坩堝の糸口(3)


「ナナキお兄ちゃんとコーディーおばさん……だいじょうぶかな?」




「大丈夫ですよ、ナナキさんもコーディーさんも私達に心配させたくないって考えてくれてます。ちゃんと確かめたので心配要りません」




「そっか、ならだいじょうぶだね!」




「ブルーリッドと会えただけでも驚いたたのに……やっぱり心を読めるレラお姉さん達の力って凄いんですね」




「生まれつき持っている力ですし胸を張って自慢できるような物では無いんですけど……でも、褒めてくれてありがとうございますね!」




 名無とコーディーの手合わせが始まる少し前、二人の近くでレラ達が彼等の力試しを見学していた。しかし、見学とは言っても刃を交える名無達の実力は本物。


 手合わせが始まれば、その余波に巻き込まれることは確実。だというのにティニーは自分よりも戦う二人の身を按じ、レラも普段ティニーと話す時と変わらない和らいだ雰囲気のまま受け答えをしている。


 名無との話し合いの場では緊張気味だったフェイも大分慣れてきたのか表情から硬さが抜け、レラ達と普通に話せるようになっていた。


 身の危険が明らかな状況下で何を呑気なことを思っても仕方が無い位置関係ではあるが、すでに名無によって護られている事を知る彼女達からしてみれば心のゆとりを維持する余裕はあるのだ。




 『絶越断界イクシード・リフユート』を廃墟全体に発動させ名無とコーディ、レラとティニーにフェイと二組を隔てるように二つの結界空間が形成されていた。異形の魔法具との戦闘時には攻撃魔法の備えもあったが、今はお互いに視認できる距離にいる。


 能力の発動規模こそ大きいが敵の攻撃を防ぐのでは無く力試しの余波からレラ達を護る為に展開している分負担はすくなく、ここで敵の攻撃が降り注いだとしても発動領域をレラ達に絞り本格的な戦闘に備えれば問題無い。


 他には手合わせの際に上がるであろう戦闘音でティニーとフェイを驚かせず、レラの役目の邪魔にならないよう『振無波断ネアン・ウェイヴ』で騒音への配慮もされている。


 直接的な被害だけで無く間接的な物も一切レラ達に届かないようになっているのだから、三人が落ち着いている様子を見せるのは何もおかしくは無い事だった。




『レラ様、マスター達の模擬戦は既に始まっています。実力の有無を確かめるだけですので時間はそう掛からないと思われます、マスター達が終わる前に私達もフェイ様の聞き取りを終わらせてしまいましょう』




「も、もうです……か……」




 ティニー達と話をしている間に名無達が模擬戦を始めてしまっていた事をマクスウェルに指摘され慌てるレラ。


 少しばかり名無達から視線を逸らして話をしていたのだが、余程視線を外さなければ視界の端で捕らえる事が出来る距離。だと言うのに戦いが始まった気配や音が全く聞こ得なかった――その上、自分の眼に映る二人の斬り合いがレラの驚きに拍車を掛ける。




「うわぁ……」




「ぜ、全然見えない」




 そしてそれは両隣で一緒に見ているティニーとフェイも同じだった。


 三人揃って眼を点にさせているのは言うまでもなく名無とコーディーの模擬戦、それもどちらも大分手を抜いた状態の。


 しかし、表立って戦った事が無い三人の眼では手を抜いているとは言え名無達のやり取りは眼で捕らえきれない。彼女達の眼に見えるのは佇んで大刀を振るう名無と豪快ながらも繊細な槍捌きで応戦するコーディーとの間で鈍色の残光と飛び散る火花が飛び交う。


 真っ向から打ち合う二人の姿は確かに見えてはいるがあくまで姿、武器を振るい合う二人の動きそのものは霞んでいる。


 名無が発動させている『絶越断界』と『振無波断』のお陰で何の余波こそ受けないものの、無音だからこそ二人の応酬の輝きがより苛烈さが際だっていた。




『レラ様、ティニー様、フェイ様。このままですと話をするだけのワタシ達よりもマスター達の方が速く終わってしまいますが……』




「……すみません」




「ご、ごめんなさい」




「も、もうよそ見しません」




 呆気に取られる三人に話を進めるようレラの首元で促すマクスウェル。


 急がなくてはならない訳では無いが、名無達がすぐにレラ達を護れるよう行動を共にしている為に三人の姿は完全に敵側に捕捉されている状態だ。これをレラ達に伝えればすぐにでも行動に移してくれるのだろう。


