371豚 帰って来たクルッシュ魔法学園

 馬車を降りて長旅からやっと解放される。

 俺たちをサーキスタから引っ張ってくれて馬たちもよく頑張ってくれたよ。しばらくは清潔な馬小屋の中でゆっくりと休んでほしいところだ。


「ほら、シャーロット」

「……え。あ、ありがとうございます、スロウ様」


 馬車から降りてくるシャーロットに手を差し出しながら、帰って来たクルッシュ学園を見渡す。再建時に大幅な金を掛けられて、さらに奇麗に整らえれた庭園や噴水。なんか帰って来たって感じがするなあ。


「やっと帰って来たあ……」

「随分久しぶりな感じがしますね、スロウ様」

「サーキスタでは大変な目にあったからなあ……」


 たった1か月、されど1か月だ。 

 それぐらいサーキスだ大迷宮への旅は、俺の記憶にまだこびりついている。もう暫くモンスターはいいです。お腹一杯で、迷宮って言葉も聞きたくない。

 スライムって単語も嫌だ。


「さて、スロウ。お前の新しい従者だがな――」


 俺たちに続いて馬車を降りてきたサンサ。

 澄ました顔で長い黒髪をなびかせている。あいつ、さっきまでは馬車の中で、クルッシュ魔法学園だ! ってはしゃいでいた癖に、この変わりようだよ。


「えっと、サンサ。俺の新しい従者じゃなくて、従者候補ってどこにいるの?」

「む……」


 サンサの言葉を否定する。従者じゃなくて、まだ従者候補だからな。

 従者と従者候補、その違いは余りにもでかいんだ。


「ミントなら、もう男子寮に待機させている。だが、到着の時刻は伝えていなかったからな。あいつのことだ。もしかすると朝から一日中、お前を待っていたかもしれない」

「一日中ってさすがにそれはないだろ……」


 あんまり気が進まないけれど、待たせっぱなしも申し訳ない。

 いくかあ。



「デニーロ。あの趣味の悪い銅像はなんだ?」

「サンサ様。趣味が悪いなんて言っちゃいけませんよ。あれはクルッシュ魔法学園で学園長を務めた歴代の銅像です」

「ふぅん。夜に見たら不気味そうだな」

「そういや、俺が学生だった頃は夜に勝手に動き出すなんて噂もありましたよ」

「へえ……楽しそうだなあ。学園の噂かあ……」


 おいサンサ。真面目な顔を取り繕ってる癖に、声に思いが出てるぞ。

 まあ仕方がないのかもな。俺たち姉弟の中で、一番学園生活ってものに憧れていたのはサンサだろうから。

 サンサがクルッシュ魔法学園出身の騎士達にあれこれ質問をしている。答える騎士達もどことなく楽しそうだ。


 対して俺はというと。


「ぶひ……」

「スロウ様、何だか小さくなってませんか?」

「べ、別にそんなことないけど……」


 正直、割とびくびくしているさ。

 学園に長期休暇の届けは出していたけど、日数を大幅に超えてしまった。

 俺は無断欠席したわけである。


 聞くところによると、シューヤはまだ王都ダリスにいるらしい。アリシアもサーキスタに帰国したままの状態だ。無断欠席組で帰ってきたのは俺だけなのだ。

 ちなみに二属の杖奪還は極秘情報扱いだ。

 然るべきタイミングで、女王陛下は事実を公表するらしい。


「ほんとですか? あ! 分かりました! スロウ様、学園を無断欠席してたこと、気にしてるんですね!」

「ちょ、シャーロット。俺の気持ちをズバズバ見抜かないでよ……その通りだけど……」



 ちょうと夕方頃。 

 学生たちは授業を終えて、外に飛び出してくる頃合いだった。

 紅色に染め上げられた公爵家デニングの外套を着た騎士達も一緒にいるんだから、俺たちの姿は割と目立つ。

 しかも、一人は公爵家の中でもとびきり有名なサンサだ。


「大丈夫です、スロウ様! 安心してください!」

「なんで、安心出来るのさシャーロット……だって俺って有名人じゃん。無断欠席していたあのスロウ・デニングが帰ってきたーって大騒ぎになったりしないかな」

「ならないと思いますよ?」

「そ、そう? ほんと?」


 しかし、学園の中を歩けば分かった。

 シャーロットとの言う通り、俺の心配は杞憂だった。だって学園の生徒が気にしているのは、俺じゃなくて――。


「おい……嘘だろ、嘘だろ、嘘だろ! あれ……サンサ様だ」

「夢でも見てるのか、どうしてサンサ様がこんな場所にっ――」


 いやぁ、分かっていたけどさあ!

 やっぱり注目の的は、俺の姉上であるサンサに集中していた。


 サンサ・デニングがクルッシュ魔法学園にやってくる。

 そんな情報はどこにも流していなかったし、今回のサンサ・デニングの訪問はモロゾフ学園長にしか伝えていないってサンサは言っていた。


「ど、どうして、サンサ将軍がクルッシュ魔法学園へお越しになられているのですかッ!」


 特に効果が絶大だったのが、やけに体格の良い先輩方。

 恐らくはクルッシュ魔法学園を卒業した後は、軍への入隊を希望している先輩方が俺たちの目の前にやってくる。

 しかも、最敬礼。うわあ、懐かしい。久しぶりに見たぞ、それ!



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