03-04 坩堝の糸口(1)
人の営みの消えて久しく星の光だけが輝く空を映し出す天蓋の下に広がる廃墟。
未だ活気が続く区域と同じ材料で作られながら廃れた家々を形づくる灰色の煉瓦には亀裂が入り、外壁に備えられた窓の硝子は一つ残らず割れ落ちている。灯りの無い通りを雑草が飾り街路の隅や裏路地には土埃やゴミが溜まっている。
もはや人の営みどころか野犬や野ねずみすらおらず、微かな風だけが行き交うその様は思わず身震いを感じてしまう程である……しかし、そんな薄ら寒い暗闇に包まれる朽ちた景観に淡い光が浮かんでいた。
「………………眠れたようだな」
「はい、悪い夢も……見ていないみたいです」
「そうか」
暗闇に微かな明るさを灯す魔具の傍で名無はレラの言葉に安堵の笑みを溢す。
彼の視線の先にはレラとレラの膝を枕に寝息を立てるティニーの姿があった、三人がいたのはティニーを保護してすぐに身を隠した空屋。空を映し出す天蓋が一種の監視装置である事が分かった今では最早身を隠す場所としては最適とは程遠い。
だが何処にいても敵の監視の目が行き届く以上、整備された区画だろうと捨て去られた廃墟群だろうと違いは無かった。
「でも、このままだとティニーちゃんが倒れちゃいます。身体だけじゃ無くて心も」
「その前に何とか決着を付けたいと俺も思っているが……」
旅をしている名無とレラにとって活動拠点が第二区画の宿屋から第三区画の廃墟に変わったことは然程問題ではない。
しかし、ティニーの環境の変化は目まぐるしすぎた。
命からがらに研究施設から逃れ、名無達に保護され宿でちゃんとした休息を得られたとは言えそれは一時の事。数時間前間には敵勢力から襲撃を受け廃墟に身を寄せる事になった。その際に止まっていた宿屋は半壊してしまったが幸運にも手荷物は回収できた、そのお陰で思いの外余裕のある野宿で済んでいるのだが……肉体年齢が十歳からそこらの子供には負担が大き過ぎる。
この状況下でも取り乱さずにいる精神力も賞賛に値するが、その身を狙われているという事実がティニーの心を確実に削り取っている。レラの言う様に時間的猶予は少ない、名無も早期解決を目指しているのだが肝心の相手がそれをさせてくれないのが痛手だった。
ティニーを狙っているにしては詰めが甘い、自分達自身もしくは所持している装備を奪うつもりなら相手側にはデメリットしか無い……向こうの目的がハッキリしない事には思い切った行動に移ることは難しい。
だが、また手を拱いていてはそれこそティニーが持たない。レラとティニーに不快な思いをさせる事になっても此処で行動を起こさなければ。
「俺が考えている以上に成果は出ないかも知れないが、明日ティニーがいた施設に関する情報を集める為に関連がありそうな場所を回ろうと思う。中には危険性が高い場所も含まれているんだが…………君とティニーにも付いてきてもらいたい」
僅かな逡巡の後、はっきりと二人の同行を求める名無。
てっきり廃墟で身を隠しているように言われると思っていたレラは名無の言葉に驚きを隠せなかった。しかし、巫山戯ているわけでもからかって居るわけでもない名無の表情にレラは落ち着きを取り戻す。
「ナナキさんと一緒に居られるのは凄く心強いので賛成です……でも、邪魔になりませんか?」
「その心配はない、俺も君達が近くにいてくれた方が守りやすいからな。むしろ俺の方こそ二人に無理を強いる事になる。それでも付いてきてもらいたい、勿論可能な限り配慮はするつもりだ」
「いえ、さっきも言った通りナナキさんと一緒なら安心です。けど、ティニーちゃんがどうするかまでは……」
「行きたくないと言われた時はティニーに気付かれない様に魔法で眠らせて連れて行こうと思っている、昼間の一件の事も考えれば別行動を取るのはまずい」
「……ティニーちゃんには可哀想なことをしてしまいますけど仕方ありませんね」
沈痛な面持ちで自分の膝の上で眠るティニーの頭を撫でるレラ。