 けれどそれをしてしまえば名無達がレラ達を護る為だけで無く、再び戦闘になっても前以上に安心して貰えるようにと三人の前で実演して見せている意味が無くなってしまう。たとえレラ達がこの事に気付くこと無く模擬戦に唖然とするだけだとしても、安心感を抱かせる事に繋がる事に違いは無い。




『では粛々と進めていきましょう、レラ様』




「はい、マクスウェルさん」




『フェイ様の個人情報を整理する上での虚偽の有無、そして精神状態の確認をする為に手を握って頂けますか?』




「分かりました……フェイ君、触っても良いでしょうか?」




「大丈夫です、僕もコーディーさん一緒にレラさん達のお手伝いしたいですから!」




「ありがとうございます、フェイ君」




 フェイ本人の前でフェイが嘘をついている可能性があると少しも隠しもしないマクスウェルの物言いは如何なものかと思うものの、フェイは気を悪くすることは無く素直にマクスウェルの言う通りレラに手を差し出しレラも優しく手を添えた。




『現在フェイ様の精神状態は?』




「えっと、ちょっとの間だけ青で後は橙色ですね。お手伝いがちゃんと出来るか不安に思っている、でも頑張りたいってやる気の方が強いから見える色の変化だと思います」




『この状況下でも特に気後れなどはしていないという事ですね、精神状態は良好なようで何よりです。このまま質問を幾つかしていきます、よろしいですねフェイ様?』




「うん、頑張るよ!」




『まず戦闘能力に関して伺います。近接戦闘、またはその手ほどきを受けた経験はありますか? 魔法はどの属性を得意とするのか、属性に関係なく習得している数は?』




「実戦経験も戦い方を教えて貰ったことも無いよ。魔法は母さんから少しだけ、火属性


と風属性が上手だって褒められたから得意なんだと思う。ちゃんとした魔法で覚えてるのは三つくらい……初歩的なものだけど」




『それは戦闘に使用できる物でしょうか?』




「同じ年の子が相手なら多分……でも、ナナキさんやコーディーさんじゃなくても相手が大人じゃあまり意味が無いよ」




『そうですか……』




 数秒待ってレラの返答を待つマクスウェル。


 その僅かな間の意味を理解しているレラは首を縦に振る、それはマクスウェルの質問に対してフェイが嘘偽りの無い答えを返している事を表していた。




『では可能な限りで構いませんので覚えている魔法の属性と効果の解説をお願いします』




「攻撃系の魔法が一つ、防御系が一つ、支援系が一つ。属性は言った順番にちっちゃい火の玉を飛ばす魔法、風の壁で攻撃をそらす魔法、風を身体とか武器とかに纏わせる魔法。最後のは色々な事に使えるって教えて貰ったけど、難しくて発動させるまでに少し時間がかかっちゃうかな」




『仮にマスター達と別行動を取らざる終えなくなった状況で敵との戦闘に陥った場合、フェイ様が尤も効果を見込めると思われる魔法はどれでしょう?』




「あ、あの大人が相手じゃ――」




『戦闘において何が形勢を左右する要因になるか分かりません、取るに足らない些細な物でさえ時には戦況を変え得る大きなきっかけとなり得ます。今は何れ起きるであろう戦いに備えるための準備期間です、アナタが振るえる力が他者と比べ小さい物だとしても殆ど役に立たないからと言って切り捨ててしまうのは愚策。持っている力の大きさでは無く、自身の持てる手札が何なのかを理解し、それをどう活かすべきかを考え抜き、細くか弱くも確実に存在する勝利をどのように引き寄せるかが重要なのです』




