異形の竈(3)
「ティニー……どうして、ここに……これは、夢……?」
「ゆめじゃない、ゆめじゃないよ! ティニーはちゃんとここにいるよ!!」
完全に意識を取り戻したであろうティファだったが、命がけで逃がしたはずの妹が涙を流し自分の手を握って目の前にいる状況に困惑しきっていた。
ティニーを逃がした後の彼女が一体どうなったのか分からない。しかし、この培養槽を模した魔法具の中に封入されていた事を考えれば、決して丁重に扱われた訳がない。身体に傷や傷跡が何一つ無かったとしても、どれだけの苦痛が彼女を襲ったのか……惨い姿で培養液に浸された被験者達がそれを物語っている。
「夢じゃ、無い……夢じゃないのね!? どうして戻ってきたの? ううん、そんな事より早くここから逃げなきゃ! 早くしないとクアス様達が私達を捕らえに――」
「横やりを入れてしまってすまないが落ち着いてくれないか?」
「えっ……?」
自分が置かれた状況が紛れもない現実だと理解したティファは動揺を露わにし、ティニーを連れて逃げようと立ち上がろうとした。だが、名無に話しかけられたことで彼女の思考に僅かだが空白の時間が入り込む。
「あ、あなたは……」
「俺の名は名無、もう一人はブルーリッドのレラだ。君が言うようにクアスという人物が行動を起こすのにそう時間はないだろう……だからこそ落ち着いて俺の話を聞いてほしい」
「………………わ、分かった」
鬼気迫る状況の中で微塵も冷静さを失っていない名無の声に頭が冷え、心が落ち着いたのか泣いているティニーと心配そうに自分を見ているレラを見て最後に名無の言葉に頷くティファ。
落ち着いたと言うにはほど遠いがティファは騒ぎ立てる事なく口を噤み、名無はここに至るまでの経緯を簡潔に語る。
「俺達はしがない旅人で数日前に、このラウエルにたどり着いた。そして、その日のうちにティニーを保護した。その後、この施設の関係者と思わしき物達に監視を受け戦闘、これを撃退し根本的解決の為に此処へ……大まかな流れはこうなっている」
「……ちょっとだけ時間をちょうだい、ううん……ください」
「ああ」
文章にして三行程度、本来ならその程度で収まるはずのない激動の三日間。
簡潔にまとめたとは言えラウエル到着後の目まぐるしさは一般人では決して体験する事のない殺伐さと緊迫感に蝕まれるものだった事を感じ取ったティファは少しばかりの猶予の中でかみ砕き飲み込んでいった。
「詳しく話をしている時間はない、それでも指示に従ってくれると助かる」
「うん……うん、聞きたい事は沢山あるけど後に……する。今はここから逃げなくちゃ」
「分かっていると思うが俺達は此処の構造に疎い。俺達が侵入してきた経路はまだ使えるか?」
「駄目……この施設の出入りに使われてる魔法具は、それ一つだけでじゃ出たり入ったりできない」
「入る物は入るだけ、出るだけの物は出るだけということか」
「うん、どっちか片方の役割しか出来ないようになってるの。でも……」
ティファは顔を左側に向け右手で名無達がこれから進むべき方向を指し示した。
「この研究棟をでれば外に出るための魔法具が置いてある部屋があっちにあったと思う……あたしが捕まった後で何もしれないなら、だけど」
「心当たりがあるならそれに越した事はない、仮に別の用途に使われる部屋に変わっていても別の箇所を探せば良い」
「でも、防衛に配置されてる魔法騎士達に見つかったらどうするの?」
「俺だけなら何とでもなるが、君も含めて三人を守りながらになる。安全性を最優先する以上、力尽くで排除する事になるだろう。出来るだけ血を流さずに済む様には心がけるが」
「………………」
「……まあ、君達にしてみれば当然の反応か」
自分達を害そうとしている相手に対して名無が配慮を見せた事に対して驚きに目を見開くティファ、名無も名無でもはやこういった反応には手慣れた対応である。
「ナナキお兄ちゃんはすっごくつよいけど、すっごくやさしんだよー! ティファ姉にもあわせてくれたし、レラお姉ちゃんと一緒にティニーをずっとまもってくれたもん」
