491豚 俺がいる場所は
「俺は……俺はエデン王の背後にいる黒幕を突き止めたい。サーキスタの国王として……彼の行動は余りにも、これまでの彼の行動をかけ離れている。違うか?」
「……」
友の
「サー・ギャリバー。お前もそう思うからこそ、俺の前から退かないんだろう? そして、お前だけじゃないのだろう? 王の決断に違和感を持っている連中がいるんだろう――?」
生と死が混じり合い、哀しみと希望の境界線上にあるこの場所。
サーキスタの若き貴族の死体安置所が、俺が目を覚ました場所だった。
本来付着しているはずの灰色の石壁や床には汚れが見えず清潔で、空気は冷たく、消毒液の香りが微かに香る。
「……そうだなあ、スロウ・デニング」
俺の問いかけを受けたサー・ギャリバーは椅子から立ち上がり、壁にかけられた照明を灯してゆく。
照明は薄暗く、部屋の隅々まで明るく照らすことはできないが、あいつの長身の影ははっきりと長く伸びていった。
「サーキスタって国をよく知らねえ他国の人間なら、そう思うんだろうな。特に騎士国家の貴族ならエデン王の無様な姿をよ〜く知ってるもんな。今回の件だって、エデン王の欲深い功名心や嫉妬心が起こした騒動に違いない……って思うんだろうさ」
サーキスタの見識ある貴族連中全てが、エデン王の行動に納得しているとは到底思えなかった。歴史を紐解けば、サーキスタが騎士国家に喧嘩を売ってきたことは多々あるが、近年はダリスの完勝ばかり。
さらに今は騎士国家の全盛期と言われている。
「他国からの評判はいまいちで、いつだって嘲り、笑われる国王エデン。確かに俺たちの王は、サーキスタの貴族から深い尊敬を得ているとは言い難い。だからこそ、スロウ・デニング。お前はそう考えたんだろう。エデン王に敵対する勢力がいるはずだって」
あのエレノア・ダリスが統治し、マルディーニ枢機卿と歴代最強と呼ばれる守護騎士ドルフルーイがエレノアの統治を支え、大貴族デニング公爵家と王家の関係も良好だ。
ダリスは今更、ドストル帝国に喧嘩を売ることなんて望んでいない
だからこそ、黄金時代と呼ばれる強国ダリスの思惑を、真正面から打ち壊すようなエデン王の荒技をサーキスタの貴族連中が支持するなんて考えられなかった。
そりゃあサーキスタの中にも過激派はいるだろうけど、全員ってことはないだろう。
だけど、俺の考えと裏腹にサー・ギャリバーは首を振った。
「スロウ・デニング。どんな理由であの狼少女が無実だと突き止めたのか知らねえが、お前の当ては外れてるぜ。確かに他国の人間から見れば、エデン王の行いは馬鹿げた行為って映るかもしれないが……俺たちは正義の名の下に、あの子が犯人だと決めたわけだ」
ワインの皮袋をひっくり返しながら、その中に入っている酒を最後まで舐めとろうとするサー・ギャリバー。その振る舞いには、卑しさが染み付いていた。
ギャリバーは、酒が完全に無くなってしまったことに悪態を突きながら――。
「――この場所から出れば、お前もわかるさスロウ・デニング。お前が閉じ込められているこの場所こそが、あの狼少女を最も恨み、ダリスを打ち負かしたい勢力の巣窟なんだからな。俺が誰のことを言っているかわかるか? 分からねえなら、教えてやる。愛する孫のリオット・タイソンを殺されて、怒りが沸点を超えた
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