【湖の騎士視点】461豚 動乱開催①

 橋の上から見える範囲だけでも、笑ってしまうぐらいの惨事と言えるだろう。

 豪華絢爛、まさに各国の要人を集結させる相応しいサーキスタの歴史的建造物。水の大精霊との結びつきも深い場が徹底的に荒らされていた。

 宮殿の窓は悉くが破られ、狂う突風が宮殿を中心に渦巻いている。あれは集まった者達を楽しませるためのレクリエーションではなく予定外の事態。


 もっとも、何も無く終わるとは考えていなかった。サーキスタは紛れ無く、北方の覇者に喧嘩を売ろうとしていたのだから。

 だが、これだけ早く事が起こるとは。


「エクス様! 冬楼四家ホワイトバードより、助力要請が! 止められませんッ!」

 

 笑ってしまうぐらいの、大惨事だ。

 普段はしかめっ面を崩さない各国の人間達が逃げ惑い、少しでもあの場から離れるために全力で走る姿は湖の騎士ブルーバードエクスをしても、傑作であった。

 この光景こそが芸術だ。筆を取り、彼らの姿を絵画に纏めたいほどだ。普段は偉そうに口しか動かさない彼らにとっては良い運動になるに違いない。


「エクス様! エクス様! このような事態で動かねば、湖の騎士ブルーバードの名前が泣きますぞ! 今度はどのような屁理屈をつけて動かぬ気か!」


 軍人が、貴族が、湖の騎士エクスに向かって語りかける。

 しかし、エクスからすれば、彼らの望みこそが命令違反というものだ。


 どうして力持たぬ者は、他者に多くを望むのだろう?

 英雄になれるチャンスが、すぐそこに転がっているというのに。


 湖の騎士ブルーバードがエデン王に与えられた役割は単純明快

 ドストル帝国の来訪者、ファナ・ドストル姫を決して逃さぬこと。

 それ以外はエクスにとって些事なのだ。 

 

 未だファナ・ドストルの姿はどこにも見えず、つまり、彼女はまだあの宮殿内にいるということだ。既に、戦場となった宮殿に。だからこそ、エクスが動く理由にはなり得ない。

 

「国王はまだか! エクス様は、国王の言葉でないと動かない! あの方が誰よりもエクス様の性格を知っているというのに!」

  

 しかし、あの宮殿の中には各国の要人が集結していたのだ。

 これは場を開催したサーキスタの責となるか。

 それとも突如、暴れ出したとされる彼の所属国ダリスの責か。


 少なくとも、エクスは独自の観点でサーキスタの王を理解していた。

 サーキスタを統治するエデン王は、愚鈍ではない。

 特に騎士国家のダリス女王からは軽んじられているが、あれだって一国の王としては及第点が与えられる。

 ダリス女王が飛び抜けているだけで、比較対象と生まれる時代が悪かっただけ。

 あえて、欠点を挙げるとするならば、腰が重いことか。さらに、余りにもダリス女王に苦手意識を持っていることか。

 ただ、無理もない。エクスでさえ、ダリス女王に苦手意識を持っているのだから。


「エデン国王より、伝達受領! 湖の騎士エクス様へ!」


 湖の騎士エクスは、届けられた書簡を乱雑に奪い取った。

 文書を斜め読みすれば、慌てふためく国王の現状がよく読み取れた。


 届けられた国王の命令は、ある意味で予想通りと言えば、予想通り。

 しかし、残念と言えば、残念だった。

 顔を突き合わせた数は片手で数えられるが、湖の騎士エデンにとって、彼は数少ない遊び相手となり得た存在だったのだから。


「内部へ伝達を! 湖の騎士エクス様、動かれ」


 湖の騎士ブルーバードエクスは、剣を抜き、地面を蹴り飛ばした。


「--ま、すッ!」


 それだけの動作で、突風圧が発生。傍に控える数人の騎士が立つことが出来ず、尻餅をついた。


 既に湖の騎士ブルーバードエクスの姿は、橋上から消えている。

 彼が向かう戦場は勿論。ダリスが送り込んだ友好の使者、スロウ・デニングが待つ宮殿であった。



ーーーーー

ペンネームを変更予定です。

そのうち面白い情報が届けられそうです。引き続き、よろしくお願いします。

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