「ティ、ティニーちゃん……私は何も出来てないですよ?」
「ううん、そんな事ないよ。きれいなおようふくもつくってくれたし、おいしいごはんもつくってくれたもん! だから、ティファ姉もしんぱいしなくてだいじょうぶだよ。ナナキお兄ちゃんもレラお姉ちゃんもいいひとだから!!」
油断も予断も許さない敵地の中、名無の言葉をどう判断したら良いのか戸惑っていたティファに胸の前で握りこぶしを造って声を掛けるティニー。自身の体験も踏まえて名無を怖がっていると判断したのかもしれない。
子供らしい単純なその思考は少しだけ的を外れてしまったが、懸命にティファを励まそうとする姿に呆けていたティファはくすりと笑みを溢した。
「…………そっか、ティニーがそう言うのなら安心かな」
「うん! あんしん、だよ!」
これでティファの名無へ向けていた警戒心が解けた――とまではいかなかったが、ティファの顔から胸に抱いていた不安や不満に疑念、そういった影が薄らいでいった。
「あたしはティニーを信じる、ティニーが信じる貴方達を信じる……だから、貴方達も私を――」
「今は君が頼りだ、道案内を頼む」
「ティニーちゃんの事は任せてください、はぐれないようにしっかり手を握りますから」
ティニーの言葉と表情で名無達が信じても大丈夫だと分かっても、ティファから二人に自分が敵では無いという証を提示できない。そのことに後ろめたさを感じながら彼女は二人に答えを求めたが、ティファの心苦しさを払拭するように名無とレラは事もなげに言葉を返す。
そんな二人の気張らない態度にティファはまたも毒気を抜かれたのか、年相応に眼を何度もぱちくりとさせた。
「あ、ありがとう……」
「礼はいらない、それより急ごう。向こうに先手を打たれる前に」
名無はティファの手をとり座っていた彼女を立ち上がらせる。
「脱出に使える魔法具がある部屋まではどれくらいかかる?」
「ここを出ればティニーの足でもそんなに掛からないところ」
「約四、五分と言ったところか」
時間的猶予を期待できない中では、たった五分でも貴重だ。
だが、手当たり次第動かなくてはいけない事も視野に入れていた身としては、時間的損失がはっきりしている方が気は楽というもの。
「隊列の先頭はティファ、中間はレラとティニー、最後尾は俺で行く」
「あ、あたし戦えるほど強くない」
「戦わなくて良い、君は道案内に集中してくれ。隊列そのものは大きく広げず、戦えない君達を俺の視界に収められるようにするだけだからな」
「そういう事なら……何とか」
「レラ達も大丈夫だな?」
「はい」
「うん!」
名無の指示に従って隊列を作るレラ達、さすがに納得のいく説明があったとは言っても一番前を歩くティファはこわごわとした動きである。しかし、迅速な道案内が必要となる上に挟撃を警戒しつつ殿を務められるだけの実力は彼女にはない。
仮に戦えるだけの実力があっても、病み上がり状態と変わらない彼女では名無は任せる事はなかっただろう。
「準備は良いな……ティファ、案内を」
「……しっかり付いてきてね」
「ああ、敵への対処は任せてくれ」
レラとティニーもティファの言葉に力強く頷き返し、ティファは生き決し脱出への足がかりへと先導を始めるのだった。
◆
――――時間にして十五分、それがティファの案内で施設内を探索した時間である。
想定していた時間を遙かに超えた移動時間は、名無達の脱出が難航している事を物語っていた。
「……ごめんなさい、やっぱり駄目だった」
そして、いたずらに過ぎる時間が、そのまま罪悪感へと置き換わりティファの胸を締め付ける。
「そこまで気を落とす必要はない、君も言っていただろう。自分が捕まった後に何もしていなければ、と」
「そう、だけど……」
「元々そこまで希望的観測に掛けていたわけじゃない。むしろ、こうなるのは当然の流れだ。俺が敵側だったとしても、離反者が知っている重要施設の出入り口をそのままにしておく事はしない。心当たりが全部潰れたからと言って気を落とす必要はないさ」
ティファは彼等を裏切ってティニーを逃がした反逆者だ。
