別荘
東オルガン市内から西方へ15キロ。
西オルガンとの国境沿いの森には美しい湖が点在し、別荘が多く建っている。
車をデルラから聞いた場所へと走らせたエバンズは、夕陽が赤く染まる頃、件の別荘の前に到着した。
湖畔のほとりに佇む、赤い三角屋根、白壁の可愛らしい別荘だった。
車からおりた二人は、ヨークから手に入れた鍵を手に、入り口のドアへと向かった。
……開かない。
鍵穴に刺して回らないのを確認し、エバンズは鍵を鍵穴から外した。
「その鍵ではないようですね」
ベアーが言い、壁際を歩いて移動した。エバンズも後に続く。
カーテンの閉められた掃き出し窓へと近づいた。
引き違いタイプの窓を動かしてみるが、当然鍵がかかっている。
どうするかな、とエバンズは思案した。
「エバンズさん、そこを移動してください」
後ろからベアーの声がし、エバンズがふりかえるのと同時に石を振り上げたベアーが窓ガラスへとぶつけた。
ヒビが入った窓ガラスに足でもう一度衝撃を与え、穴をあけると、ベアーは手を中に突っ込んで鍵を開けた。
「私がやりました。何かあったときは、わたしがすべてやったと」
おどろいているエバンズに、窓を開けながらベアーが言う。
頷きながら、エバンズはベアーに続いて開けた窓から中へと入った。
入ったのはリビングだった。
フローリングの床とソファーの上には、菓子袋とスナック菓子のかけらがところどころに散乱していた。
空のワインボトルと、ビール缶もいくつか転がっている。
「他の部屋を見ましょう」
一階の他の部屋へと二人は移動した。
シャワー室とトイレ、キッチン、物置。
全部の部屋を見回った後、エバンズとベアーは二階へと階段を上った。
階段を上り、手前の部屋のドアを開けたエバンズは立ちつくした。
寝室のベッドに四肢をベッドの脚へとくくりつけられた全裸の女性が仰向けで横たわっていた。
口はなにかを詰め込まれてスカーフで覆われているようだった。
褐色の肌は、キエスタ人女性。
女は目を大きく見張り、何かを必死で訴えるように顔を上げエバンズを見た。
エバンズはベッドに駆け寄り、すぐさま、女の轡を外した。
口から布の塊を吐き出すなり、彼女は大声で叫んだ。
「クローゼット!」
女の言葉と同時に、背後のクローゼットの扉が開き、男が飛び出してきた。
男はエバンズに飛びかかり、二人は絨毯の床へ共に転がる。
馬乗りになった男に反撃しようとしたエバンズだったが、首を締め付ける男の力が抜け、ばたりと自らの横に崩れ落ちるのに驚いた。
見上げると、ベアーが馬のブロンズ像を片手に立って、男を見下ろしていた。
「リビングにありました」
そう言って、ベッド横のサイドテーブル上にブロンズ像を置く。
「以前、背後に気付かず失敗した経験が。良かったです」
「あ……ありがとうございます」
手を差し伸べるベアーの手を取り、エバンズは立ち上がる。
男は気を失っているようだった。
歳の頃は、30過ぎぐらいの男だろうか。
顔付きにはガラナ族の特徴があった。
二人はベッド上の女性の手足を、捕縛する紐から解き放つ。
「もう大丈夫です。よく頑張りましたね」
起き上がった女にエバンズは自らのジャケットを脱いで羽織らせた。
女は視線をエバンズからサイドテーブル上のブロンズ像に移した。
途端、女はベッドを飛び降り、ブロンズ像をつかむと床の男に襲いかかろうとした。
「だめです! 」
エバンズは女を背から羽交い締めにした。女はエバンズを振り解こうと暴れた。
「¥+<+^,<%2〆^!」
ベアーが耳慣れぬ異国語を吐き、女の手からブロンズ像を奪い取る。
暴れていた女は動きを止め、何かを叫ぶとエバンズを振り払った。
そのまま、ベッドに腰をおろし、床に横たわる男を横目で見下ろす。
目の奥には冷たい憎悪の光があった。
「こいつを殺したい」
「罪を償わせます」
エバンズは言い、女のもとに跪いた。
「この国の法に従って。必ず」
見上げるエバンズから目をそらし、女は首を振って、異国語をつぶやいた。
「……みんなは、下の階にいると」
ベアーがエバンズを見下ろして告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます