第108話 超えれるか超えれないかが問題ではない。やるかやらないかだ。

「さて、突然ですが昴君育成計画を始めたいと思います」


 優心さんが、俺の部屋で突然そんなことを言い出した。


「異議なし」


 バルドさんが、そう言って手を挙げる。

 ってか、あれ?今更だけどなんでみんな俺の部屋に集まっているんだ?


「今、一番伸びしろがあるのは昴だからな」


 かみさまが、そう言って小さくうなずく。


「そうね。

 今や期待のエースだもんね」


 万桜さんまで、俺を褒める。


「そんなことないぞ?」


「まさか自分の受けるダメージを食べていたなんて……

 まさにチート級じゃない?」


 万桜さんが、あっさりと俺の秘密の能力を口にする。


「なんで知っているんだ?」


「だって優心ちゃんのテレパシーであの時の昴君の心の声拡散されてたんだよ?

 気づいてない?」


 俺は静かに優心さんの方を見る。


「てへぺろ」


 これを口にして言う人をはじめてみた。

 そして、この世界でもこの言葉があるんだと思った。

 俺の居た世界とこの世界は、全くの無関係というわけではなさそうだ。

 それより問題なのは、俺の心の声が拡散されていたということだ。


「問題は、昴の能力を封じたヤツをどうするかだな」


「どうするって?」


「そいつを倒せば、昴の能力は数段にあがるはずだ」


 かみさまが、そう答える。


「いや。正しくは力が戻るんだな。

 そいつも昴のこの能力を恐れて力を封じるという暴挙にでたんだろう」


 バルドさんが、そう言うと小さくうなずいた。


「昴強くなるのか?」


 カイが目をキラキラと輝かせている。


「いや、そんなのどうやってそいつを見つけるのかわからないし誰がやったかもわからない」


 俺が、そう言うとバルドさんが更に言葉を付け足す。


「なんとなくだが、誰が昴に呪いをかけたかはわかる」


「ほう?」


 かみさまが、バルドさんの方を見る。


「恐らくテオスだな」


 バルドさんが、そう言うと周りが静かになる。


「なるほど、それでパンドラにテオスは攻め続けているのだな?」


 ゼンさんが、そう言って俺の方を見た。


「どういうことだ?」


 なんとなくわかっていた。

 答えなんてすぐにわかった。


「テオスは、昴。

 お前を殺しにやってきたのだ」


 ゼンさんの声が低く響く。


「ちょっとゼンさん。

 ストレート過ぎますよ」


 一花さんが、そう言うとジョーカーさんが一花さんの方を見て言葉を放った。。


「いや、隠していてもしかたがないだろう。

 昴、これがどういうことかわかるな?」


「ああ……

 ここを出て行けばいいのか?」


 俺が、そう言うとバルドさんが大きな声を出す。


「違う!

 強くなるんだ!

 ここには、お前の追放を願うものなど誰もいない。

 俺たちは家族だ。

 そう言うのを分かち合ってこそが家族だろうが!?」


「だが、テオスは俺を襲ってくるのは事実で……」


「なら、テオスを超えれるだけの力を得ればいい」


 いずみが、そう言って俺の方を見る。


「テオスを超える……

 アンタにも勝てない俺が超えれるのか?」


「超えれるか超えれないかの問題じゃない。

 やるかやらないかの問題です」


「そういうことだ昴。

 お前は強くなれ……

 テオスが、お前を狙うのならお前は狙われるたびに強くなれ。

 今までと同じようにな……」


 バルドさんが、そう言うと俺の肩をポンポンと2回叩いた。


「その為になら余も力を貸すぞ?」


 かみさまが、笑う。

 万桜さんもうなずく。

 その場にいた人たちの優しさが暖かかった。

 温かいと同時に痛かった。

 俺はここに居ちゃダメだ。


 その日の夜遅く。

 俺は、パンドラを去った。

 この土地のことなんてなにも知らない。

 この土地の人なんて誰も知らない。

 俺は静かにその場を去った。

  誰もいない場所へ……

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