捉えて魔法具の中に閉じ込めたとは言っても、魔法という抗う為の手段を持っている。まだ子供とは言え多勢に無勢でも命を掛ければ幾人か道連れすることが出来る、人的被害をなんとも思わないのでは効果は薄く無駄に命を散らす事になっただろう。
だが、彼女自身もまた貴重な被検体だ。
ティニーが施設外へ逃げ出してしまった事で変わりとなる素体は必要不可欠。後に回収する予定を立てたとしても、それまでの繋ぎとなる物は必要である。
その仮定で彼女の死期が早まっていた可能性もあるが、すぐに命を奪えない事を考えれば動かす事が出来る施設内の機器はすべて移動させるのが道理。
ティファは責任を感じているようだが、何一つ気にするような事はない……が、自分よりもティニーを優先させた気質を考えればティニーの姉だけの事はある。
「他に思い当たる所はあるか?」
「ううん、あたしが覚えてる所は全部行った。あとは自分達で探すしか……」
「なら引き続き道案内を頼む。部屋の内装は変わっていても、施設の構造そのものは変わっていないんだろう?」
「うん、魔法具があったはずの所に無いだけ」
「施設内の構造が変わっていないのなら、このまま道なりに進んでいこう。これまで通った経路に隠し扉の類いもなかった、戻る意味は無い」
重くなった足取りを再び早め先を進む四人。
いったん落ち込んだ事が功を奏したのか、気持ちを切り替えたティファは迅速にかつ慎重に歩を進めていく。ティファと名無の間に挟まれているレラ達も拙いながらも周囲に視線を送り聞き耳を立てている。
戦闘経験の無い三人の頑張りに力を抜きたい所だが、最後方から全方位の警戒に意識を傾ける名無の緊迫感は増す一方だった。
(……誘い込まれているな)
ティファが自ら進んで自分達を、という気配は感じられない。が、結果的には施設の奥へ奥へと向かうことになってしまっている。
ティニーが脱走したことで施設内からラウエルへでる出口専用の物は管理が厳しくなったのは言うまでも無い、必然的に被検体達の眼に届かない場所。彼らの目の届く場所に置かれているはずだ。
だが、それにしても一度も敵と遭遇する事も無いのは否が応でも眼につく。
(戦闘は避けられないのは確かだが、もしかすると総力戦になるかもしれないな。そうなると異形の剣も動員されるだろう)
ラウエル第三区画で刃を交えたあの剣の戦闘能力は凄まじい。油断さえしなければ負ける事は無いだろうが、アレと戦うには場所も状況も以前よりも悪くなっている。
(向こうも可能な限り自陣への被害を抑えたいはず、投入しない事も考えられるが高望みは出来無いな)
ティニーとティファ、二人を本当の意味で守り切るには彼女達が関わっている研究その物を潰さなくてはならない。その為に敵地へと敵地へ攻め込んだが、可能ならあの異形の剣やティファを押し込めていた培養槽型の魔法具についても調べておきたい。
(クアスという人物に会う事でこの事態を収拾できるのならそれに越したことはないが、こことは全く関係の無い場所。全く違う人物の手によって製造された物だとしら……)
ラウエル以外の都市で人体実験をしているのなら、今回以上の被害が出る可能性がある。
何故なら彼等は自らの下した決断に迷うことなく歩き進むことが出来るからだ。
これだけ聞けば良い事のように聞こえるかもしれない……けれど、それは歪んだ善性を突き詰め取り付かれた結果でしかない。
悪と言う字から連想されるのは他者へと向ける暴力、風評、嫌悪による弾圧。様々な形で自分以外の者に向ける負の感情から生まれる非人道的な行動の数々。それらは常に人から人へ、人から魔族へと向けられている。
それら悪に対して様々な感情が生まれ思う感性があるからこそ人は踏みとどまる、理性という善性によって防衛感情を発露させることが出来る。
……だが、歪な善性で思考を染めた者達にはそれが出来ない、悪性という半身を失い物事に対する指標を失った者達にはもはや善悪の定義が存在しない。
善性と悪性、この二つに明確な区切りがあるわけではない。あるのは割合であり境界線。
