第34話 俺は俺

「ご主人様は、ご主人様なんですね」


 ソラが、そう言って俺の手を握りしめる。


「……なんだ?

 もしかして、俺のことを馬鹿にしてるのか?」


「バカにはしていませんよ。

 ただ料理は出来るようになりましょう」


「え?」


「私が、手取り足取り教えますんで!」


 ソラの目が、輝いている。

 俺は、この期待の目を裏切ることは出来なかった。


「わ、わかった……

 よろしく」


 俺は、小さくうなずいた。


「はい!

 朝はもう時間がないので、今日の夜から料理の練習をしましょう」


「ああ……」


 料理か……

 まぁ、料理が出来る方が何かと便利だからな。

 そして、女の子を料理できる男になりたい。

 あ、カニバリズム的な意味ではなくエロい意味でね。

 早く、童貞を卒業したい。

 そんなことを思っているとソラが嬉しそうに笑う。


「はい!

 約束ですよ!」


「……ああ」


「ゆびきりげんまんです!」


 ソラが、そう言って小指を差し出す。


「ああ、ゆびきりげんまん。

 嘘ついたらハリセンボン飲まーす」


 俺が、そう言うとソラが目を丸くして驚いている。


「なんですかそれ?」


 あれ?ゆびきりげんまんって言ったらこれだよな?

 って、異世界だとこんなの言わないのか?


「えっと、ゆびきりげんまんだよ。

 俺の居た世界では、こんなおまじないがあったんだ」


「『俺の居た世界』?」


 ソラが、首を傾げる。

 あれ?俺が異世界から来たことってソラに言ってなかったっけ?


「えっと、俺は異世界から来た人間なんだ」


「へ?」


「えっと……

 詳しい話は夜に話すよ。

 そろそろ仕事に行かないと……」


 俺が、そう言うとソラは小さくうなずいた。


「そうですね。

 夜、ゆっくり話を聞きます」



――夜



 俺は、ベッドの上でソラに自分が異世界から来た話をきちんとした。

 ソラは、驚いていたようだが納得してくれたみたいだった。

 と言うか、ベッドの上での雑談は毎日恒例になってきた気がする。

 エッチな事はなにもなし、ただ小さな雑談をするのみだったけど今日は濃厚な話をした気がする。


「もしかして、嫌いになったか?」


 俺の内心は少し怯えていた。

 異世界から来た人は強い。

 そういうのが定番になっているけれど、俺はそんなに強くはない。


「どうして嫌いになるんです?」


「えっと、俺ってそんなに強くないしな」


「そうですか?

 私の魔法効かなかったじゃないですか。

 それって凄いことだと思いますよ?」


「そうなのか?」


「はい!

 私は、ご主人様のそばにずっといますから!」


「あ、ありがとう」


 俺は、小さくお礼を言った。


「いえいえ、私こそ助けてもらえなければ今頃オークたちの性奴隷にされてましたから……」


 ソラが、小さく笑うと俺の手を握りしめた。


「その辺に関してはわかんないが……

 女の子をあの場所に置いていくのは男じゃないからな」


「そうですか」


「うーん。

 なんか照れるな」


「そうですね」


 俺は、静かに頷いた。


「そろそろ寝るか」


「はい」


 俺は小さく目を閉じた。

 そして、ゆっくりと眠りについた。

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