第9話/8 終幕
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――かくして、【翼】の面々との騒動は幕を引く。地上でけたたましく鳴り響くサイレンを尻目に、【大強盗】は姿を消した。
大図書館から強奪された希少な書物は彼らの手に渡ってしまい、結果としてミリオンダラーの二番、OZの懸賞金はもう何度目かわからない上方修正が施される。
「はぁーっ! 疲れたけど楽しかったっ! ねっ、カーカシっ」
んーっ! と背伸びをしてから赤い飛行艇の隣を走るドロシーは、飴色の髪を結んだリボンを解いて笑う。
「うん……」
対称的に、少年の顔色は優れない。元から憂鬱げな瞳は、いっそうその色を濃くしていた。
「なぁに、カカシ。マリアのお話、思い出してるの?」
――決着が付き、マリアージュ=ディルマは安堵に似たため息を吐き出し、悔しいですわ、と笑ってから言葉を紡いだ。
『……嫌になりますわね、もぅ。“空において負ける事無し”が【赤】の売り文句ですのに。こうも立て続けに連敗というのは、心が折れてしまいそう。慰めてくださいまし!』
『連敗って、マリアたちがっ? 嘘っ!』
『大きな声でリアクションしないでくださいっ! 本当に、ショックですのよ。……負けたのは
――最終的にはカラーズ同士の諍いを聞き付けた
『……その、空中戦で
――ランスロット。未だ、空に夢を馳せる者達の中で色褪せない『
それに、阻まれてしまったのだ、と朱雪姫は嘆いた。
『ドロシー様。
「あの趣味はどうかと思うよなぁ?」
――と、追想を打ち切るような、レオの呆れ声。
「うん……マリアはライダーの資質も、賞金稼ぎの腕も、人格も一流だよね。でもアレは無いかなぁ……」
『流石は天下の【大強盗】。お目が高いですわね? やっぱり賞金稼ぎなんかやらずに、手に入れる側の方が良かったかしら、羨ましい。勿論、コレクションするのでしょう? えぇ、
『売るつもりだけど……』
『えっ?』
『えっ?』
「……で? 坊はソレ、売るのか? 結構な額になりそうだよなぁ」
「売るって言ったじゃないか。マリアには悪いけど、僕らの趣味じゃないでしょ、これ」
「俺の持ってる方じゃねえよ。坊が持ってる方だ」
「…………」
「カカシって、渋い趣味してるよねぇ」
「……いいじゃないか。データで読むより、手で捲りたいから、今でも図書館っていうのは在り続けるんだし」
――そう言って少年は、パーカーのポケットから出した一冊の古書の背表紙をそっと撫でた。
刊行は二十世紀初頭。二十一世紀現在でも、未だその名前を知らない者の居ない、ミリオンダラーの【八番】よりも高名な怪盗の冒険活劇小説が、騒動に紛れて、世の中から姿を消していた。
第9話【強盗童話/2】『Piece of cake!』 完
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