「………………」




 自分よりも長く生き様々な経験をしてきた成人が相手では小さな子供達では勝ち目は皆無に近い。その現実に弱腰だったフェイの言葉を遮り淡々と諭すマクスウェル。


 フェイに向けられた一定領域の声音は一件辛辣に聞こえるが、彼に送られるた言葉は決してフェイが無力な――何の力も無い子供では無いのだと鼓舞するものだった。


 魔法という力があるこの世界で人間は例外なく魔法を扱う事が出来き、魔族に関しても何かしろ一芸に優れている。


 それはマクスウェルと名無が居た世界では考えられない平等に与えられた幸福と言っても良いだろう。ただの子供では同じ年の頃である《輪外者》にあらゆる面で圧倒的に劣る、身体能力や異能の差を埋める為の兵器も軍属で無くては手にすることは出来ない。




 《輪外者》に勝る知能があったとしても、その知能を活かすことの出来る環境を用意できなくては宝の持ち腐れだ。フェイ達が居る世界とマクスウェル達が居た世界の子供では絶対的に埋まることの無い力の格差が存在する。


 何も出来ない無力な子供は、その『何か』を為し得る力を身につけるまで親であれ知人であれ法的機関であれ身体も知能も成熟した者達に護ってもらはなくてはならない。だが、こちらの世界であれば己の努力次第で自分の意思を押し通す機会を得られるのだ。




『あの時こうしてさえいれば、そのような後悔が出るのはまだ抗う手段があったと言う何よりの証拠。人間が諦めるという行動を選ぶべき時は、考えられる全ての策を破られ為す統べなく立ち尽くし己が死を待つしかなくなった時で良いのです……フェイ様、ワタシの言いたい事はご理解頂けましたか?』




「………………僕が、僕が戦うしかな無くなったら、使うのは支援系の魔法にする」


『それは何故ですか?』




 小さな拳をつくって自分の本体である機械水晶を真っ直ぐ見据えるフェイの言葉を、そのまま自分が言いたかった事を理解した上での発言と認識したマクスウェルは変わらず質問を投げかける。




「攻撃魔法も防御魔法も通用しないのに戦っても殺されるだけだから、向こうの方が強かったらすぐには殺さないでいたぶると思うから……だから生き延びる為にナナキお兄さんさん達が助けに来てくれるのを信じて少しでも時間をかせげるかもしれない支援魔法にする」




『敵戦力との差、フェイ様の魔法技量と完成度に大きく左右される選択しでは在りますが懸命な判断だと思われます。しかし、敵戦力の目的がこちらの殲滅であった場合はフェイ様に執れる手段は皆無です。であれば――』




「ナナキお兄さん達から絶対はなれないか、そうなる前に生き延びられるよう鍛えてもらう」




『正解です』




 魔法が使えても取れる手段が多くないフェイでは殲滅戦になれば生き残る事は出来ない、ならば必然的に導き出されるのは自身の強化。それを口ごもること無くはっきりと口に出来るだけの認識と覚悟が出来たフェイに柔らかく満足げに光り輝くマクスウェル。




『ですが、現在の状況ではフェイ様の戦力アップを図る時間を確保するのは困難です。今はレラ様達と同じくマスターかコーディー様から離れないよう細心の注意をはらってください』




「うん、それでも離れちゃったとしても頑張るよ!」




『その意気です、では次に魔力総量と体力の確認ですが――』






 ――ズンッ






「きゃっ!」




「ゆらゆらする?」




「じ、地震?」




『いいえ、これは地殻変動による物では無くマスター達の戦闘による物です。正確に言えばコーディー様の魔法による影響が地面の揺れとして現れた事になります、あちらをご覧ください』




 会話に夢中になっていたレラ達は足下が大きく揺れ思わず声をあげるも、マクスウェルは冷静に名無達が居る方を見るよう三人に語りかけた。




「凄い霧、ナナキさん達が見えませんね」




「これも霧も魔法のせいなの?」




『結果だけ言えば水属性魔法と火属性魔法を用いた水蒸気爆発です』




「す、すいじょうき……爆発ですか?」




『はい。水蒸気爆発とは水が非情に温度の高い物質と接触することにより気化されて発生する爆発現象の事で、界面接触型と全体反応型と分類されるのですが』




「す、すみません。『かいめんせっしょく』とか『ぜんたいはんのう』とか、ちょっと分からなくて……」




「きか?」




「二つの属性魔法を使ったことくらいは分かるんだけど、あとは全然わからないよ」




『いえ、お気になさらず。ワタシの説明が不適切でした、申し訳ありません』




 ティニーの出生に関わっているであろう人体実験についてコーディー達に説明した時も大部分を省略して何とか理解させることが出来た、今回の水蒸気爆発はクローン実験などに比べれば分かりやすい物なのだが科学文化の発達が無いこの世界ではちょっとした専門用語でも用語そのものの意味を教えなくてはならない。