その様子からはティニーを危険から遠ざけたいと思っている事がひしひしと伝わってくる。
「それで……明日は何を?」
「今日のような表立った戦闘はこちらから起こすつもりは無い、基本的にはいつも通りの情報収集だ。だが対象は一般人ではなく裏側の人間、悪事に手を染めている人間や奴隷を扱っている輩達になるな」
「ど……奴隷ですか」
やることは代わり映えしないとは言え、レラやティニーの前で出して良い話題では無い。しかし、ティニーを追う大元である人間達を突き止めるには情報収集の対象を暗く後ろめたい者達に眼を向ける必要がある。
「レラも知っていると思うがその大半は魔族だ、だが人間達の中にも少なからず奴隷に身を落としている者がいるはずだ。希望的観測が過ぎるかも知れないが、もしかしたらティニーに繋がる情報が得られるかも知れない」
奴隷は主に魔法騎士に敗れた魔族達が身を落としてしまっている。だが、少なからず弱肉強食の人間社会の中で弱者とならざる終えなくなった者達も奴隷として扱われている。このラウエルには彼等を商品として売買している店がある、第二区画までの道行きでそれらしい店を名無は眼にしていた。
ティニーが何らかの実験の為に生み出され消耗品として命を落とす所だったのは今朝の段階でハッキリとした、実験に使う素体を生み出したと言うなら必ずその素体となった者達がいるはずだ。
奴隷達を使っての人体実験……例え奴隷を使わず関係者の中から選び実験体を準備したとしても、非人道的な研究に携わっている事から研究施設内に軟禁。もしくは行動範囲を制限されれば普段とは違った行動を取らざる終えなくなる。そうなれば小さな変化だったとしても周囲の人間の中にその変化に気付いている者達がいてもおかしくは無い。
『奴隷を扱っていると思しき店舗があるのは第二区画と第五区画、赤外線センサーによる感知だけですが第二区画は主に人間を第五区画は魔族を扱っているようです。第二区画の方がティニー様に関する情報を得られる可能性が大きいですが、結果が芳しくなければ第五区画の店舗にも向かうべきかと』
「で、でも…………第五区画の方は魔族の奴隷が多いんですよね」
「だが、彼等を管理しているのは間違いなく人間だ。区画が違うとは言っても同じ街に根付いている店だ、裏で情報の交換をしている可能性もある……辛いと思うが耐えて欲しい」
「……頑張ります」
同族が虐げられる光景を想像してしまうレラ。しかし、悲哀が滲む瞳の裡には現実を受け止めようという揺るがない決心が見て取れた。
『レラ様の承諾も得られ話も纏まりましたので明日の日程と緊急時の対処を話し合いましょう』
「レラは休まなくて大丈夫か? 時間を掛けて話し合うことになるが」
「心配ありません、少しでもティニーちゃんの負担を減らせるならへっちゃらです」
「そうか、あまり気負いしすぎないようにな」
「はい」
『休息の時間を考えると起床までの時間は多くないことですし早速始めましょう。まずは再び異形の魔法具と遭遇、戦闘に入った場合の動きについてですが――』
レラが明日を乗り切るための鋭気を養うためにも颯爽と話し合うべき問題を提示していくマクスウェル。名無とレラも眠っているティニーを起こさないよう声を潜め、可能な限りの対応策を話し合っていく。
こうして二人と一機の夜はふけていった、閑かな物々しさを孕んで……
◆
――ラウエル第二区画
名無と異形の剣が残した戦いの傷痕が色濃く残っている通りと区域は厳重に封鎖され、一般人の通行は禁止されていたが区画内を行き交う人の流れは滞ること無く流れ活気を保っている。
保っているとは言っても少なからず陰りは隠しきれず、立ち入り区域近隣に住まう住人や商いをしている者達の顔色は優れない。だが、此処で店を閉めないのは商いで得た利益が日々の暮らしを支える糧というだけでなく、一商売人としての意地から来ているのだろう。
そんな身の危険を覚悟して店を開く内の一つ、人通りの多い街路を離れ人目を避けるように居を構える店内に名無達はいた。
