だる絡み (桜)

 地球でのある日。

 曲木家の一家全員が別の地域に泊まりに出て行っていた。普段から叶のところに入り浸っている私は、この日、暇を持て余していた。


 アナズムと関わるようになる前は、こう言った時間はひたすら勉強していた。叶に追いつくために。

 あるいは、点字付きの本を読むとか。特殊なメガネで無理やり視力を得ている盲(めくら)だった私ができる娯楽は本当に少なかった。ゲームや漫画も満足に嗜めないもの。でもやれることが限定されていたからこそ、暇ということはなかった。


 でも、こうして目が見えるようになって何をしたらいいか逆にわからなくなっている。

 勉強はアナズムでやればいいし、点字で書かれた本は今はもう楽しむことはできない。ゲームをやろうにも叶と一緒が今までの大前提だったから一人で遊べる気がしない。普通の本も漫画も、あと動画とかも慣れてないから中々手を出しづらい。


 娯楽に溢れてるのに、溢れた感じがしていない。やっぱり私は叶に依存して生きている。

 

 仕方がないのでベッドに潜り直して不貞寝でもしようかと思いついたその時、私の部屋の戸をノックする音が聞こえた。この叩き方は明らかにお姉ちゃんだ。


 ……そうだった。お姉ちゃんも私と同時に相方がいなくなった場合、だる絡みしに来るんだった。

 お姉ちゃんのだる絡みは本気でうざいから返事しようか迷ったけれど暇には勝てなかったので、私は戸を開けてしまった。



「なに、お姉ちゃん」

「桜ぁ、かまってぇ〜」

「やっぱり……。ほら、来て」

「えへへ、悪いね」



 部屋の中に向かい入れてあげると、お姉ちゃんは嬉しそうにニコニコと笑い始めた。自分の実姉ながら美人すぎてドキッとする。

 お姉ちゃんは私のベッドに腰をかけると、私に隣に来るよう端を叩いて催促した。



「はいはい。……で、なにがしたいの?」

「いやー、昨日から有夢達いないから美少女成分が足りなくって。桜で補給しに来たんだよっ」



 そう言ってお姉ちゃんは私を横から抱きしめた。わざと胸を通るように腕が通され、肩あたりに顔を押し付けてくる。そしてお姉ちゃん自身の胸が私の腕を圧迫する。

 私に甘えつつ微量のセクハラもこなすのは流石お姉ちゃんと言わざるを得ない。

 ……あゆにぃは男性なんじゃないかっていうツッコミは野暮だからやらないことにする。



「桜は今日も美少女らしくいい匂い。おっぱいも大きいし完のペキだね!」

「私とお姉ちゃんが使ってる石鹸は全部同じだし、胸はおんなじくらいでしょ。こういうのって言葉のブーメランって言うんじゃない?」

「ほほう、計らずに自画自賛になってしまってたか……」



 そう言いながらお姉ちゃんはその身をさらに私に預けてくる。身長と年齢の問題で私の方が軽いから、お姉ちゃんが少し重く感じる。



「お姉ちゃんは甘えん坊だね」

「え? そうかな。有夢に対してはそうかもだけど」

「そうだよ。あゆにぃに常日頃甘えて、あゆにぃが居なかったら私に甘えて。リルちゃんに甘えることもあれば、翔さんに甘えることもあるし。私達のグループの中で誰かに甘えてると思うよ」



 甘えてるというか、甘え上手というか。もちろん悪い意味じゃなくてみんなに愛を振りまくのがうまいと言えるのかな。

 あゆにぃも愛想を振りまくのが上手だけど、あの人は孤独でも戦っていける力はあるから、お姉ちゃんとはちょっと違うのかな。



「たしかにそうかもね。……嫌かな?」

「んー、お姉ちゃんは可愛いし、嫌だって思う人はほとんどいないと思うけど」

「そっか。じゃあ桜はどう? ていうか私のこと好き?」



 お姉ちゃんは私から顔を離しながら期待しているような眼を向けてきた。そんなの決まってる。なにも、私の目が見えない頃に支え続けてくれたのは叶だけじゃない。お姉ちゃんだって立派にそのうちの一人。死ぬほど感謝している。



「うん、大好きだよ」

「……! 桜が超デレた……!」

「そんな大袈裟な。普段だってそんなにツンツンしてないじゃない」

「よし、じゃあそれを態度で示してみよっか!」



 お姉ちゃんは私から少し離れ、両手を大きく広げた。抱きついてこいっていうことなんだろう。仕方ないから付き合ってあげようかな。

 私も両手を軽めに広げて、お姉ちゃんに抱きついた。近づいた瞬間にふわっといい匂いが漂う。これがさっきお姉ちゃんが私で体験したやつなのだろうか。



「むぎゅ」

「ほ、ほんとに来た! こんなに桜が甘えてきてくれるんだもの、今日はもっとセクハラしても許されるかな……?」

「今すぐ離れてもいいんだよ」

「ダメー、逃さないー」



 お姉ちゃんは嬉しそうに微笑みながら私のことを抱きしめ返した。側からみたら中学生と高校生の姉妹がなにやってるんだと思われるかもしれないけど、まあ、それでもいいかな。



「やっぱり美少女を抱きしめてる時は幸せを感じるわ」

「それならお姉ちゃん、自分で自分抱きしめるのじゃダメなの?」

「そんな虚しい……」

「ふふ、冗談だよ」



 ふと、お姉ちゃんが自分で自分の欲求を満たしていた時のことを思い出す。自分の髪を束ねて、あゆにぃに姿を似せて、鏡の前で病的な笑みを浮かべていたあの時のことを。

 もう……そうはならないよね、二度と。








#####

今回は特に連絡はありません!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る