『簡単な例えをさせて頂くと食材を調理する際、熱したフライパンに何かの拍子で水滴が落ちた時に激しく弾け飛ぶ現象と同じです』




「それなら何度も見た事があります!」




『それが広範囲で一瞬の間に起きる事を水蒸気爆発と言い、コーディー様が魔法で起こしたのは全体反応型だと思われます』




 マクスウェルの言う全体反応型は密閉空間内の水が熱により急激に気化、膨張することにより密閉していた物質が一気に破砕されて起きる水蒸気爆発である。『』で戦闘区域を分断した事であの場は一種の密閉空間と化し、そこに『』と無詠唱の火属性魔法の組み合わせによって引き起こされたのだ。


 もう一つの界面接触型は水の中に金属溶融体のような熱い細粒物質が落ちると、その周囲に薄い水蒸気の膜が形成される。この状態は粗混合と呼ばれしばらく存在するが、何らかの原因により均衡を保っていた膜が不安定化し、衝撃波とともに破壊される破壊現象を界面接触型の水蒸気爆発と呼ぶのだが……




『コーディー様が放った魔法についての解説は以上です、それにマスター達が一区切りしたよですのでフェイ様に関しての質問はマスター達と合流した後にしましょう』




 『』越しに見える霧が少しずつ晴れ、自分達の元へ近づいてくる名無達をみて話を終わらせるマクスウェル。レラ達が気付かないよう自然に話を切りあげたのは彼女の成りの優しさだろう。


 そんな彼女の気遣いを後押しするように『』で隔てた領域を解除して合流を果たす名無とコーディー。




「こっちは問題無く終わったが、レラ達の方は話は済んだか?」




「そ、それが……」




『申し訳ありません、コーディー様の魔法で起きた現象について説明をしていたのですが思いの外長引いてしまいました』




「さっきの水蒸気爆発の事か、確かに俺も驚かされた」




「すいじょうきばくはつ……なんだそりゃ? あたしが使ったのは水と火の魔法を掛け合わせた特異魔法だぞ」




「それを俺とマクスウェルは独自に呼んでいるだけだ」




「そうかい、まあ特異魔法は魔法の腕に思いっきり左右されるくらい曖昧なもんだからな。主人殿達が分かり易いように覚えてるってなら別に良いか」




「ああ、特に意味が有るわけじゃ無い。気にしないでくれ」




 コーディーの言う『特異魔法』とは火、水、風、土、光、闇の六属性の中から二属性以上の魔法を掛け合わた魔法の呼称であり、コーディーが使用したのは火と水の二属性を混成した『爆発』属性の魔法である。


 相反する属性を重ねその反発力をそのまま攻撃へと転化した物なのだが、爆発属性には火と土属性による粉塵爆発と言う組み合わせもあるのだ。


 粉塵爆発は大気中に浮遊している可燃性の粉塵が燃焼し、燃焼が絶え間なく継続して伝播していくことで起きる爆発現象だ。粉塵爆発が起きるためには一定濃度の粉塵、着火元、酸素とこの三つが揃う必要がある。


 着火元と酸素だけで無く粉塵に関しても石灰粉末、小麦粉や砂糖などの食品やアルミに有無などの金属製の粉など。一般的に可燃物や危険物としての認識が低い物でも爆発を引き起こす事を考えれば水蒸気爆発よりも若干条件に縛られている面があるが粉塵爆発も魔法による再現は充分に可能だ。




 魔法的にかいしゃくすれば火と水、火と土と共通するのは火属性を使用しているという点。異なるのは火属性と掛け合わせるもう一属性と引き起こされる現象の過程。だが、どちらの掛け合わせであっても科学的見識がないこの世界の常識で導き出されるのは『どちらも同じような爆発』という結果。コーディーの魔法の技量によって左右される、分かり易いように覚えていると言う発言も、三つの属性の内で相手がどれが得意とするかで水蒸気爆発に対処するのか粉塵爆発として対処すべきかで魔法のみでの対応であれば行動が大きく変わるという事を示唆している。