「…………いらっしゃいませ、本日のご用件は?」
名無達が居たのは第二区画内で奴隷の売買をしている店である。昨夜、話し合われた計画に沿って訪れていた。
この店は戦闘の余波を逃れ戦闘そのものは遠目でしか見られない位置にある。しかし、その余波だけでどれだけ常人の域を超えた戦いが繰り広げられていたのかを理解してしまったのだろう。
戦いに巻き込まれることも無く、被害を被った訳でも無い。それでも名無達を出迎えた窓口担当者の男の顔は引きつってしまっていた。
「ここで扱っている奴隷達を見たい、条件に合う者がいれば連れて行くつもりだが、第二区画以上への滞在許可とは関係なく金銭のやり取りは必要か?」
「いいえ、奴隷売買に関しても滞在中の支払い義務は生じません。ですが無料でお求め頂けるのは奴隷の上限は二人までになっております、それ以上となりますと買い取り頂くことになりますが宜しいでしょうか?」
「連れを無駄に増やすつもりは無いが使えそうな奴隷が居れば支払いも考えておく」
「ありがとうございます……では、あちらへどうぞ」
名無の期待できる返答に滞りなく役割を果たせたと安堵の表情を浮かべ、店員は店の奥にある両開きの扉へ手を向ける。
「あちらが奴隷達を展示している大部屋になります。中に売買担当者が居ますので何か奴隷に関して不明な点があればお聞きください。必ずご満足頂ける回答が得られるでしょう」
「分かった……着いてこい、レラ」
「承知しました、ご主人様」
深々と頭を下げる店員に背を向け奴隷部屋と向かう名無とレラ。
遂に奴隷と対峙するとあってレラの表情は硬い――が、あくまで表情であって名無の命令に素気なく答えを返したのはレラの声音を模倣したマクスウェルである。表情と声の質が一致していないのは不味いが、店員も名無を前にして戦々恐々としているため気付かれることは無かった事に内心ほっとする名無。
レラも感情を出さないよう努めているようだが、どうしても精神的負担は大きいようだ。
人間の醜悪な一面を知っていても、それ以上の過酷さが待ち受けて居るであろう扉を眼にしては感情が漏れ出てしまっても咎めることは出来ない。
(ティニーは眠っているとは言え手早く用件を済ませる必要があるのは変わらないか)
出来る事ならティニーも起きている状態でいて欲しかったが、昨日の今日で心に負担を掛けるのは良くない。『拡縮扱納グレーセ・トリート』で小さくしたティニーをレラに運んで貰っている。
ティニーが眼を覚ます前に強制的な睡眠施す『』を使ったが、この店に辿り着く間にレラからティニーの心色が良くないと言われる事はなかった。少なくても悪夢に苛まされていないのなら心配事は一つ減った。
名無は胸を撫で下ろしつつも硬い表情を崩さず歩を進め両開きの扉を開く。
「………………」
「……っ」
開かれた扉の向こうに広がる光景に、名無は眉を寄せレラは小さく息を飲んだ。
「いらっしゃいませ、どのような奴隷をお捜しですか?」
入り口のすぐ傍で佇んでいた上質な黒のタキシードに身を包んだ店員が左腕を自身の腰に回し大きくゆっくりと右腕を振って頭を下げる。その優雅で有りながら芝居がかった一礼に名無達は言葉を失ったのでは決して無い。
口を噤ませたのは二人の眼前に並ぶ大小様々な檻の中に閉じ込められた奴隷達の姿。
奴隷達の四肢の自由を奪う鋼鉄製の枷、魔法で抵抗出来ないよう魔力を封じる魔法具『』が彼等の行動を制限している。だが、名無達の視線が釘付けになっているのは奴隷達が身に纏う衣服――ティニーが来ていた物と寸分違わない作りの病衣だ。
(行方不明になっても問題にならない奴隷を使っての実験と考えていたが、この奴隷館そのものも組みしているのか)
自分達がティニーや異形の剣に関して探ろうとしている事は筒抜けだろう。
罠も警戒していたが今の所そう言った気配は感じない、ティニーと全くの無関係と言う訳では無いのだろうがそちらとの繋がりが弱い可能性は充分にある。敢えて自分達を泳がせている線も考えられる……どちらにせよ下手な探りを入れるより堂々と問い詰めた方が反応が見やすい。
