第2話/5

 なぜ、レオは生きている。

 なぜ、私の剣が砕けているのか。その答えは――

「二挺ではなく、か……敗因というのは」

「こりゃ敗因以前の問題だぜ? テメェが自分で言ったろうが。“四つ牙”ッてな」

 硝煙が裏路地に立ち込めていた。両手にレイジングブルを下げたレオは、くだらなさそうにそれを両腰のホルスターにしまい、煙草を取り出して銜えて言った。マッドハッターは地面に膝をついている。視線は、柄から先のないステッキに向いていたが、レオの言葉に顔をゆっくりと上げた。……ホルスターが両腰に、二つずつあった。

「……見当がつかないな。私の軽率と驕りでなければ、何があるというのだ」

 レオは首を傾げ、自らの勝因を煙草の煙と一緒に吐き出した。

「テメェは強ぇ。ぶっちゃけた話、これが無きゃ何度か死んでたと思ったしな。まず一つ目。――美形は二人も要らねぇんだよ、ジェントル。ってことだ」


 左手が銃を引き抜く。指は酷使の代償で、血まみれになっていた。マッドハッターはそれを見上げることしかできない。


「そんで二つ目だ。これが覆せないんだなぁ、マッドハッター?」

 ミリオンダラーの二番【大強盗】OZのガンマン、レオは、最大の勝因を口にしながら、引き金を引いた。

「――勝利の女神が、俺に惚れてンだよ」

 レイジングブルマキシ・オーバーカスタムが高らかに勝利の雄たけびを上げる。シルクハットが宙を舞い、それが地面に落ちるのを見届けると、レオは踵を返して、切られた足を引きずりながら、路地裏を出て行った。

「……ティーポットは出てこねえか。ま、美味い茶菓子だったぜ」

 


――マッドハッターの背後の壁には、数えての弾痕が刻まれていた。


「待て、レオ……見逃すというのか、私を……!」


 その背に遣り切れない慟哭を孕んだ声が投げられ、レオは億劫そうに振り返った。


「あぁ? 見逃すに決まってンだろそんなもん」

 煙草を挟んだ右手の指が、地に落ちた穴空きのシルクハットを指す。


「帽子は品切れだろ。お前今、なんだよ。俺らと同じ【ミリオンダラー】だっつーんなら、らしく振舞えなくなった時点でソデに降りろって話だ。それともなにか? 生死問わずデッド・オア・アライブの賞金首さんよぉ。このにお前を引き渡せってか? ハッ! 笑えるぜ」



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