 そして特異魔法に対する対応で尤も気に掛けるべきは、二属性以上の魔法を掛け合わせた物が『特異魔法』である事を忘れてはならないということ。


 三属性、四属性……使い手次第では六属性全てを掛け合わせ、完全に物理現象の法則を超えた《輪外者》の持つ異能と何ら変わらぬ魔法を造りあげる者も存在するかも知れないのだから。




「それで確認が終わっていない項目は?」




『魔力総量と体力についてです』




「魔力総量は手持ちの魔法を何回使えるかで考えるとして……体力に関しては実際に身体を動かしている所を見てみないと判断しかねるな」




 能力で傷は治した物の体力までは回復出来ない。


 引き取った直後にコーディー達が使う衣服や装備を探しただけでなく、食糧の調達などにも付き合わせたのだ。


 コーディーは問題無いのは模擬戦で確認済み。フェイも特に疲れた様子は見せていないが小さな子供である事に代わりはない、ティニーと同じくあまり無理をさせないよう気を付け無ければならないだろう。




「よし、フェイの体力面に関してはこの後の廃墟区画捜索で計ろうと思う」




「廃墟区画を調べるんですか?」




「この廃墟は人の営みが無くなってかなりの時間が経っている、こう言った廃棄された街は裏の事情を抱えた者達の根城に打って付けなんだ。ざっと見た限り人が居た痕跡は無かったが、魔法で巧妙に隠されている可能性もある」




「確かにこの区画も結構広そうだからな、普通に歩き回るだけでも体力の有る無しが分かるだろうさ。それに手がかりを探しながらあたし達の観察眼がどんなもんかも分かって丁度良いってところか」




「そこまで試そうとしたわけじゃないんだが……手がかりが見つからなくても咎める気はない」




「皆まで言うな、さっきもこのやり取りしたから分かってる」




 まだ自分の高圧的な態度に引っ張られているのだろうかと苦い表情を浮かべる名無、そんな彼を励ますようにコーディーは笑い声を上げ名無の背中を豪快な音を立てて叩いた。そこに恐れや遠慮と言った感情は無く、気心が知れた中のような陽気な雰囲気が漂っている。


 レラ達もコーディーの主従を超えた快活な様につられように笑みを溢した。




「すぐに捜し物をするんですか?」




「いや、少し休憩を挟んでから始めよう。休憩がてら戦闘になった場合の取り決め、隔離された場合の集合場所も話し合いたい」




「なら、このままご飯にしませんか? 朝ご飯を食べてから時間も経ってますし、コーディーさんとフェイ君も、その、お腹が空いてると思うので」




「おお、そりゃ有りがたい! いやー、身ぐるみだけじゃ無くて真面な飯まで食わせてくれるなんて至れり尽くせりだ。お前もそう思うだろう、坊主!」




「う、うん。こんなに良くしてくれる人なんて普通いないもん……お礼にならないと思うけど僕に出来る事があったら何でも言ってください、一生懸命お手伝いするよ!!」




 レラの提案に眼に見えて活力を取り戻したコーディーとフェイは眼を輝かせる。奴隷館でも食事は用意されていたのだろうが、二人の反応を見る限り粗末な物を出されていたに違いない。




「ティニーもお手伝いする!」




「それじゃ沢山作りましょう、材料も一杯買いましたからおかわりも心配しなくても良いように!」




「自信満々じゃないか、こりゃ今から楽しみだね」




「はい、楽しみにしててください!」




 袖をまくりながら間借りしている廃墟へと戻るレラと後に付いてくティニー達。料理となれば名無は戦力外、ここから先はレラの独壇場だ。ティニーとフェイも丸々一品造り上げるだけの経験はないだろうが、きっと二人の補助もあり見た目からして大食漢のコーディーを満足させてやれる物を作ってくれるだろう。




(……料理に関して戦力外の身としては警戒を怠らないようするしかないか)




 天蓋からの監視という事実が名無の頭から離れる事は無いが、活気づくレラ達の後ろ姿自然と笑みを溢す名無。慣れない態度に気負い襲撃に警戒したりと休む間もない名無の心をほぐす緩和剤として四人の活気ある後ろ姿は、これ以上無い効果を発揮していたのだった。




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