この二つがあるからこそ何が正しいのか、何が間違っているのか。感情のせめぎ合いをもって答えを選ぶ事が出来る。
しかし、悪性を失ってしまった人間は止まれない哀れな人間に墜ちてしまう。
善悪の定義を失った彼等に止まる選択肢はない、ただ掲げた目的の為だけに歪みきった善性に押されるまま狂気に走り続ける。
その結果が人体実験、そして人を喰らい動く異形の剣。これらが一都市という枠組みで収まっているなら、まだ食い止めることが出来るだろう。けれど、これが世界規模で定着しているのであれば自分だけの手には負えるものではない。
それでも……関わる事が出来る悲劇があるのなら何かせずにはいられない――誰かのためではなく矛盾に突き動かされる己の為に。
(……今は余計な事を考える時じゃない)
良くない事を考え続ければ人は誰もがその深みにはまっていく、それは名無も例外ではない。気を抜けない状況下が長く続けば無意識にでも間を作ろうとするもの。ラウエルに来てから常に気を張っている疲れがここに来て出てきたのだろう。
だが、すでに敵地のど真ん中に足を踏み入れている現状で休む事は許されない。
敵の動向を考えているうちに、いつの間にか自身の行動理由に思考が置き換わってしまっていた事に気づいた名無はうつむき気味な頭を振って気持ちを立て直す。
「――――ここって」
「どうした、ティファ?」
意識を切り替える中、にティファの戸惑いの声が聞こえた名無はすぐに顔を上げる。彼の視線の先には自動的に開く事のない扉の前で止まるティファの姿があった。
「この先はね、ティニーや他の子達と良く遊んだ場所なの。花が沢山咲いてる庭園とか、綺麗な水が溢れる噴水とか、土遊びが出来る砂場とか色々……偽物だけど青い空だって見れた」
「君達にとっての憩いの場所か」
「そうだね、ティニーともいっぱい遊んだよ」
「うん! ティファ姉とたくさんあそんで、ほかの子たちともいっぱいあそんだんだ!!」
「ティニーちゃん達の楽しい思い出が沢山詰まった場所なんですね」
「何も変わってないなら、だけどね」
たった数日前の事ではあるのだろうが、この先に広がっていた幸せだった日々を慈しむように開かない扉を撫でつけるティファ。それでも彼女が浮かべる顔には隠しきれていない憂いが滲み出ていた。
「他の扉は近づくだけで自動的に開いたが、この扉は別の魔法が施されているのか?」
「ううん、ここの扉は大人達じゃないと開けない。私達が勝手に出歩いて研究棟の方に行けない様になってるの」
「そうか……此処を通るには力ずくで開ける以外に方法がなさそうだ。三人は下がってくれ、待ち伏せしているかもしれないからな」
鍵穴らしきものもないのでは技術や能力があってもピッキングは出来ない。
飾り気のない扉の前に立っった名無は扉の前で対輪外者武器を構え、
「はっ!」
名無の一喝と共に振るわれた対輪外者武器がまっさらな扉に無数の亀裂を軌跡を刻み込む、放たれた幾重もの斬撃は四人の行く手を阻んでいた扉をいとも簡単に切り崩した。
「す、凄いね……この扉をこんな簡単に……」
「ティファさんの驚くのも無理ありませんよ、私もナナキさんと出会ってから驚いてばかりですから」
「ねっ、ティニーの言ったとおりでしょ!」
「そ、そうね……」
名無の戦う様を見た事があるレラ達は特に驚く事は無かったが、会ったばかりのティファは名無の強さとレラ達の毅然とした様子に苦笑いを浮かべるのだった。
「無理矢理切り開いてはみたが……中の様子は聞いた物とは大分違うようだ」
待ち伏せを警戒して先に入った名無は既に灯りによって照らされた室内を見て思ったままを口にした。
扉の先に広がっているのは名無達が侵入した部屋と同じ真っ白な部屋。
そこには色とりどりの花は姿形もなく噴水も見当たらない、土の代わりにあるのは僅かな埃だけで偽物の空すらない。あるのはさっきの研究棟と同じだけの広さと、これ見よがしに目的の物であろう魔法具が安置された台座。喜びに笑みを浮かべる子供達の憩いの場から、あからさまで質素な作りに変わり果てた空間だけだった。
