第11話 岬めぐり
4人は品川でJRから京浜急行に乗り替えると、快速特急三崎口行きに乗った。健作は座席一つを、足元にあるレバーを踏むと、クルリと回転させてボックス席にした。
「あら、この電車こんなことできるんですね。」
と典子は驚くと、智子は、
「先輩って、何でも知ってるんですね。」
と言った。
健作は、ちょつと照れたような顔をして、
「新幹線や在来線の特急なんかもほとんどこういう構造になってるんだよ。さあ、座ろうぜ。」と席を進めると、典子、智子と、健作、修が対面するように座った。
「品川から一つ手前の泉岳寺駅が始発だから、空いてて良かったね。」
と修は言うと、目を輝かせながら子供のように窓にかぶりついて外を眺め始めた。
「典子さんは京浜急行に乗るのは初めかな。この電車で城ヶ島の入り口の三崎口駅まで、1時間ちょっとかかるんだ。」
「へー、ちょっとした旅行ですね。那覇から羽田まで飛行機で2時間ちょっとだから、その半分もかかるんだぁ。・・・那覇から鹿児島まで行けちゃう!!」
外ばかり観ている修に智子は声をかけた。
「修さん!」
「な、何、智子さん?!?」
鳩が豆鉄砲を食らったように修はビックリして智子の方に振り向いた。
「外ばっかり見てるけど、何が見えるの?」
「え~、何が見えるって・・・そうそう、景色が見えるよ! お寺さんとか、お墓が多いかな・・・」
智子と典子は思わずふきだした。
「うん、ここら辺はね・・・」と健作は話しを続けた。
「江戸時代に、江戸の中心部にあったお寺さんが幕府の命令で郊外に移転させられたから多いんだ。」
修、智子、典子の三人は、健作の顔を見つめると感心したように一斉に「へ~」とうなった。
なんと、この『へ~』が長三度の和音になっていたのには、4人で顔を見合わせると大笑いしてしまった。
会話は弾んで、楽しい時間は車窓の変わりゆく景色のように瞬く間に過ぎていく。
気がつくと、車内放送で三崎口駅へ到着することを告げていた。
改札口を出ると、駅前ローターリーから城ヶ島行きの路線バスに乗り込んだ。
「終点まで乗るから、一番後ろに行こうぜ!」と健作が言うと、バスの最後部の席に横一列になって座った。
澄み渡る空から春の暖かな日差しがバスの中にも差し込んできて暖かい。
健作は窓を開けると、潮の香りとともにひんやりした風が流れ込んでくる。
健作は窓の外を眺めながら、いつしか『岬めぐり』を口ずさんでいた。
「先輩、なにを歌ってるんですか?」と典子が聞いた。
「あ、いや、昔懐メロで聞いたこの曲が好きになっちゃったんだよ。
山本コータローとウィークエンドの『岬めぐり』。典子さん知ってる?」
「いいえ、初めて聴きました。とってもいい曲ですね。」
そこに修が割り込んできた。
「まさに今日の小旅行にぴったりだな。」
そのとき、智子は窓の外を指差して叫んだ。
「あっ、海が見えてきた。」
正面に城ヶ島大橋が見えてくると、海が見えてきた。
城ヶ島大橋は海面から20m前後もあって、見晴らしがいい。
春の日差しにキラキラ輝く海がまぶしく、4人の気分は否が応でも高揚した。
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