375豚 公爵家同士の戦い
本格的な冬の到来に向け、今年は雪が降るかなあなんて考え出す季節がやってきた。
「なんだ、久しぶりに見る顔がいるなぁ。なあ、デニング」
「えーっと。はい、そうかもしれません」
だだっ広い運動場でロコモコ先生がそんな皮肉を俺に言う。
相変わらず爆発したアフロが印象的なロコモコ先生。寒くなってもピチピチの黒シャツを着ているあの人こそ、俺も大好きだった魔法演習の先生だ。
「デニング。俺はお前がシューヤやアリシアと一緒に帰ってくるもんだと思っていたが……今は授業中だからな。積もる話はまた後ってわけだ。え~、今日の魔法演習の授業はお前らも知っている通り、ゲストがいる。あのサンサ・デニング、並びに公爵家の騎士様方だ。ほら、拍手」
紹介を受けたサンサが軽く手を上げる。
黒い長髪をなびかせて、簡単に自己紹介をするサンサ。
クルッシュ魔法学園にやってきた目的は公爵家の未来のためとか適当にぼやかして生徒からの質問を交わしている。
俺はというと、なんだか久しぶりの学校の授業すぎて落ち着かない。
つーか、俺の頭の中は新しい従者問題で一杯だ。サンサの奴、どうやってシャーロットとあのミントちゃんに甲乙つける気なんだ。
「それじゃあ質問タイムはこの辺で打ち切りだ。ひよっこ共、サンサ・デニング様は暫くクルッシュ魔法学園に滞在するとのことだ。話す時間はその内、幾らでも出来るだろうから今は授業に集中しろ」
皆がうずうず、そわそわしている理由はあれだ。サンサや公爵家の騎士が見学と称して魔法演習の授業に顔を出しているからだ。
あいつらがいると、そりゃあ目の色が変わるよな。
「とりあえず今日の授業はだな。一人一人、俺に掛かってこい。サンサ・デニング様はクルッシュ魔法学園の生徒の実力が気になっているらしい――」
一人一人がロコモコ先生に挑む中、俺に話しかけてくる奴がいた。
金髪の男とブルーサファイアのように奇麗な瞳。同級生のビジョン、俺が真っ白豚公爵になるぞ! って誓ってから初めて出来た友達だ。
何か言いたいことがあるようで、俺たちは授業の輪から少し離れる。
「……スロウ様、一体どこに行っていたんですか?」
「ちょっとな、色々あったんだよ」
「スロウ様だけじゃなく、シューヤの奴もアリシア様も消えてちょっとした騒ぎになったんですよ? サーキスタの人たちがアリシアを探しに学園にやってきたりとか、僕も事情聴取されましたし」
「……」
こればっかりは何も言えない。結果的には上手くいったけど、アリシアをサーキスタ大迷宮へ連れて行ったのはさすがにやりすぎたって自覚あるからな。
多分、サーキスタのお偉いさん方からは俺って滅茶苦茶恨まれているだろう。
サーキスタ大迷宮でアリシアにまさかがあったら、ダリスとの関係に罅が入っていたことは間違いないんだから。
「最近、変な噂が入ってくるんですよ。シューヤが王都の女王陛下に呼ばれて、勲章を貰ったとか。嘘だって皆言うんですけど、先輩の父親が王宮でシューヤの姿を見たって言うんですよね……。だから今はシューヤの噂で持ちきりなんです。というか、スロウ様ってシューヤの件に絶対関わってますよね?」
「……ま、まあ。想像はご自由に……」
「それ。自分が関わってるって言ってるようなもんですから。はあ……シューヤの奴、いいなあ。絶対スロウ様の功績をシューヤの奴が横取りしたとかそういうことですよね。じゃないと、あいつが女王陛下から直接、勲章を貰えるような功績を挙げられるわけがない」
「ぶほっ……ごほごほ……」
咳込んだ。ビジョンの奴、鋭いな。
「でも、サンサ様がクルッシュ魔法学園にやってきたってことは、公爵家の方でも何か動きがあるんですか? こっちも噂になってますよ、スロウ様の御父上、公爵家の当主がハピクール領で襲撃されたって――」
「——ビジョン・グレイトロード! 次はお前だ!」
ロコモコ先生がビジョンを呼んだ。
向こうではロコモコ先生の土の魔法でボコボコにされた皆の姿が見える。残念ながら、まだ誰もロコモコ先生に一撃を与えることに成功していないらしい。
てか、ビジョンの言葉。何か気になる台詞が聞こえたけど……。
「まあ、いいですけど。それよりスロウ様、僕も多少は強くなったんです」
そう言って、不敵に笑うビジョン。何だか自信ありげである。
ビジョン・グレイトロードと言えば、俺の初めての友達だ。
鍛錬に鍛錬を重ね、
でも予想は覆された。
まさかあいつがロコモコ先生に一撃を与えるなんて。一瞬のことだったけど、ビジョンの魔法がロコモコ先生と同じ高みに届きかけた。見物していた公爵家の騎士達も口笛を吹いて、ビジョンの善戦を讃えている。他の生徒は目を丸くして悔し気だ。
どうやらサンサへのアピールに成功したのはあいつだけのようだ。
「まじか……。驚いたな、ビジョンがあれだけ強くなっていたなんて」
一応、ロコモコ先生は元王室騎士だからな?
それも騎士の中では強い方だから学園長が魔法学園の先生にスカウトした。つまり、かなり頼りになる人だということだ。
ロコモコ先生も生徒と同じようにサンサの目を気にしていた。
生徒からの魔法なんて一撃も魔法を食らう予定は無かっただろうに。
「デニング、お前かあー……一番嫌な奴を最後に残しちまったな……」
そして、最後に俺が残った。
ロコモコ先生は、露骨に嫌な顔をする。
「先生。生徒相手にその顔ってどうなんです?」
「お前をただの生徒扱いしている教師なんてこのクルッシュ魔法学園には一人もいねえよ……デニング、お前。学園に戻ってきたばっかりで体調悪いだろ。今日はほら、自分から辞退しろ」
「先生。今、ちょっとやる気に満ち溢れています」
あんなビジョンの善戦を見てしまった後だからかな。
そうだよな、シューヤだけじゃない。皆も成長してるんだなって、上から目線で申し訳ないけど少し心が揺さぶられたよ。
でもまあロコモコ先生の気持ちも分かる。
俺と先生が戦うってのはどうだろ? もし俺がロコモコ先生を倒したら、先生としての立場もあるよな? やっぱり辞退した方がいいか?
でも、サンサが手を上げ、呟いた一言で事態が大きく変わった。
「ロコモコ・ハイランド——私がやるよ」
途端——ロコモコ先生は俺が見たことが無いぐらいの気持ち笑みで。
「さすがの俺もあのサンサ・デニングも拒否することはできねえからな。ということで魔法演習の授業は公爵家同士の模擬線とする。お前ら、巻き添えを食らいたくなかったら距離を取れ!
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【読者の皆様へお願い】
天は二物を与えました? ートリアの日常、黎明魔法学園にて――
https://kakuyomu.jp/works/1177354054896506425
女の子が主人公な新作を書いてみました。
ほのぼの新作。良ければご覧になって見て下さい。
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