105話 本屋
くそじじい。
デイーはむしゃくしゃした気持ちでアルケミストの部屋を出た。
派手に足音をたてながら、階段を走り下りる。
俺はまだ一言も何も言ってねえのに。
カラスの鶏ガラみたいな痩せたジジイのくせして、えらそうに言いやがって。
外の眩しさに、デイーは目を細めて立ち止まった。
目が慣れて歩き出すデイーは、もしかして彼女がこの付近に残ってはいないかと目を辺りに走らせる。
彼女より俺が先の順番なら、彼女が出てくるのを待ちかまえられたのに。
彼女の姿は当然ながらなく、デイーはため息をついた。
この先の本屋で、幾度となくデイーは彼女のことが載ってないかと調べてみた。
あれだけ美しい彼女なら、モデルか女優に違いない。
そういう雑誌や新聞の記事を、手当たり次第に読んでみたけどダメだった。
この国の人間じゃないかもしれないと思って、グレートルイスの雑誌も手にとってみた。
今日も手に取った雑誌に彼女は載っていなかったが、過去に見た女が載っていた。
グレートルイスにいた時、新聞の一面にでかでかと載っていたその女の写真にデイーは仰天したことがあった。
その写真の女性が、以前密林で遭遇した少女に似ていたからだ。
本人かと思っていた。
でも文字が読めるようになった今、記事を読むかぎり、密林の少女と同一人物ではなさそうだった。
他人の空似というやつか。
世の中に似た顔は三人いると聞いたことがあるが、あんなに美しい顔がふたつと存在してるもんなんだな、とデイーは思った。
新聞に載っていた彼女が、何故ゼルダに行って、わざわざゼルダ人のよりにもよって犯罪者の子を宿したのかは分からないが、哀れには感じた。
程度は違うが、自分の姉と似たようなものだ。
まあ彼女の場合、キエスタ人でもなければ、外見的に次の男に困りそうにもないので姉と比べればマシだろう、とそんなに気をとめずページを閉じた。
彼女のことを知りたい。
デイーは心の底から、そう欲した。
知ってこの気持ちが収まるわけはないけれど。
むしろ、一層気持ちが高まるのは目に見えてる。
でも、そう願わずにはいられない。
狂おしい感情に、デイーは雑誌をもとの場所に戻しため息をついた。
その時、後ろから本屋の店員が咳払いするのが聞こえた。
振り返ると、中年の男が眉間に皺を寄せて自分を見ていた。
まずい。
最近、続けて買わずに読み漁っていたのを覚えられていたのだろう。
デイーはすぐ隣の棚から文庫本のひとつを適当に選び出し、店員の男に渡した。
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