迷宮攻略と水都の姫
309豚 陛下の来訪と隠れる俺
「おい、早く行こうぜ! もたもたしてたら、あの方々の姿がよく見える席埋まっちゃうって!」
「まだ式の始まりまで時間あるだろ、そんなに急いだってさ……」
「——俺、大陸横断を成功させた陛下の大ファンなんだよ! 出来るだけ間近で見てみたいし、お前が大ファンのカリーナ姫だって来てるって噂だぞ!」
「——嘘。おい、急ぐで特等席を確保するぞ!」
はあー、浮かれている。
誰も彼もが、たった一週間前に起こったあの大事件の真実に気付かず、今日という日を心待ちにしていた。
別に悪いことだとは思わないけどさ。
でもなんか、俺だけ貧乏くじを引いているような気分になるんだよなぁ。
いや知ってるけど。
この世はいつだって俺に厳しいってこと。
デニング公爵家に生まれたことだって、そうだ。あの実力至上主義の大貴族に生まれついたという事実、多少の才能があったから良かったけれど、凡人に生まれていたら俺は今頃どうなっていたんだろうか。
公爵家は実力がなくても容赦なく、子供を戦場に送り出すし、死線を潜ることが実力向上に繋がるとか本気で思っているイカレタ大貴族だ。
俺に才能が無かったら、とっくの昔に戦場でくたばっていただろうな。
まっ、あの家に生まれたから俺はシャーロットと出会うことが出来た。
そこだけには、本気で感謝してるけどさ。
「突然の話だったけどさ、あの馬車の数見ただろ! あれ全部、真夜中の内に学園に来たんだってよ! でも……どうして陛下が学園にやってくるかって話だよな。学園再建の時のセレモニーだって、王族は一人も来なかったのに。しかも今度はカリーナ姫も一緒だぜ! 枢機卿の姿を見たってやつもいたぞ!」
「なあ、食堂に王室騎士の
「いやいや、待てよ! そっちじゃないだろう。早く大講堂に行かないと、良い席がとられるってさっきから何度も言ってるだろ。カリーナ姫も来てるんだから――! 少しでも近くを陣取って、顔を覚えてもらわないと!」
シューヤが大精霊さんの甘言に打ち勝ってくれたお陰で、俺も一安心である。
世界を混乱に与える
俺はアニメの中でハーレムを築いたあいつのことなんて、これっぽちも好きじゃない。けどさ、ああ見えてもアニメの中では世界を救った功労者だからな。
あとは、あいつが目覚めて陛下に危険性がないことを証明するだけなんだけど……はぁ。
あの日から一向にシューヤが目覚める気配、ないんだよなぁ。
「——そこのお前ら。ちょっと待て」
「え……でっか! って、ダールトン卿!? う、うわ! 背中に背負った
「式に向かう途中に悪いが、この中に今日、スロウ・デニングを見た奴はいるか?あやつの居場所を知っている者がいたら教えて欲しいのだが……学園に到着して奴を探しているが、ちっとも見つからんのだ」
「え……デニングの奴ですか? うーん、お前、見たか?」
「あの……ダールトン卿。デニングはあの事件があってから、授業にも出てません。医務棟に入院してるシューヤの見舞いに向かう姿なら、俺も見たことがありますけど……」
はあー、俺としてはもさ、色々考えていたんだよ。
シューヤが目覚めたらメンタルケアとか、火の大精霊さんの力の使い方を教えるとか、危険性がないように陛下や、あの頭が固い枢機卿にアピールする方法とか。
なのにあいつは……あれからまだ意識を取り戻していない。
お陰であいつの未来を決める、あいつにとっての超重要イベント。
陛下来訪の日を迎えてしまったわけだ。
「そうか。あの馬鹿者、こちらに連絡もせず一体何を……」
「あ、あの! どうしてダールトン卿とも在ろうお方がデニングを探しているんですか!?」
「お前たちには関係のなきことだ」
「……もしかして、あの噂って本当なんですか!?」
「噂? 何の話だ」
もともと、シューヤが火の大精霊さんの力を制御出来たら、女王陛下が学園に来訪する予定になっていた。
そこで危険性の無さを俺が説明して、シューヤは晴れて自由の身。
いや、自由の身ってのは言い過ぎか。
ちょっと監視がついたら、アニメみたいに陛下の無茶に付き合わされたり、陛下のお気に入りになったりするぐらいだ。
けれども、それも全部ご破算。
あいつが目覚めないせいで、俺の計画はボロボロなのだ。
「噂っていうのはあの……デニングに恨みを持つ奴らのせいで、
「っち、誰がそのよう話を流したのだ。陛下がそのような些事一つのために、わざわざ動くわけがないだろう。しかし、スロウ・デニングがどうなるかはすぐに分かること。もういい、引き留めて悪かったな。お前たちは式に向かえ」
「は、はい! 失礼しました! 出過ぎた真似をしました!」
「……いや、待て。そうだな、道中に他の生徒に会ったら伝えてくれ。スロウ・デニングを見つけた生徒には、金貨十枚を与えるとな」
「へ? ……えええええ。金貨十枚ですか――ッ!」
「おい、式までにはまだ時間があるから、それまでにデニングを探そうぜ!」
……げえ。
「お前たち。スロウ・デニングの確保に協力してくれるのは有難いが、陛下やカリーナ姫殿下が出席される式に少しでも遅れたら許さぬぞ」
「わ、分かっていますって! ダールトン卿! 式までには絶対、デニングの奴を見つけ出します! 俺たちも、学園長から余程体調が悪くない限り、今日の式には絶対、出席するようにって言われてるんですから――!」
クルッシュ魔法学園は、
各国に魔法学園はあるけれど、周囲が森に囲まれ、要塞と化した魔法学園はこのダリスぐらいのものだろう。
モンスター襲撃事件によってボロボロになった学園が再建されてから、有名人がちょくちょく訪れていたが、女王陛下といった王族の方々がやってきたことは一度もなかった。
それが昨夜、女王陛下やカリーナ姫殿下が突然、来訪されたというわけだ。
数日前からそんな噂は流れていたけれど、自分たちが寝ている間にやってくるなんて、学園中が想像もしていなかったらしい。
だから今日は、大騒ぎ。
「デニングと仲が良い奴を探し出せ! ビジョン・グレイトロードや、アリシア様にも声を掛けろ! 一番にあいつを探し出したら、本物の
そんなおめでたい日に、どうして俺は大木の枝に座って、隠れているかって?
どうして巨大な体躯のダールトン卿を上から見下ろせるぐらい高い樹木の枝に座って、学園にやってきた陛下や王室騎士団から身を隠しているのかって?
それは……シューヤが意識を失ったあの日。
あの日から忙しすぎて、俺が陛下への連絡を疎かにしていたからだ!
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