見ざるおえない事実に住人だったティファとティニーは表情を曇らせる。
「あの魔法具の所まで移動する、付いてきてくれ」
両手に二刀を携え先陣を切る名無。
待ち伏せはなかったが、扉を破壊した音で向こうにも名無達の居場所が伝わったはず。部屋全体が白いせいで扉が何処に設置されているのかが分からない上に、人数に任せて転移魔法による一斉奇襲で押しつぶしてくるかもしれない。
何があってもすぐ対応できるよう、名無はあらゆる五感を研ぎ澄ませる。
程なくして魔法具の元に辿り着いた名無は、ティファに魔法具が探している物なのかを確かめるよう促した。
「うん……うん! これ、これだよ!」
「間違いないか?」
「間違いない、ほら見て!」
ティファはあと少しで逃げられると両目を輝かせ、地上への脱出路となる魔法具へと触れた。迂闊な行動と止める間もなかったが何も起きることなく、ティファ以外の三人は怪訝な表情を浮かべる。
「……何も起きないが?」
「……あ、そっか。ナナキさん達は使い方分からないから……」
「ティニーもわからないよ、ティファ姉」
「分からなくても大丈夫。この外に出る為の魔法具は同時に二人の魔力を流さないと使えない魔法具って言うだけで、他は何も変わらないものだもの」
「逃亡防止用の処置と行ったところか」
魔法具の効果が多様なように発動条件もまた様々なものだ。
ティファが触れても何の変化も起きなかったのは、二人分の魔力を認識させる必要があったからだろう。
「魔法具の発動までちょっと時間が掛かるからその間は無防備になるし他の魔法も使えなくなるの……あたし達の中で唯一戦えるナナキさんは駄目、魔族のレラさんだと身体に負担が大きいかもしれない。だからあたしとティニーで魔法具を発動させる……良い、ティニー?」
「うん! ティファ姉がにがしてくれたときみたいに、まほーぐにさわってればいいんだよね?」
「ええ……前の時はティニーを守るために何度か魔法を使って魔力が足りなくなった。それで一緒に逃げられなくなったけど、今なら魔力は大丈夫だから全員で逃げられる」
「分かった、なら魔法具の発動は二人に任せる」
「ええ、まかせて! さっ、ティニー。こっちに来てちょうだい」
「うん」
魔法具を発動させる為、ティニーはレラの手を離しティファの元へと駆け寄り魔法具へと手を伸ばす。
「良かった、これでコーディーさん達とも会えますね」
「………………」
彼女の小さな手が魔法具に触れた瞬間から二人はその場を動くことが出来なくなる。
その間に敵が仕掛けてくるかもしれないが名無が自由に動ける分心配ないだろう、かけるティニーの後ろ姿を見ながら胸をなで下ろすレラ。
「触るだけだけど緊張してる?」
「ううん、さわるだけだからだいじょーぶ!」
「ふふっ、頼もしい。じゃあ、ティニー……お願いね」
「うん!」
そして、ティニーがティファの隣へと到着。ティファと喜びの笑みを交わしてティニーの手が魔法具へ――
――がしっ!
触れる直前、ティニーの服の襟を掴み乱暴に引き寄せる名無。何が起こったのかとティニーが声を上げる間もなく、次に瞬間には肉が潰れ骨が砕ける音共にティファが吹き飛び白一色の壁へと激突し土煙を上げる光景が広がる。
「え……ぅ? ナナ……ティファ、姉……??」
「ナナキさん!?」
激突した壁からずり落ち真っ白な床を鮮やかな血で汚すティファの姿に言葉を失うティニー、名無の突然の暴挙に悲鳴を上げるレラ。いったい何が起きたのか、いったい名無が何をしたのか理解し切れていない二人だったが、名無はそんな二人に脇目も振らず対輪外者武器を地に倒れ伏すティファに向けて構えた。
「――立て、死んでいない事は分かっている」
そして、自分が起こした行動の意味も、善悪も自分の背後で慌てふためき呆然とするレラ達に諭すことすらなく冷め切った声で言葉を奏でる名無。
その姿は守るべき者に向けるものではなく、ただ敵として認識した者に見せる決別の証だった。
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