11人は動き出す


 その後に話を始めたのは、君途だった。

「2時間経ったみたいだし、そろそろ館を探索しようかなって思ってるんだけど……」

 後村はそれに賛成する。

「僕もそう思う。 何もしないよりは、まだマシだと思うんだ」

 その周辺も、ほとんどが君途の提案に賛成した。


 こうして、11人の探索は始まった。

 私は最後に部屋を出た。

 その際はスケッチブックの紙も見せなかった。

 まず私は、最初にいた場所の近くにあった部屋を確認しようとした。

 しかし、部屋には鍵が掛かっていた。

 私は、紙に文字を書く。

『?』

 その鍵を探すために、私は別の所へと歩き始めた。


 何が起こるかも分からない中で、無表情で歩き続ける。

 その途中の通路で―――――。

 何かの音が聞こえてきた。

 その音を聞いた私は、紙に先程と同じ文字を書く。

『?』

 そして、その場で立ち止まる。

 しばらくすると、私の前には音の正体であろう機械が現れる。

 その機械は人間のような姿をしている。

 私はそれを見て、紙に文字を書いては見せる。

『御名前は?』

 すると、機械は音を立てて首を横に振り、どこからか何かの刃を取り出した。

 私は逃げようとも走ろうともせず、ただひたすら立ち尽くすのみ。

 機械は特に怯えるような事もなく立っているだけの私を、右腕の部分の刃物で切ろうとした。

 そしてその刃は、私の右腕に"当たる"。

『?』

 明らかに可笑しい。

 本物の刃物なら、私は既に腕を切断されているはずである。

 精巧に作られた、偽物なのだろうか。

 今回は死にこそしなかったが、ワンダードリーマーの事なので、次に遭遇した時は命は無いと判断していい。

 実態については私も知らないが、これが人によって態度が異なる人物と断定する根拠にはなったのは確か。

 実物の刃物を取り出す事もなく、私は機械を無視して廊下を歩き続ける。


 だが、どこまで歩いても悲鳴は聞こえず、これといったヒントも見当たらない。

 それでも、私は探偵である。

 何かの手がかりの一つは出てくるはずだと信じた。

 捜索の途中で1階に降りると、館の出入り口らしきものを発見したが、その扉には大量の南京錠が掛かっている。

 報告するだけでも十分なので、別の場所を探索する事に。

 その途中の廊下で、他の10人のうちの1人とすれ違った。

「あれは……?」

 低く、聞こえづらい声。

 寝癖のように跳ねた毛も混じった焦げ茶色の髪。

 城藤はその男の姿を見ると、紙に文字を書き始めた。

「やっぱり、城藤か?」

 男が問い掛けると、私は彼の視線の先に文字を書いた紙を見せた。

『正解です』

『それで、貴方は』

「おいおい……そっちから聞いておいて忘れたのかよ」

 名前を訊いた事は、2時間ほど前の出来事だったが、ほとんど思い出せていなかった。

『頭の隅に、置いておくべきでした』

 「もう1度言う。 俺は志崎康太しざきこうただ」

『分かりました』

「それで、城藤は何か見つけたのか?」

『変な機械なら見かけました』

「機械? あのプレス機以外にもいたのか?」

『しばらくお待ちください』

 志崎に機械の事を訊かれたので、私はそのイメージになる絵を紙に描いた。

 その時間、45秒程度―――――。

 どうやら私が筆談で培ったものは、字を書くスピードだけではなかったらしい。

「おいおい、数十秒でこれかよ……。 イラストでもネットに投稿していた方が良いだろ?」

『言われた事はあります』

『ですが、私はあくまでも探偵なので』

 彼は驚いていたようだが、絵自体は顔や影が描かれていなかったり白黒だったりととても簡素なもの。

 私はそれを素早く描いていただけで、一芸術作品として見ても評価できるほどのものではない。

「そうなのか。 じゃあな」

『また次の機会に』

 志崎とは、先程のやり取りだけで別れた。

 出入口や入れなかった部屋の鍵の事も伝えようとしていたが、忘れていた。

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