葉にも動じることなく、ライアー・タイソンは軍勢を見下ろしている。 


「……」


 かつては若々しかったタイソン公の顔には、長年にわたる戦いと冒険の結果、風化が進み、しわが刻まれていた。しかし、その年齢にもかかわらず、彼は背筋を伸ばし、広い肩幅と筋肉質な腕で威厳ある姿は健在だ。


「タイソン公! 貴方程の立場あるお方が――! 独自の判断で出陣など……成否に関わらずサーキスタは諸国から非難を受けるでしょう! いや、非難で済むわけもないッ!」


 タイソン公の鎧は長年の使用で擦り切れ、へこんでいるが、それは彼が生きた歴史の現れである。タイソン公の脇には輝く剣が吊るされており、それは彼の戦士としての腕前と経験を象徴している。


「……」


 年老いてもなお、タイソン公は手強い戦士であり、彼を知るすべてのサーキスタの人民はライアー・タイソンという人間が強さと知恵をもち、そしてサーキスタを守るための揺るぎない心を持っていることを知っている。


「……」


 だがライアー・タイソン公の未来は、孫を殺された時点で決まってしまった。


「せめてエデン王に連絡を! エデン王は、タイソン公を信頼しておられる! 貴方の言葉であればエデン王も頷くはずですッ! タイソン公!」


 そんなタイソン公に詰め寄る男もまたタイソン公と同様にサーキスタの大貴族、冬楼四家ホワイトバードの一つであった。


 タイソン公より二回り若いロッソ公の眼下にも、それが広がっている。


 ――総勢、四千人の軍勢が、その時を待っていた。

 数千を超えるタイソン公の軍勢、タイソン公に仕える貴族たち。

 彼らは皆、大貴族であるタイソン公に仕える貴族だ。旗手と呼ばれる貴族がそれぞれの軍隊を集め、今か今かとその時を待っている。


 彼らの指揮官であり、敬愛すべき大領主、ライアー・タイソンの言葉を。

 ――モンスターよりヒュージャックを奪還する、その声を。


「――タイソン公。まだ覚悟が決まらないのですか? 我が君は、忠義に厚いお方ですよ? タイソン公、貴方がヒュージャック跡地を奪還された暁には、ヒュージャック領地は貴方のもの。何を躊躇うことがあるのですか? 早く軍勢を進めなさい」


 歌うような口振りで彼は囁いた。それはこの場に集う軍人とは比べ物にならない美しい男だった。まるで舞台の上で優雅な服を身に纏うが如くの麗人。彼の服、胸部分に掲げられた幾つもの勲章は、彼がドストル帝国において高位な軍人であることを示している。


「き、貴様あ! それ以上、その薄汚い口を開くなッ! ドストルの人間が、南の地で生きられるのはひとえにタイソン公の温情に他ならぬのだ!」


 だがロッソ公は、ドストル帝国の人間が口を開くたびに激昂した。


「ロッソ公、貴方が幾ら彼を説得したところで、タイソン公の心は変わらないでしょう。彼はもう、このサーキスタという国に絶望しているのですから。それにロッソ公、貴方もそうなのでしょう? サーキスタに未来はないと考えたからこそ、今この場にいるのだ」


「ぐ……ぐぐ。だが、だが! 私はエデン王に…………!」


 ロッソ公が杖を抜き、男に突き立てる。けれどドストル帝国の軍人は一才動揺することなく、真っ直ぐにエッソ公の顔を見つめ返した。しかし、その顔にへばりついた笑みは、これからヒュージャックとサーキスタで起こるだろう未来を楽しんでいるように思えた。



――――――――――――――――

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これからのスロウは、タイソン公の軍勢と未だヒュージャックを支配するモンスターの戦い、そのど真ん中で頑張ってもらい、スロウ・デニングが生きているとの噂がサーキスタ王都に……予定です。

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