第17話 取引
「もう、毒は落ち着いてきたな」
水を飲ませたキースの様子を確認したウーは
「なら、はやく、始めるぞ」
と、キースにせかすように言った。
キースはウーをにらみつける。
こちらの人権もなにもあったものではない。今までの男たちも、当然種馬扱いだったのだろうが。
「……しばられてて、どうやれというんだ」
「仕方ないだろう、お前が逃げるから。言う通りにするなら外す」
ウーはすんなりとした長い脚を折り曲げて、キースの隣のパイ女王の前に座った。
「パイ女王。よろしいですか」
「いやよ!」
ふるふると、パイは首を振った。
「どういうこと、ウー! 私を縛るなんて!」
三つ編みのほどけた夕焼け色の髪がゆれうごく。
ふっくらした頬は怒りのあまり、さらに膨らんでいた。
彼女は自らの両手首を縛っている縄に憤慨していた。
「ご理解ください、もう限界なんです」
「限界?」
「我らが一族の子が7年間産まれていないのは知っていますね。最近の赤子は捨てられていた他族の女児のみ。このままでは滅んでしまいます。だから今、一番お若い女王であられるあなたに期待が集まっているんです」
ウーは説き伏せる。
「しかし、あなたはまだ成人することを拒んでいる。下女にもいろいろな者がいます。あなた様のことをよくおもっていない輩もいるかもしれない。その者たちにとっては、あなたは、……言葉は悪いですが『用無し』とみられてしまうのです。お分かりですね」
パイ・ムーアは青ざめた。
「過去にも例がありました。下女に落とされた女王もいました。あなたは耐えられますか、そんなことに」
ムーアはうつむく。
「わたしもほかの下女をなだめるのに限界があります」
ウーは申し訳なさそうに告げる。
二人を見ていたキースはウーに声をかけた。
「おい」
「なんだ」
ウーはとがった目をむける。
「言うとおりにする。だから、手を自由にしろ」
ウーは目を見開いた。
「どうした」
「気が変わった」
キースは、前で縛られた自らの手首をウーに突き出す。
警戒しながら近づき、縄を解き放とうとするウーの手首をキースはつかんだ。
「だが、条件つきだ」
振りほどこうとするウーに力を込めてキースは耳元でささやく。
「俺がパイ女王と寝たら、俺を逃がせ」
「……!」
「それが、条件だ」
ウーはキースを振りほどいた。
「何を……ばかめ、お前はいずれ死ぬんだぞ」
「それは、ここにいればの話だ。幸い、俺の国は医学が突出してる。帰れば、生き延びるチャンスはある。俺をここから、出せ。タオとかいう女にいたぶり殺されるくらいなら病気で死ぬ方がましだ」
動揺したのか、ウーはしばらくしてから、答えた。
「……タオに逆らえばどうなるか。お前はタオ女王を知らないんだ」
「なんだ、いくらいかれた女でも、お前は女王には逆らえないのか」
皮肉っぽくいうキースに
「ああ。くやしいが、そのとおりだ」
ウーは答える。
「女王は絶対だ。我らは従わなければならない。さっきだって、お前を取り戻すのに苦労したんだ」
低い声でつぶやく。
「お前の望みどおりにしてやる。対価を返せ。……たのむ」
キースは真剣にウーの顔をのぞきこんだ。
「……だめだ、女王に逆らうことは許されない!」
ウーは立ち上がって自分にいいきかせるようにいう。
「条件なしでは俺は彼女とは寝ない。いいな!」
去るウーの背に向かって、キースは叫んだ。
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