「年齢、性別は問わない。使えそうな奴が居れば連れて行く、聞きたい事があれば聞くがそれ以外は黙っていろ」
「承知しました」
不要な情報提供はレラを苦しめる事になることを見越し、名無は店員に釘を刺して横を通り過ぎた。
「………………」
「……っ……」
「ひっ…………」
名無の視線が自分に向けられる度に肩を振るわせる者、声を漏らす者、檻の奧へ奧へと逃げる者。反応はそれぞれだが同じなのは自分を買いに来たであろう相手に対する恐怖、檻から出た後に続く苛烈な扱いに怯える様は男も女も関係ないものだった。
(同じ人間に対してもここまでする、ここまで出来てしまうんだ……第五区画の魔族中心の奴隷館はもっと悲惨な事になっているのだろうな。何とか此処で終わらせたいが……)
魔族が相手なら力の有無だけで物事を図る人間は何処までも非情に――、いや何の感慨も無く只の道具として扱うだろう。それこそ安価な事務用品から根の張る軍事物資に向ける価値観と同じように。
(情報収集とは言え奴隷館に来た以上はそれらしく振る舞わなくては)
自分に何の関わりも無いとは言え奴隷に身を落としてしまった彼等に重い複雑な感情を向けながらも、名無は自分達の後に続く店員に口を開く。
「此処に居る奴隷達の最年少と最年長、あとは主に何が出来るものを集めた?」
「若い奴隷ですと九歳、年がいっているものでも三十代前半です。主に労働用と観賞用に適したモノを集めています。もし拷訊用、閨用をお求めであれば第五区画の店舗がより良い品質で揃えております」
「もう少し年齢がいった者はいないのか?」
「その場合ですと既に買い手が付いたモノになります、その場合ですと私達は交渉に関わることは出来ません。年齢が高いモノがどうしても必要であるのであれば、お客様ご自身で他の買い主様と直接交渉をお願いします。まだ生きているモノがあれば、になりますが」
「そうなると要らない手間が掛かるか……」
奴隷として価値があるのは年齢は十歳前後から三十代前半……。
観賞用は外見、労働力は体力的な面から見てそう判断されているのだろう。それは他の目的で集められている奴隷達も同じに違いない、魔族と違って魔法を使える人間であれば年齢的な衰えを補填出来るとは思うが昼夜問わず過酷な労働などを強いられては耐えられると断言するのは難しい。
だが、それにしても若すぎる。
少しでも情報を手に入れたいこちらとしては年齢を重ねた人物が好ましかった。年を重ねていると言う事は、それだけで多くの情報を蓄えている可能性が高い。しかし、このラウエルではそれだけ高齢の奴隷は珍しい――と言うより居ないのだろう。
この点に関しては予想外という程の事では無かったが、得られる情報の幅が狭くなったのも確かだ……名無は奴隷を吟味するフリを続けながら会話を続ける。
「交渉するかどうかは後で考えるが、まだ生きている奴隷がいる場所や所有者に心当たりは?」
「確実とはいきませんが第一区画に住まう騎士階級の方々であれば物持ちが良いかと。第三区画以降に買い手がいないわけではありませんが、重労働で壊れるか奪われるかされていると思われますので」
「…………そうか、分かった」
こちらの行動が筒抜けである以上は店員が口にする情報を鵜呑みにするつもりは無い……が、店員の話しぶりが酷く不快だ。必要な情報だけに留めようとしても湯水のようこちらの心象を荒立たせる言葉を並べてくる。
これが一種の情報漏洩対策だとしたら大した物だが、そうではない事がハッキリと分かってしまうのだからたちが悪い。
情報収集では無く制圧戦だったのなら……只でさえ重い足取りがどんどん重いもへと変わっていく名無。
「――たぃ――」
名無の思考が鈍重になりかけた名無だったが、そんな彼の沈鬱な考えに割り込む様に掠れた声があがった。
「今の声は……」
名無は進む足を早め声の主を探そうと耳を澄ます。
