天才の醜悪面 (叶・桜)

「ねぇ、委員長ってさ……ちょっと顔が良くておっぱいが大きいからって叶君を独り占めっていうか」

「あー、わかる。ウザいよね。叶君はみんなの物なのにね」

「それな」

「なんとかしなくちゃねー」



 そんな話をする女子二人に近づく影。

 その影に彼女らは気がついた。



「うわっ、本物の叶君じゃん……」

「めっちゃキュートでカッコいい……」



 恋は盲目。彼女らは知らない。叶に今の話が全て聞こえており、彼の心の中はマグマのように煮えたぎっていることを。

 叶は顔だけ平静を保ったまま『生徒会室』と書かれた部屋の戸を叩く。中からは生徒会の面々と桜が出てきた。



「叶、ごめん! もうちょっとで話し合い終わるから!」

「思ったより話が難航してるんだね」

「よかったらいつもみたいに、意見をくれませんか? 成上くん」



 そう言ったのは風紀委員長だった。彼以外にも、ほぼ全員の生徒会役員が期待の眼差しで叶のことを見る。役員担当の教員ですらも部屋の奥で手を合わせて軽く頭を下げてる始末だった。



「いいよ。じゃあお邪魔しよう」



_____

___

_



「てな、感じでどうだろう」

「相変わらずすごいな……」

「いつも助けてもらってばっかりねぇ……」

「これも曲木さんのおかげだな!」

「今年も、私たちが生徒会の役目を終えるまでこうなのかなぁ」



 叶は今回生徒会が進めている話の企画書を一読し、すぐにホワイトボードに誰しもが納得するような案を書いてみせた。無論、満場一致でその案は受け入れられたようだ。

 叶は桜の肩を掴み、自分の元に引き寄せる。



「それじゃあ、桜は連れて帰りますので」

「えーっと、成上君。風紀委員長として念のため言っておきますが……」

「まあ、そこはどうか多目に見てよ。じゃ、桜いこ」

「う、うん! みんなお疲れ様でした!」



 叶は桜の手を掴み生徒会室から出た。

 廊下を渡り帰宅するために玄関へ向かう途中、二人は先ほどの女子二名と遭遇。女子達は叶と桜を見て怪訝な表情を浮かべたが、叶は彼女達に向かって軽く微笑んだ。



「え、いま笑いかけて……!?」

「うそ、まじやば……!」



 しかしその次の瞬間、叶は急に桜の身体をより自分の近くに引き寄せ、前髪をかき揚げ、そのおでこにキスをした。



「わ、わぁ……!? ち、ちょっとかにゃた……! みんなの見てる前だよ!?」

「はは、ごめん。我慢できなくてつい」

「よくまあ、風紀委員長に注意されてすぐに……」

「顔は嬉しそうだけどな」

「むぅ……ほ、ほら帰るよ!」



 そう言って慌てて背をつける桜。彼女にバレないよう、叶は静かに後ろを振り返ると、二人の女子をこれでもかと睨みつけた。

 


「……聞こえてたみたいだね」

「い、いつからだろ……」

「わかんない、わかんないけど……あの完璧っていう叶君のあの表情……そうなると、噂は本当なのかな……?」

「どっちにしろ私たちは嫌われちゃったか……」

「はぁあ……」



 学校を後にした叶と桜はいつものように、非常に密着して共に下校する。付き合う前、桜が盲目だった頃から続けているこの登下校。特別であり普段であるこの時間。

 その時間に、水を差す者が現れた。



「ま、まて! ちくしょう!」

「はぁはぁ……くそっ!」

「え、な、なに! きゃっ!?」



 突然、息を切らしながら駆けてきた男が叶から桜をひっぺがし、首元にナイフを当てた。どこからどう見ても桜は人質にされている。

 叶は突然の出来事に一瞬思考が止まったが、すぐに脳内をフル回転させて状況を把握し始めた。

 追いかけてきていた警察は人質となった桜を見て足を止める。



「はぁはぁ……こ、このガキが、どうなってもいいのか!? ち、近寄ったら殺すぞ! おい、小僧」

「……はい?」

「て、てめぇ、彼氏だろ? この女を殺されたくなきゃ何とかしろ!」

「……わかりました」

「か、かにゃた!?」

「実は俺、ここら辺の地域のことは詳しいんです。警察に見つからず、抜け出せるルートを教えてあげます」

「へ、へへ、こいつはついてるぜ。おいサツども! 俺はもうしばらく逃げさせてもらうぜ! おら、案内しやがれ!」

「はい……」



 叶は駆け出し、男はその跡を桜を乱暴に引っ張りながらついていく。

 警察の目から逃れた瞬間、叶は気が付かれないように瞬間移動を行い、全く別の場所に自分含む三人揃って強制転移した。



「お、おお!? こんな場所しらねぇ……マジで裏道が……って、あれ? いない!?」



 同じく瞬間移動で叶は桜をすでに救い出しており、抱きしめていた。アナズムの力を使ったことを瞬時に理解した桜は、大人しく叶に抱きしめられる。



「桜、先に警察の人たちのもとに戻って、俺が代わりに人質になったって言ってくれない? あの人やっつけたらすぐに戻るから」

「う、うん!」

「じゃね」

「え、え……? お、おいっ!?」



 状況がさっぱり飲めこめない男は、とりあえずいつのまにが自分から解放されていた人質を取り返そうと動こうとする。

 しかし、まるで金縛りに遭ったかのように動けなくなっていた。



「な、何だよこれ……」

「貴方は中々間が悪い。俺の虫の居所が悪い時に、こんなことをしでかすとは」

「こ、これ全部お前が……!? な、何なんなだよおまえ、超能力者か!?」

「ああ、そうだよ」



 叶はパチリと指の鳴らした。その瞬間、男の見ている風景がすべて真っ赤に染まる。不安になる赤。悪夢を見ている気分になっていた。



「俺の一番大切な人……」

「あ、あのガキのことか!」

「他に誰がいる。俺の一番大切な人に直接手を出した。直接傷をつけようとした。……百回殺す程度じゃ償えない罪だ」

「は、はぁ……なん、なんなんだよ、なんなんだよ!」

「俺? 俺は騎士だよ。彼女を守る騎士。その本性は悪魔だけどね」

「ち、近寄るんじゃねぇ……! くるな、くる……くるなああああああああ!」



 それからしばらく経って男は警察に捕まった。代わりに人質になった叶が強く、逆にのしてしまったということで、火野警部の口添えもあり簡単に話が片付いた。

 男の毛が明らかに白く染まっており、歳を何十年と重ねたような容姿になっていることには、なぜか誰も気が付かず……。




#####


次の投稿は未定です。たぶん2週間以内には出します。ヘタをすれば来週です。


〜雑談〜

Levelmaker本編ではどちらかというと曲木姉妹の方が自分の相方に対する愛が重く見られるよう書いてきましたが、成上兄弟も実はトントンぐらいです。……重いという意味で。

今回の話は、自分の愛の重さを自覚した上で、誰にも悟られず、口にも出さず、その自覚にのっとって行動してる叶の日常を書いてみました。ぶっちゃけこの子は桜のためなら平気で人を殺すでしょう。



話は変わりますが、私、実は別サイトですでに新作の投稿を始めてみました。カクヨムやなろうにも来月になるまでの間に投稿する予定なので楽しみにしておいてください!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る