第2話 一期一会
直美と妙子は外から戻ってくると、健作の正面に腰掛けた。
あらためて直美を見ると美人というわけではないが、笑顔がとても素敵で可愛らしく、青空のような爽やかな雰囲気を持っている。
健作はちょうど食べ終わったところで、箸を置いた。
「直美さん、ごちそうさま。とってもおいしかったよ。初めて食べたのに、なんかとっても懐かしい味で、心のそこから温められた感じ。北海道っていうと味噌ラーメンのイメージだけと、これはまた食べたくなる味だね。」
「お粗末さま。海鮮ラーメンはうちの看板メニューだからね。兄さんは何て名前?」
「あっ失礼、僕は健作。よろしくね。」
二人はどちらからともなく手を差し出した。
手と手が触れ合った瞬間、何か暖かいものが二人の身体を駆け巡って、永遠とも思われる時間が流れる。
その様子を見ていた妙子は微笑んで、咳払いをすると健作に問いかけた。
「ところで健作さん、あのジープは海兵隊のジープなの? 変わったナンバー付いてるけど!」
健作は現実の世界に引き戻された。
「あ、あのジープは朝鮮戦争に行ったジープで、昭和35年に米軍から払い下げられて以来、我が家の家族になってるんだ!」
「へー、そんなに古いんだ。ねーねー直美ちゃん、あんた健作さんと一緒にドライブ行ってきたら!? なんだったら、そのまま東京に行っちゃってもいいんだよ!!」
「妙子さん何言ってるの。行ける訳無いじゃん!」
直美は、頬を微かに朱に染めると立ち上がった。
「直美さんさえ良かったら、僕はかまわないよ!
社長、直美さんは今日から一週間年休とるって!」
健作は、厨房にいる人影に向かって声をあげた。
「経営者は私。だから行ける訳無いでしょう!」
直美はちょっと困ったような顔をして、器を手に取ると厨房に消えた。
「ははは、そうだよね。」
健作は苦笑いすると、席を立った。
妙子は、健作を見上げると小さい声でささやいた。
「もともとここは、直美ちゃんのご両親がやってたお店なんだ。事故でご両親をいっぺんに亡くして、自衛隊辞めてお店を継いだんだよ。健気に明るく振舞ってるけど、若いのに苦労してるよ。早く幸せになって欲しいんだけどね。」
健作は、暫く発する言葉も思い浮かばず、厨房の向こうに垣間見える直美を目で追った。
かばんを手に取ると、ようやく口を開いた。
「妙子さん、ありがとう。僕もあのジープが唯一の家族だよ。」
健作は、厨房に向かって声をかけた。
「お勘定お願いましす。」
直美はエプロンで手を拭きながら厨房から出てきた。
「はい、ありがとう。また機会があったら食べに来てね。」
「ああ、今度来た時は海鮮あんかけ焼きそばにするね。」
健作が扉を開けて外に出ると、後ろから直美の声が響いた。
「ありがとうございました。」
健作はエンジンをスタートさせると、駐車場を出て札幌を目指した。
直美は厨房の窓越しに走り去る健作を見つめている。
いつしか後ろに妙子が立つと、直美の肩に優しく手を置いた。
直美は、開いた扉から初秋の爽やかな風が、頬を優しくなでていったような気がした。
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