小さく、掠れたそれは気を張らなくては聞き逃してしまう程に小さい。けれど、繰り返し緩徐に上がる声を捉えた名無はある檻の前で足を止めた。
「……い……たぃ…………いたぃよぉ…………」
(声の主はこの子か)
枯渇した声音をあげていたのはティニーとそう変わらない年頃の癖のある茶色い髪が目立つ少年。
痛みを訴える声が偽りでは無いとやせ細った身体のあちこちに小さくない傷が幾つもある、中には血管に達しているものもあるのか病衣に血が滲んでいる。
商品棚としての役割もになっている部屋の掃除は行き届いているが、それでも衛生的な面で考えれば少々不衛生だろう。本来なら魔法で治してしまえる傷であるが、『』で魔力を封じられている以上そう易々と治療できない状態だ。
大の大人でも長い間痛みを耐えるには堪える傷、年端もいかない子供が瞼をきつく閉じ涙を流し苦言を溢してしまっても仕方が無い事である。
「――おい、あんた。良かったらそいつの傷を治してやってくれないかい」
そんな傷の痛みに涙する少年を思っての言葉が名無達の後ろから上がった。
「……この子供の保護者か?」
「自分で言うのもあれだが、あたしが母親じゃそこ坊主が気の毒だろ?」
あははっ、とこの場に到底そぐわない快活な笑い声が上がる。
こんな状況で無ければ自虐はどうかと言いたい所だったが、強ち間違ってもいないかと声を飲み込む名無。
傷ついた少年の為に声を上げたのは同じく奴隷に身を落とした肩で切りそろえられた金髪の女性。
しかし、名無の眼に映るのは自虐の通り少年の母親と思えるようなお淑やかな人物では無かった。
魔力を封じられ身動きすら取れそうに無いと言うのに、今にも檻を壊して外に出てきかねない筋骨隆々な巨体。顔つきも下手な男よりもずっと男らしい深い堀が目立つ強面……髪の色云々どころでは無く、根本的に血が通っていない事を全面に押し出すその風貌は奴隷という暗い立場にまったくあてはまっていない。
奴隷と言うよりも歴戦の戦士と言った方が違和感が無い……、それでもこの場に居るのだから彼女もなにかしろの理由があるのだろう。
「また貴様か、許可無く喋るなと言っているだろう!!」
「そりゃ無理だ、こんな陰気くさいとこで黙ってると息が詰まっちまう。まあ、黙らせたいってんなら猿轡でも噛ませな」
「良いだろう、その減らず口今すぐ黙らせ――」
「黙るのはお前だ、今は俺が話している」
「し、しかしですね……」
「黙れ、その耳が飾りじゃないならな」
名無のその一言が何を意味しているのか理解した店員は喉を引きつらせ無言で首肯する事で承諾したことを示した。
このまま口を開いていれば耳を切り落とされるか千切られるか。もしくは聴覚そのものを壊されるか……そのどれかを突きつけられると顔を青くしているが、言うまでもなく名無にそこまでする気は無い。
しかし、金髪の女性のお陰で話の流れを折ることは出来たと名無は痛みに泣く少年と彼女に視線を送る。
「……見たところお前は労働用のようだが元魔法騎士か?」
「ああ、此処とは別の所で働いてたんだが上司が気にくわなくて突っかかったらこの様さ。もっとも負けたのは上司の上司にだけどな」
「その身の上話は長くなりそうだな、此処を出た後に聞かせて貰う」
「何だ、あたしを買うのかい?」
「ああ、それとそこで泣いている子供もだ。その図体で元魔法騎士なら緊急時の肉壁くらいにはなる、それに子供の方も労働用なのだろう。従順な雑用がもう一人欲しかったところだ」
「どうやらどぎつい雇用主に当たっちまったか、こりゃ本当に黙っときゃ良かったよ」
「今更だな、悪いがお前達二人にはやって貰うことが多い……覚悟しておいて貰おうか」
額に手を当てて顔を覆う巨躯の女性。
そんな彼女に身から出た錆だと皮肉の言葉を口にする名無の口元は、その場にいた誰もが身震いしてしまう冷たい微笑みで飾られていた。
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