ゼルダ 西オルガン編
第63話 リック=レイモンド
ゼルダの飛び地、リゾート地でもある西オルガンの高級ホテル前に建つカフェで、道に面した席に座り、リック=レイモンドは新聞を読んでいた。
机に置いてあるカップは何杯目のコーヒーか。
灰皿にもかなりの本数の吸い殻が入っている。
今も十何本目かの煙草を口にくわえ、リックは紙面をめくりながら向かいのホテルの入口に目をやった。
染めたのか生まれつきか、彼の淡い金髪は目立った。
前髪だけ立たせた髪型は彼の年齢がまだ若いことを示している。
瞳の色はよくあるブルーで顔立ちはとりわけ目を引くものではない。
しかし彼はこの国に住む者とは異質な空気を持っていた。
際立つのは目の輝き、だろうか。
どこかあきらめたような陰りをもつこの国の人間の目とは違って、彼の目は突き抜けた明るさがあった。
彼の服装はかなり軽装だ。えんじ色のタートルのセーターに、チノパン。ベージュのくたびれたレインコートを羽織っている。
周囲にいる人々とは違い、明らかに安価な服の取り合わせだ。
短くなった煙草の最後の一息を吸い、灰皿に押し付けた彼は、新聞の向こう側にホテルから出てきた人物を認めて、あわてて新聞を閉じた。
カフェの店員の手に多少多目の代金を押しつけ、急ぎ足で彼女を追う。
彼女はグレーカーキのAラインのトレンチコートに、千鳥柄のハイヒールを履いていた。大きめのサングラスをかけている。
肩にかかった髪は裾から大きくカールしており、陽の光に照らされた褐色の髪は、赤毛よりも燃えているように見えた。
野生の野を走る、鹿毛の馬を思わせる。身長は高くも低くもなかったが、手脚の長さ等のバランスは絶妙だった。
リックは新聞を丸め、ショルダーバッグに詰め込む。
彼女の後ろ姿を見つめ、5メートルほど距離を置いて後をついて行く。
彼女は時折、ショーウィンドウに飾られた服や靴などに足を止めた。
長く眺めているときもあったが、店中には入ろうとせずまた歩き出す。
彼女が止まっているときはリックも店の内装を覗き込んだり、煙草をくわえ火をつけたりしてやり過ごした。
彼女が左右を確認し、交差点を走り気味で渡った。
リックも車が通り過ぎるのを待ってから、小走りで交差点を渡る。
すでに交差点を渡り切って道を歩いていた彼女が、ふいに傍の路地へと曲がった。
リックは走って彼女の入った路地へと向かう。
路地を曲がった途端、目の前に通せんぼするように立っていた彼女に、リックは立ち止まって身じろぎした。
彼の鼻ほどの身長の彼女は彼に一歩近付いてサングラスを外した。大きな灰色の瞳が彼を見つめる。人間離れした整った美しさにリックは息を呑んだ。
彼女はサングラスを持ったまま、腕を組んで彼を見上げて言った。
「どうして、あたしをつけ回すの?」
彼女の有無を言わせない迫力に、リックは彼女を見下ろしたまま唾を飲み込んだ。
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