第2話/6
時計塔に向かう公道を猛スピードで走り抜けるバイクが二台。
二台のバイクが走った跡はタイヤの焼痕ではなく、連立する火柱とその他大勢の一般車両だった。
先行する純白のハーレー・ダビットソンには【
互いの武装は人殺しどころか、相手ごと周囲を破壊してしまう兵器であるというのに、未だに相手を仕留めることはできていなかった。
火柱が三本、同時に上がる。疾走している道はおろか対向車線までを巻き込んで、ロンドンの街を赤色に染め上げた。
両の十指に十の懐中時計のチェーンをを下げて、ミラー越しにホワイトラビットは追跡者を確認した。
うおん、という唸り声を上げて、炎の中をホンダワルキューレ・モデル<オーディン>が突破してきたのを見て、彼は舌打ちをする。
「ブリキの兵隊さながらのタフさだな、スズ」
返答の代わりに向けられた銃口。逡巡の間さえ惜しく、ホワイトラビットは自ら対向車線へ躍り出た。スズは驚いた様子もなくそれを追う。
五分前までは先行車両を避け、あるいは避けさせて進む障害物競走。それがこの瞬間、障害物が一斉に押し寄せる戦場となった。
何も知らない一般人運転手の視界に映ったのは、道の先で起きている火災。それが最初で、次に映ったのはそれを巻き起こしたバイクである。そうとは理解が追いつかず、彼はクラクションを鳴らして急ブレーキを踏み、なんとか避けようとハンドルを無理やりに回す。タイヤとアスファルト、それにブレーキが甲高い悲鳴を上げ、車体が横に回る。五秒の後には後続車を巻き込んで道路が塞がるだろう、その僅かな間にホワイトラビットはハーレーを突っ込ませた。人差し指から懐中時計が離れ、スピンする車のボンネットで一度バウンドすると道路に落ち、二秒してから火柱を上げる。スズが直面したのはまさにその瞬間だった。目の前で弾け飛ぶ車が二台。標的は爆炎に見失う。いや、見失ったというのならば、相手の目的である。そもそも不明瞭で、見えていない。
(目的は何だ……?)
賞金稼ぎならともかく、同じ犯罪者である【
スズはショットガンを捨てた。目の前には圧倒的な密度の死が迫っている。どうやら自分の相手はホワイトラビットただ一人であると仮定し、同じようにレオにも何者かが宛がわれていると想定し、地上ではなく空中に飛ぶ車を見て――さてどうしたものか、と現実逃避じみた冷静さでその向こう……空を視界に移した瞬間、ひとつの解が浮かんだ。
(――まさか。)
強盗OZの戦闘力の要はスズとレオであり。
狙う宝が何であろうと構わない、とホワイトラビットは言って。
時計塔の周りには、黄金の粉が振りまかれていた。
「我らがアリスはそろそろ舞台に立ったか。始まりを告げる兎が遅れては何もかもあべこべで本末転倒――あぁいや、そもそもにして、そんな話だった」
爆発と衝突と悲鳴にクラクション。様々な音が作り出すオーケストラを、一際大きな爆発音がかき消すのを聞き、自ら引き起こした爆発が生む強風を背中に受けながら、ホワイトラビットは笑った。
「地を這う我々には理解しかねるな、ライオンもブリキの兵隊も用無しの物語とは――さて、神出鬼没の【怪盗】がここまで派手に現れて奪う宝に、どれだけ価値があるのやら」
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