第5話 後 悔
健作がワシントン・ダレス国際空港のロビーに立つと、電光掲示板でユナイテッドの行く先がHGKと記されている便の時間とゲートを確認すると、チェックインした。
飛行機は、サンフランシスコを経由してほぼ1日、22時間を飛行機の中で過ごすと、飛行機は高度を下げ始めた。九龍城を掠めるようにグッと高度を下げて滑走路へと滑り込んでいった。
バスで尖沙咀に向かうとビジネスホテルに宿を確保して、スーツケースを開けた。
シャワーを浴びて着替えると、タクシーで香港中文大学の郭教授を尋ねた。
「郭先生、アメリカから戻りました。」
「おー健作君、お疲れ様でした。4年はずいぶん長かったね。あちらはどうだったかな?」
「はい、今振り返ってみると、無我夢中の4年間で、あっという間に過ぎ去ったような気がします。」
「そうですか。あっという間に過ぎ去ったということは、充実した4年間だったのでしょう。
そうそう、今晩水上レストランでわが研究室のパーティーをやるんだが、君も参加しないかな?」
「はい、喜んで。」
「うむ、4年も経って研究室のメンバーの顔ぶれもずいぶん変わったから、ちょうど良い機会だ。みなさんを紹介しよう。シンガポールからの留学生も入ったことだし、新しいメンバーと親交を深めるにはちょうどいい機会だ。それじゃあ18時に珍宝でお会いしよう。」
健作は研究室を辞すると、香港市内にもどり、あてどもなくぶらぶらして時間をつぶした。
18時少し前に水上レストランの前に着くと、目前の湾内に浮かぶレストランは綺麗にイルミネーションで飾られて、中央には『JUMBO 珍宝』というネオンサインが輝いている。
海への映りこみが、より水上レストランを大きく見せている。
レストランへの渡し舟に乗ると、漆黒の海を渡る潮風が心地よい。
船を下りて入り口に行くと、郭教授と学生たちはもう到着している。
「先生!」健作は郭教授に声を掛けると、その場にいた学生たちも振り返った。
その瞬間、学生たちの中から痛いような視線を感じた。
健作はびっくりしてその視線をたどると、その先に立っていたのは・・・
「健作・・・」「リリー・・・」二人はしばらく見つめあったまま言葉を失ってしまった。
神様って、本当にいたずら好きですね。
この時代にラインとかe-mailがあったら、健作君とリリーさんのその後の運命は、あるいは変わっていたかもしれません。
健作君は、フィールドワークが大好きで、じっとしていることの出来ない性分だったのでしょう。
目の前にあるものに一生懸命で、とても人の気持ちを汲んであげられるような余裕は無かったのかも知れません。
この後、もう少し色々な展開があり、「第1話 泰山木」に時空は続きます。
第1話のラストシーンで健作はアメリカに再び発つことを表明していますが、その後のお話のあらすじは、概次の通りです。
数年後、健作は郭教授からある知らせを受け取ったときは、南アメリカに滞在していてシンガポールに戻ることはかないませんでした。
数年後、健作はシンガポールを訪れると百合の花束を買って、とある場所を尋ねたそうです。
その時に見た夕日は、遠い昔のあの日に見た夕日となんら変わりはありませんでした。
季節はこれから泰山木が芳しく見事な花を咲かせる季節になっていきますね。
一年で一番切なく感じる季節でもあります。
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