383豚 うすうす、気付いていました
放課後にミントちゃんを男子寮四階の俺の部屋に招いて、俺とシャーロットは彼女から講義を受けていた。
いやいや、俺だってどうしてこうなったって思ってるよ?
ミントちゃんは俺からシャーロットを奪おうとしている張本人だからさ? 俺の専属従者になりたいなんて、俺たちの敵みたいなものだろ。
しかも彼女はぐうの音も出ない超有能ときたもんだ。
幼げな見た目、俺たちよりも年下だろう姿からは想像も出来ない力を持っている。サンサの従者、あのいかついコクトウの攻撃から俺を守ってくれるんだから。
「いいですか、シャーロットさん。私がサンサ様の専属従者であるコクトウさんの襲撃をどうして見抜けるか……その理由ですけど」
どうして彼女はコクトウの襲撃を見抜けるのか。俺とシャーロットがずっと不思議に思っていたことを、ミントちゃんのほうから俺たちに教えるって言いだしたんだ。
俺の専属従者になりたいって言うのにシャーロットにその秘訣を教えるなんて、敵に塩を与える行為だ。でも、ミントちゃんは強い言葉で、このままじゃ本当にシャーロットさんが俺の従者として失格の烙印を押されてしまうと俺たちに訴えた。
「コクトウさんは敵として、若様のことをよく観察しています。あの人が若様に攻撃を仕掛けている時は、決まって若様がシャーロットさん、貴方と一緒にいて……若様の気が緩んでいる時なんです」
「ミントちゃん。俺はいつだって真剣だけど」
「若様。大事な話をしているんですから黙っていたください」
「……はい」
怒られた。
しかし、……俺が気を抜いている?
そんなわけあるかよ。あのド迫力のコクトウ相手に、俺はいつだって気を抜いていないぞ。
「若様の弱点、それはシャーロットさん。貴方と言ってもいいかもしれません」
「え! 私ですか!?」
「そうです。貴方です。その様子じゃ、本当に自覚ないんですね。若様とシャーロットさんの関係は一般的な公爵家のそれとは大きく違っています。自覚はあると思いますけど……お二人は、仲が良すぎるんです」
ていうかミントちゃん。君、俺の従者になりたいんじゃないの?
でもミントちゃんの勢いに押し切れる形で、俺はこうしてミントちゃんを自室に迎えている。彼女は最初のイメージとは異なり、気弱な雰囲気なんて一切見せず、先生が持っているような黒い細長い棒を持って、その姿はまるで先生だよ。
「ずばり言いますが、シャーロットさんといる時の若様は、気が緩みすぎなんです」
俺たちよりもずっと小さな身体で彼女は身振り手振りで教えてくれる。
その姿は俺と出会った初日、部屋を荒らしていた姿とは違って、自信に満ち溢れている。きっと、こっちの姿が素なんだろうな。
そりゃそうだよな。
ミントちゃんは、公爵家の関係者なんだ。
それも直系の俺の専属従者に、あのクソ真面目なサンサが推薦するぐらいなんだから、中身のスペックが高いことは疑うべくもない。
「どうしましょう、スロウ様。何も言い返せません……」
「言い返さなくていいよ。ミントちゃんは俺たちの味方みたいだから。そうなんだろ? 君、別に俺の従者としての立場に興味なんかないだろ」
「それに関しては黙秘します。あのシャーロットさん。別に私の言葉なんてメモしなくていいですけど……」
シャーロットはどこからかメモ帳を取り出して、ミントちゃんの言葉を熱心に書き込んでいる。
いつしかミントちゃんはシャーロットの師匠みたいになっていた。
そんなシャーロット呆れながら見つめるミントちゃん。
「はあ、シャーロットさんの若様の力になりたいって熱意は認めます。でも、気持ちだけじゃどうにもならないってことはあります。そもそも、今のシャーロットさんにあのコクトウさんの攻撃から若様を守れって、サンサ様のお考えが無理なんですから。サンサが引き連れている騎士様方でもコクトウさん相手じゃ無理でしょう」
「それには俺も同意ぶひい」
「若様。ソファに寝転がって、言うセリフじゃないと思いますけど……」
だってなあ。コクトウは無理だろ。
あれは力量が他とは違いすぎる。あれは公爵家直系の中でも平均的な力しか持っていなかったサンサを、一気に次期公爵筆頭まで押し上げた男だぞ?
無理無理。
無理無理無理のかたつむり。
最初っからこれは出来レースなんだよ。ミントちゃんを俺の専属従者にしたいって連中が公爵家の中にいて、サンサはそいつらの手先なんだ。
でも、そいつらだってミントちゃんが今やこうして、俺たちの味方になっているけどは予想外だっただろう。
「シャーロットさん。昔の若様ならいざ知らず、今の若様は人気です。クルッシュ魔法学園に来て、驚きました。あの若様が同年代に受け入れられてるなんて、一時前からでは考えられませんでした」
受け入れられてるか?
俺はその考えには疑問だなあ。……あ、まずいまずい。早くシューヤやアリシアが学園に戻って来てくれとか思っちゃった。お前らはトラブルメーカーだからな、まだ魔法学園に戻ってこなくていいぞ?
「学園の中にも、若様の専属従者になりたいと望む者は数多くいるでしょう」
「え? ほんとに?」
「若様は黙っててください。今、シャーロットさんに話しているんですから」
また怒られた……。
その後もミントちゃんはシャーロットの、どうやったらコクトウの攻撃を予知出来るかアドバイスを送り続ける。シャーロットは律儀にミントちゃんの言葉をメモに取り、そんな姿を見ていると眠くなっている。
俺はリビングの隅に置いたソファで寝ころびながら、ミントちゃんに話しかけた。
「なあ、ミントちゃん。どうして急に俺とシャーロットに味方するような真似を? 君はサンサに言われて、俺の従者候補として呼ばれたんじゃなかったのか?」
「スロウ様、それは……」
「シャーロットはちょっと黙ってて。割と大事な話だから」
そもそも彼女は、何者なのか。
話はそこからスタートさせたい。俺の従者候補として現れた彼女、だけど今はこうして俺たちの味方をするような真似をしている。
どう考えても可笑しい。ミントちゃんの行動はサンサの意思に反している。
「……私の正体なんて、若様にとってどうでもよくありませんか。少なくとも、私は二人のことを応援しているんですから」
「いいや、どうでもよくないって」
サンサは間違いなく、俺の
でも、サンサは気付いていない。あいつ、馬鹿だから。
「ミントちゃん。騙し合いは好きじゃないんだ。これから父上がクルッシュ魔法学園に来るって話だし、話は早く済ませておこうか」
サンサは、全てが自分の手のひらにあると思っている。
だけど、このミントちゃんは……サンサ程度で抑えられる人じゃない。サンサなんかが可愛く思えるぐらい、腹黒い人間だ。
「ミントちゃん。お前――」
一言で言ってしまえば、こういうやり方を。
「――父上の、関係者だろ」
バルデロイ・デニングという男は、好むんだ。
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