196豚 荒野に佇む全属性①
髪は汚れ、頬には傷が付いている。
大国の王族としての誇りはどこにもなく、こんな戦場にいるには似合わなすぎる女の子。
「シューヤ!」
服は破れ、身体中に残る青あざや焦げ付いた右腕。
そんなボロボロのシューヤをアリシアが揺さ振っている。
元婚約者であるメインヒロインが虫の息状態のアニメ版主人公に縋っている。
何度も何度も夢の中で見た光景。
この二人を軸にアニメは進んでいく。
もし俺がこの道を選択していなければ、アリシアの隣にいたのは俺だったのかもしれ―――止めよう。
それは自分自身に対する裏切りだ。
今更、元に戻ろうなんて虫が良すぎる。
自分の決断を確固たるものにするために、俺はアリシアがやってきたクルッシュ魔法学園でも最高の豚公爵として面白可笑しい毎日を過ごすために努力をしていたのだから。
「シューヤ! ねえシューヤ起きてよ!」
アリシアの声にシューヤが反応することは無い。
今は気絶というよりも精神的なショックで眠っている、本人にその気が無ければシューヤは戻ってこない。
ちなみにアニメの中でも過去を思い出したシューヤはかなりの日数寝込んでいたからな。具体的な数字は分からないけど、暫く起きることはないだろう。
「起きなさいってば!! ……そうだ! ヒール! 豚のスロウ! ヒール!」
「安らかな顔してんだろ、そいつ。俺がたっぷりとヒールかけたからなんだぜ」
俺は知っている。
アニメ知識という万能の未来が俺に教えてくれる。
シューヤが何故あんな状態になったのか、俺は全てを知っている。
「こらシューヤ! 起きなさい! こんな場所で寝てたら死んじゃいますわよ! こら! 起きろってば!!」
……。
アニメ版主人公、シューヤ・ニュケルン。
地上に出た時はさすがに恐れ入ったよ。
あの強力なモンスター達を相手にあそこまで奮闘出来るなんて並大抵のことじゃない。火の大精霊さんに操られていると言ったって、お前の身体を動かすのはお前の意思の力だ。
きっと、贖罪だろうな。
こんな事態を引き起こしてしまったから、お前は何としてでも三銃士を倒さないといけないと思ったんだろ。自分が何者であるかも忘れ、ただ事態を少しでも良くするために命を燃やして戦ったんだろう。
「今はゆっくりと休めばいいさ。後は俺が引き受けた」
俺は握り締めていた水晶をシューヤの身体の脇に置いた。
中に隠れている火の大精霊さんは無言だ。
空中からシューヤの身体を操る糸を切り刻み水晶の中に魔力を叩き込んだ。こいつも暫くは余計な手出しを出来ないだろう。
「さて、と」
俺はアリシアのそばで倒れている男に目を向ける。
岩と岩の隙間に見覚えのある男が寝転がっていた。
見覚えのありすぎる姿、皇国で出会った時よりも身綺麗だ。
「最強の敵が。哀れなあいつが今も向こうで俺を待っているから」
シューヤをここまで運んでくる際に頭の片隅にあったのだ。
アニメの中のメインキャラクターであるシューヤがいるなら、もしかしてシューヤの師匠も何かに巻き込まれているんじゃないかって。
「シューヤの師匠、アンタの武器を借りさせてもらうよ」
アニメの中では一緒に行動することも多かった、シューヤの師匠的存在。
皇国ではオークの里を襲いかけた厄介な敵として一戦交える機会もあった。
「でも、ただとは言わないさ」
そして、俺の予想は的中した。
倒れ込んだ
アリシアの故郷、サーキスタで猛威を振るうS級ダンジョン
悪魔系モンスターが闊歩する奈落の底で
余計な装飾を剥ぎ取った無骨な大剣がこの空間の中で異様な存在感を放っている。
「見せてやる、
俺はアニメでも屈指の力を誇る天上の一振りを手に取り。
「―――
未だ砂嵐止まぬ、向こう側を見つめた。
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